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忘却の彼方  作者: 上ノ空
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魔法使い-3

ソフィアに言われて自分の部屋に荷物を置いて戻って来るとさっきまで座っていた席に金髪の女の子が座っていた。

「よし、やっと来たな」

そう言うとソフィアは自分の横にある椅子を軽く叩いた。座れという意味だろうか。

「すみません」

僕は足早に指定された椅子へと向かった。

「彼は今日から私の仕事を手伝いに来てくれた…」

「アルフ・ハートリーです」

魔法の修行をしに来たとは言えないからだろう、僕はシェリルの説明に追従して名乗った。

「ルーシーです」

僕と同い年位だろうか。ルーシーと名乗った彼女は丁寧に答えてくれた。

「それで、相談というのはどんな内容だい?」

ソフィアが質問するとルーシーは居住まいを正した。

「最近、夜中になると家の周りに不審な人影が見えるんです」

「ただの衛兵の巡回とは違うのかい?」

「違うと思います…上手く言えないのですが、なんというか家の中を探っているかの様にぐるぐると家の周りをうろついているんです」

思い出すのも辛いのだろう、ルーシーは体を抱くようにして震えている。

「それは怪しいな」

「はい…だからお願いです!犯人を捕まえて下さい!」

ルーシーの声は泣き叫んでいるようだった。

「残念だがそれは無理な話だ。犯人を捕まえたいなら私なんかよりも騎士団に頼んだ方がいい」

「騎士団にはもうお願いしたんです!ですが…不審な人物が夜に出歩いているという報告がない上に今は人員を割けないとかで…」

ルーシーは泣きながらも説明を続ける。

「あの…人員を割けないってなんでですかね?」

僕はソフィアに小声で質問すると彼女は君には後で話さないといけないことが多そうだなと言って顔をしかめた。

「一つ質問があるんだが、君が相談した騎士はなんて名前だった?」

「ルーカス卿です」

「ルーカスか、そうだろうと思ったよ」

「知り合いですか?」

僕が聞くとソフィアは思い出すのも嫌なのか苦い顔をしている。

「ルーカスは騎士でありながら、騎士道精神を持ち合わせてないんだよ」

どうやらソフィアは依頼を断った理由はルーカスとやらの性格が原因と言いたいらしい。

「私の知り合いが騎士団にいるから、彼らに頼んでおこう」

「本当ですか!?」

「あぁ、最後に君の家の場所を教えてくれ」

詳しく話を聞き終えるとソフィアはルーシーを家に帰した。

「あの…」

僕はルーシーが帰ると同時にソフィアに声をかけた。

「分かっているよ、聞きたい事はなんだ」

「魔法について、それとこの国の騎士団についてです」

聞きたい事はもっと色々あったけれど、今までの会話で僕はこの二点について致命的な程無知だという事が分かった。

「両方を一から説明するとなると話が長くなるな…今回はとりあえず要点だけ説明しよう」

「はい」

「そうだな…まずはさっき質問があった騎士団が人員を割けない理由について話そうか」

「ルーカスっていう騎士に頼んだからじゃないんですか?」

「まぁ、それもあるがね…この国は今危険な状態でね。迂闊に騎士を動かせないんだよ」

「危険な状態…?」

「サクソン人の侵攻に魔女狩り、ドルイドとの抗争…騎士が全然足りないんだよ」

「ドルイド…?」

「今は過激派の魔法使いとでも思ってくれ。主に騎士団と争っているのはこのドルイドと呼ばれている魔法使いたちだ」

なるほど、敵が多くて首が回らないといったところだろうか。

「それと夜になるとここは基本的に外出禁止でね、衛兵も巡回していたりする。外に出歩いていたら一発で捕まるよ」

「それで人員を割けないんですね」

既に衛兵を配置している以上、不審な人物がいれば分かるということだろう。彼女はおそらくな、というと少し考え始めた。

「ソフィアさん?」

彼女は急に黙り混んでしまった。

「衛兵がいるのに気付かないのはおかしいな」

「え?」

突然当たり前の事を言い出したため思わず驚いてしまう。

「それはさっきソフィアさんが説明してくれたじゃないですか」

「違う。普通なら気付くはずなんだ、ルーシーの話を聞く限りでは家の周りをうろついているんだぞ?」

たしかに、そんな怪しい動きをしている人間が見付からないとは思えない。そんな魔法みたいな事は…

「魔法…」

一つの可能性が脳裏をよぎる。

「とりあえず、騎士団に行こう」

彼女はそう言うと勢いよく立ち上がった。

「アル、残念だが君の記念すべき最初の仕事は面倒な事になりそうだ」

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