0、栗栖川視点
病室の白いカーテンが揺れるのを、ただ無心で眺めていた。
つまらない毎日。
薬と注射。
発作。
退院できたと思ったら入院して、友達もいない。
12年間、僕はなぜ生きているのか良く分からなかった。
そんな時、ふと窓の外にいる彼女を見つけた。
車椅子を押しながら、明るく笑う彼女を。
太陽みたいに暖かくて、眩しくて。
胸が熱くなった。
まるで惹き付けられるみたいに、僕は彼女から目を離せずにいた。
「君、こんなところで何してるの?」
病院の屋上で身を乗り出そうとした僕に、声をかけてきたのはあの時の彼女だった。
「ここで、死のうと思って」
真剣にそう言ったのに、笑い飛ばされた。
それは僕がみとれたあの時の笑顔じゃなくて。
軽蔑的な笑いだった。
「それで、どうして?」
「生まれたときから心臓が弱くて、欠陥品だから。こんな心臓要らないし、こんな人生要らないから」
ゲームみたいに、死んでリセットして。
やり直そうと思った。
今度は、なに不自由ない普通の身体で生まれてきたかった。
そう答えたら今度は、胸ぐらを掴まれた。
「まともに生きてみてもないくせに、なに悟ったようなこといってんの?」
「・・・」
僕は、何も言えなかった。
彼女の声が、震えていて。今にも泣きそうで。
「どうせ死ぬなら、死ぬ気で何か一個、やり遂げてみなさいよ!」
彼女はそう怒鳴ると、泣いた。
僕のために、泣いてくれる人を初めて見た。
小さな声で、ごめんなさいと謝ると彼女は泣いた顔をくしゃっとさせて笑ってくれた。
(あ・・・)
胸が、熱くて苦しくて。
だけど、発作の時みたいな苦しさではなかった。
「・・・お姉ちゃん、名前は?」
帰ろうとする彼女を引き留めようと僕は声をかけてた。
「百花。───都築、百花よ。」
振り返った百花お姉ちゃんが、微笑んで答えた。
「じゃあ僕は、お姉ちゃんと結婚する」
そう言ったらまた笑ってくれた。
「私と?」
「うん。死ぬ気でやり遂げてみせるから」
僕はドキドキしながら、人生初めての告白をした。すると彼女は引き返してきて、僕の前に座り目線を合わせると言った。
「ありがとう」
その笑顔は、困っていたけれど。
だけど僕には、嬉しそうにも見えたんだ。