3、
「いいなぁ、都築先輩ばっかり栗栖川くんと話できてー」
ブーブー文句を言っているのは佐藤美鈴ちゃん。
去年私がOJTを担当した後輩だ。
「いや、仕事だからね・・・」
「とか言いながら思い切りプライベートな話してたじゃないですかぁ」
───昼休みは社員食堂を利用している。
たまに朝時間があったときはお弁当作るけど、だいたい一人か、佐藤ちゃんとここで食べている。
いやそれは私ではなくて、向こうが勝手にね・・・──と言おうとした所で、不貞腐れていた佐藤ちゃんの目が輝いた。視線の先は私の斜め後ろに向けられているので、後ろから彼が来たんだろうと容易に考えられた。
「あ!栗栖川くん、歓迎会いつがいい?」
・・・さっきより声が高いよ、佐藤ちゃん。
「ありがとうございます。僕はいつでも大丈夫です」
ここいいですか?と私の隣にB定食のトレーを置きながら栗栖川くんが言った。どうぞ、と言う前に座っていたから私は黙って自分のA定食に箸を伸ばした。
「栗栖川くんて、お酒強いのー?」
「いえ、それが全然弱くて・・・ダメなんです」
「え、意外!ワインとか似合うのに!」
目の前の佐藤ちゃんがきゃぴきゃぴして、なんだか恋する乙女みたいで可愛い。
私は二人の会話を盗み聞きながら微笑ましく思っていた。
「僕、小さい頃心臓弱くて入院したりしたんです。そのせいか体が弱くてアルコール受け付けないんですよ」
「そーなんだぁ・・・」
それを聞いて佐藤ちゃんが少し気の毒そうに声のトーンを落とした。私もそれは意外で、つい栗栖川くんの姿を横目で見てしまった。でも意外と彼は気にしていないようで、ヘラッと笑っていた。
「なんか、すみません」
「ううん、私こそごめんね。」
佐藤ちゃんが栗栖川くんに顔を近づけて励ますように言った。
「ていうか呑めなくても大丈夫だよ、栗栖川くんと楽しく過ごすのが第一なんだから!」
「佐藤先輩、優しいですね。ありがとうございます」
うん。うん。佐藤ちゃんはいい子だ。可愛いし、癒しよね。
佐藤ちゃんといい雰囲気になってきたし、ある程度食べ終わっていたので席を立とうと箸を置いてお茶を飲もうとした時だった。
「それって、都築さんもいらっしゃいますよね?」
「う、うん。迷惑でなければ」
お茶を飲んでいたらむせていただろうなと思いながら、私は焦って答えた。
びっくりした・・・。
まさか私に話し掛けてくるとは。
「まったくもう!どうして都築先輩はいつもそんな控えめなんですかぁ?全員参加に決まってるでしょぉ?」
「そう、だよね。ごめん」
佐藤ちゃんに苦笑いでそう答えた私を栗栖川くんがじっと見つめていたなんて、このときの私は知るはずがなかった。