4、
「栗栖川くんは彼女とか、いるのぉ?」
(佐藤ちゃん、積極的だなぁ。)
新入社員歓迎会の席で、ほろ酔いの佐藤ちゃんが栗栖川くんの隣をキープしている。私はそれを少し離れたところで主任やら部長にお酌しながら見ていた。
佐藤ちゃんは今日、かわいらしいフリルのスカート。大抵の男子社員は振り返るほどの可愛さだ。
と言っても彼女は気に入らない人には男女問わず無愛想なのは社内でもすでに有名で、他の男子社員はうかつに近寄れないのだが。
「彼女ですか?いないですよ」
飲めないと言っていた割に佐藤ちゃんとほぼ同じペースでビールを飲んでいる栗栖川くん。無理してないのか、心配だ。
「へぇ、そうなんだ!じゃあ──」
「ずっと、片想い中で」
まるでタイミングを合わせたかのように、佐藤ちゃんの言葉を遮った。佐藤ちゃんの笑顔が固まり、ひきつるのがここからでも分かった。
「へ、へぇ。・・・一途なんだねぇ」
そう言ってグラスに半分あったビールを一気に飲み干す佐藤ちゃん。
(あぁ、佐藤ちゃん・・・。)
「都築さん、栗栖川くんの仕事ぶりはどう?」
佐藤ちゃんのフォローに行こうとしたところで、部長に話しかけられ私はその場に座り直す。
「あ、はい。覚えが早くて助かっています。」
「そう。彼はなぜか経理部に来たがってね。まぁうちとしては助かったんだけど」
話がまるで入ってこない。
そんなことより、佐藤ちゃんを慰めてあげたいのに。
適当に相槌を打つこと15分、ようやくトイレに立った部長から解放されて佐藤ちゃんのところへ向かう。
「──いないよ。うちの部署は神崎さんだけであとはみなさん彼氏募集中なんですから。」
すでに出来上がっていた佐藤ちゃんが、栗栖川くんと話をしているのが聞こえてきた。
「え、じゃあ都築さんも?」
「ああ、ごめん。都築先輩は違うから。」
「やっぱり彼氏が・・・?」
「都築先輩はね、ずっと想ってるひとがいるから」
「それって───」
二人の会話を遮るつもりはなかった。
だけど、話の内容があまりにも───聞かれたくなかったもので。
「佐藤ちゃん。」
──声をかけれずにいられなかった。
「あ、先輩───ごめんなさい、余計なこと」
私の声に振り返った佐藤ちゃんが、青ざめた。そしてそれ以上は何も言わなかった。
その隣で栗栖川くんが、少し悲しそうに眉を寄せて私を見つめていた。
「都築さんが想ってる人って、」
「──聞いてどうするの?」
冷たい声でそう問い掛けると彼は押し黙った。
黙らせた、と言っても過言ではない。
入社してから何度も、感じてた。彼は、私のことを知りたがる。
知って欲しくないことを、聞いてくる。
それはどうしてなのか、私には理解できなかった。
ただ、不快だった。