魔法使い-2
「なるほどね」
「え?」
私の返事が意外だったのか少年は驚いている。
「ようやく君がここに来た理由が分かってきたよ」
「信じるんですか?」
「あぁ、だからなにか魔法を使ってくれ」
「な…正気ですか?魔法を使えることがバレたら処刑されるんですよ!?」
少年は信じられないと言ったような表情で怒りだした。
「もちろん分かっているよ。でもここには私と君しかいないだろう?バレなければ裁判にかけられることも処刑されることもない」
「だからって…」
「そうだな…とりあえずあの本棚の上にある壺でも割ってみてくれ」
私は話を遮って命令する。
「でも…」
「思いっきり割っていいぞ、気にするな」
再び話を遮ると反論しても無駄だと悟ったのか少年は椅子から立ち上がり、深呼吸してから右手を本棚の方へ向けた。少年は目を閉じて意識を集中している。
「…っ!!」
少年は目を開けると勢いよく右手を突きだした。
すると大きな音を立てて壺が割れた。
本棚と共に。
「あ…す、すみません」
少年は顔を青くして謝ってきた。
「大丈夫だよ、ほとんど予想通りだからね」
本棚ごと壊れるのは予想通りだった。
◇◇◇◇◇◇
やってしまった。半ば無理矢理だったとは言え本棚ごと壊してしまうなんて。
「あ…す、すみません」
真っ白になりかけた頭をどうにか振り絞って謝罪をする。
「大丈夫だ、ほとんど予想通りだからね。」
「え?」
帰ってきた言葉は全く想像していないもので、半ば反射的に返事をしてしまった。
「よし、今度は私の番だな」
彼女はそう言うと粉々になった本棚に視線を向けた。瞬間、彼女の目が赤く光った様に見えた。
「えっ…?」
それと同時に本棚と壺が綺麗に直っていく。
「魔法を使えるんですか!?」
あまりの驚きに声が大きくなってしまう。彼女はニヤリと笑うと
「そうだよ。そして、恐らくこれが君がここに来させられた理由だ」
まったく…ルナも面倒なドッキリを仕掛けてきたものだ、なんてため息をついている。
「そんな…それなら最初に教えてくれてもいいじゃないですか」
僕はすっかり疲れてしまい、落ちるように椅子に座った。
「すまないね、念には念をっていうやつだよ。君が言った通り魔法使いだなんてバレたら処刑だからね」
彼女は可笑しそうに笑っている。全くだ…魔法使いを根絶しようとしている王の国に、しかもその王のお膝元である城下町でのうのうと生活している魔法使いがいるとは思わなかった。
「魔法使いなのに何でこんな所に住んでいるんですか?」
「そんなの、隠れるなら近ければ近いほどいいからに決まっているだろ」
なんて彼女は真顔で言いきった。
「まぁ、なんにせよ君は魔法の扱いが不馴れの様だからね。ルナは君に魔法の扱いを教わらせようと考えたんだろう。これで手紙に事情が書かれていなかった理由もハッキリした。最近は検閲が厳しいと聞く」
彼女は合点がいったというように話している。たしかに僕は魔法を上手く扱えない。だが、それにしても僕にシェリルが魔法使いだと教えてくれてもよかったはずだ。モヤモヤと考えていると彼女は微笑みながら手を伸ばしてきた。
「それじゃあこれからよろしく、えーと…」
「向こうではアルって呼ばれてました」
僕はそう言って手を握った。
「よろしく、アル。私の事は好きに呼んで構わないよ。」
彼女が言い終わると同時にドンドン、と扉を叩く音がした。
「それと…今日から早速修行の一環として仕事を手伝ってもらうよ」
彼女はニヤリと笑った。




