第一話 「噴水広場から」
足音が二つ聞こえる。
石畳の上を革靴が歩く音だ。
その二つの音は秋の空に乾いて響く。
古びた西洋の町並みのような路地の一角にある噴水広場に二人の少女がいた。
正面からみて右側に髪を結っている少女と
正面から見て左側に髪を結っている少女。
二人の顔はよく似ている。
「冷華ちゃんはやっぱりすごいよね!」
右側に髪を結っている少女が突然口をひらいた。
少し驚いた様子で左側に髪を結っている少女“冷華”が応えた。
「そんなことないよ。」
「でも、優秀賞取ったのは冷華ちゃんでしょ?」
右側に髪を結った少女が大きな声で誇らしげに話す。
冷華は少し切ない表情を浮かべて口を開く。
「だから、そんなことないって。夕華の方がすごいし、うらやましいよ。」
続ける。
「だって私と違って夕華はみんなに応援されて、夕華のピアノは素敵って言われてるもん。」
“夕華”と呼ばれた右側に髪を結った少女は少し戸惑いの表情を浮かべた。
「・・・それは・・・でも、私はダメダメだよ。ノミネートさえされなかったもん。」
冗談っぽく膨れてみせた夕華は冷華をじーっと見つめた。
二人はしばらくの間いたずらっぽく笑うのだった。
雲間に隠れていた月が顔を覗かせた時だ。
黒板を爪で引っかくような不快な音が二人の耳に入った。
二人はとっさに両手で耳を塞いだ。だが、塞いだはずの耳にはっきりと声が届く。
「御出でなさい、御出でなさい。月を上弦と下弦で分かつもの」
「御出でなさい、御出でなさい。黒いダイヤを闇と光を分かつもの」
出所の知れない声を聞いた二人は顔を合わせ、そして鳴り止まない不快な音に倒れた。