レシピ1
みんな、静粛に。
こらこら。そこのトロルは、スライムを虐めちゃだめだ。
今度やったら、永遠の時の中を彷徨うことになるから注意するように。
さて今日は、おいしいどんぶりの作り方を教えるぞ。
用意するものは、人の魂2玉。
これを手に入れるのは簡単だな。そこらへんの魔界スーパーで何時でも売ってる。丸くてつやのあるやつを選ぶこと。
それから、人の欲望100グラム。
なお、これはカチカチにこり固まったやつじゃなくて、しなやかで弾力のある質のいいものを選ぶこと。スーパーでも売ってるが、できればそこらへんの旅の商人でも捕まえて、「魂と引き換えにお前の願いをなんでもかなえてやろう」とかなんとか言って、やわやわと肥大化した所をかすめ取ったものがいい。それが、最も美味だと言われている。
あとは人の不幸ひとさじ。
定番のこの味。すばらしいな。これも勿論スーパーで売っているが、やっぱり自分でとってきた方がいい。人の不幸の味で、料理の良しあしが決まるって言っても過言じゃないからな。いや、マジで。
まあ、基本的にはこの3つと、ホカホカの白いご飯さえあればどんぶりは出来上がるんだが…隠し味に勇者の不幸なんてあったら、なおいいな。うん。とてもいい。
そんなんあったら、世界一のどんぶりが出来上がるぞ?
まあ、わがはいさえまだ勇者の不幸は手に入れたことがないから、いくら上級魔物のみんなでも、まだ持ってるやつはいないだろうけどな。わははは。
…ここだけの話、先代魔王によれば、勇者の不幸は甘いらしい。一般人の不幸みたいに、しょうゆ味じゃあなくて。
ああ、勇者の不幸欲しいなあ…!魔界には甘いものあんまりないもんなぁ。お忍びで人間界に入り込んだ時の、チョコレートとかいうやつの味が忘れられないよ。
てかなんで今回の勇者は、勇者にはあるまじき幸せな生い立ちなんだろう。
普通勇者ってさ、なんか悲劇的な生い立ちだったりするじゃん?それがあいつったら、裕福な勇者の家系に育ち、私立の士官学校を無事卒業し、家族仲も良好で、皆から期待されて大金を持って町を旅立ったらしいじゃん。
しかもかわいい妹に、彼女もつれて!わがはいそれ聞いたとき、腸が煮えくり返るかと思ったね。
…話がそれた。これで材料はそろったから、いよいよ作り方を紹介する。
まず、人の魂を1センチくらいの串切りにする。手を切らないように注意しろよ。勇者と決戦前の大事な体だからな。
それから、これを油をしいたフライパンで5分ほど炒める。
少し茶色くなってきたら、水を2分の1カップほど入れて、中火で10分ほど煮込む。トロトロと沸騰してきたら…いよいよ人の不幸の出番だ。
哀れな人間どもが絶望の中もがきくるしむところを想像しながら、フライパンの中に回し入れる。ニヒルな笑みも忘れるな。世にも恐ろしい笑い声もな!
…出来上がったこれをちょいちょいと卵でとじると…
おいしいおいしい魔王丼の出来上がりだ!
…うん、やっぱりすんごいうまいぞ。やっぱりひとの不幸は取れたての新鮮なものに限る。ふわふわ触感の絶望に味が絡んで…あ~、もうたまらんな!
これに勇者の不幸も乗っかったら、そりゃもうすごいことになる!さあ、食べ終わったら持ち場に戻って勇者を襲い、奴を不幸のどん底へ陥れるのだ!魔界の平和と、食への探求の為だ!みんながんばれ!
…これをもって今日の「魔王の料理教室兼、勇者討伐作戦会議」を終了する!以上だ!解散!