表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

0、栗栖川視点

病室の白いカーテンが揺れるのを、ただ無心で眺めていた。


つまらない毎日。

薬と注射。

発作。


退院できたと思ったら入院して、友達もいない。


12年間、僕はなぜ生きているのか良く分からなかった。


そんな時、ふと窓の外にいる彼女を見つけた。


車椅子を押しながら、明るく笑う彼女を。


太陽みたいに暖かくて、眩しくて。

胸が熱くなった。


まるで惹き付けられるみたいに、僕は彼女から目を離せずにいた。


「君、こんなところで何してるの?」


病院の屋上で身を乗り出そうとした僕に、声をかけてきたのはあの時の彼女だった。


「ここで、死のうと思って」


真剣にそう言ったのに、笑い飛ばされた。

それは僕がみとれたあの時の笑顔じゃなくて。

軽蔑的な笑いだった。 


「それで、どうして?」

「生まれたときから心臓が弱くて、欠陥品だから。こんな心臓要らないし、こんな人生要らないから」


ゲームみたいに、死んでリセットして。

やり直そうと思った。

今度は、なに不自由ない普通の身体で生まれてきたかった。


そう答えたら今度は、胸ぐらを掴まれた。


「まともに生きてみてもないくせに、なに悟ったようなこといってんの?」

「・・・」

僕は、何も言えなかった。


彼女の声が、震えていて。今にも泣きそうで。


「どうせ死ぬなら、死ぬ気で何か一個、やり遂げてみなさいよ!」


彼女はそう怒鳴ると、泣いた。

僕のために、泣いてくれる人を初めて見た。

小さな声で、ごめんなさいと謝ると彼女は泣いた顔をくしゃっとさせて笑ってくれた。


(あ・・・)


胸が、熱くて苦しくて。

だけど、発作の時みたいな苦しさではなかった。



「・・・お姉ちゃん、名前は?」

帰ろうとする彼女を引き留めようと僕は声をかけてた。

「百花。───都築、百花よ。」

振り返った百花お姉ちゃんが、微笑んで答えた。


「じゃあ僕は、お姉ちゃんと結婚する」

そう言ったらまた笑ってくれた。

「私と?」

「うん。死ぬ気でやり遂げてみせるから」

僕はドキドキしながら、人生初めての告白をした。すると彼女は引き返してきて、僕の前に座り目線を合わせると言った。


「ありがとう」


その笑顔は、困っていたけれど。

だけど僕には、嬉しそうにも見えたんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ