表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の帝国  作者: STB
2/2

kollegen part 1

一話投稿から二週間くらい経ちますかね。三話はもう少し早いペースで投稿できるようにしたいです。


強引に手を引かれ、けいは正面玄関の階段を少女と共に駆け上がっていく。

全く状況が分からない。あの運転手はまだ話し中だろう。恐らく継が連れて行かれたことに気付いていない。

「ちょ、ちょっと待っ……」

「大丈夫。黙ってついてきて」

「いや大丈夫じゃないって! 運転手さん置いてったままだから!」

「彼には後で私の上司から連絡させるから」

継の方を見ずに、少女が言う。

ドイツ語が通じていることに加えて、このアーリア人特有の瞳の色は十中八九ドイツ人。ということは内務省関係者なのだろうか。

だがこんな少女が職員ということも考えにくい。もしくは年齢より幼く見えるだけなのか。

気付くと継は内務省入口の回転ドアを通り過ぎていた。正面の手荷物検査も足早に通り抜け、継と少女は建物内を進んでいく。

掴む少女の手を振りほどこうと試すが、その力は意外にも強かった。

「ねぇ、君……取り敢えずこの手離してくれないかな?」

「あ……ごめん」

継の訴えに対し、あっさりと少女は手を離す。それがあまりに急だったために、継は危うく後ろに転倒するところだった。

なんとか姿勢を立て直し、継は少女の方を向く。

「あの……ごめんなさい。私、初めて人と会うのとか苦手で。初対面の時とかいつもこんな感じに……」

改めて見ると、まるで造形品のような少女だ。蒼い瞳、美しい白の髪。それと対照的な黒のスーツ。ナチスが理想とするアーリア人女性の理想を詰め込んだ人形のよう――

「い、いや。大丈夫。それより……君は誰?」

「私は、イリス。イリス・クノーベル。内務省国家治安情報部の……捜査官」

国家治安情報部。イリスと名乗った少女は今、確かにそう言った。

つまり彼女は継の同僚、ということになる。

「それじゃあ君は僕と同じ……」

「イリスでいいよ。そう。私は継の……」

そこで彼女はなにか考えたように、

「継は今……何歳だっけ?」

「17歳だけど」

「そっか。じゃあ私は継の……先輩」

「先輩? イリスは僕より年上なの?」

「私……18歳だから」

なるほど、年齢より幼く見えるのかもという継の推測は外れではなかったようだ。それでも18歳とは。

優秀さを買われて内務省に来たのか。いや、ドイツには確か『ヒトラー・ユーゲント』というナチス直属の青少年育成機関があったはず。あそこからの出向だということも考えられる。

「とにかくまあ、同じ部署の人に会えてよかったよ。元々あの運転手さんに国家治安情報部まで案内してもらうつもりだったから。一時はどうなるかと思ったけど」

「その事は……本当にごめん」

少し赤面して、少女が謝罪する。

「ああいや全然。そういえば僕の自己紹介、まだだったよね」

イリスは既に継の名前を知っているようだったが、相手が名乗っているのに自分が名乗らないのは失礼にあたる。軍人一家の生まれであり、礼儀に関しては一般家庭以上に厳格な教育を受けた継もそういった部分は父達と同じだった。

「僕は沖野 継。日本から来ました。これからよろしく」

「うん。継……よろしく」



「国家治安情報部って、どんなところなの?」

内務省一階奥のエレベーターフロアでエレベーターを待つ間、継は何となく聞いてみた。

イリスは少しの間考えると、

「奇人と狂人の……巣窟。道を外れた人の……集まり」

「それは……冗談?」

「本当だよ」

真顔で言うところが恐ろしい。彼女が真実を語っているのは明らかだろう。

「狂人といっても……精神病質サイコパスみたいのじゃなくて。まあ……会えば分かるよ」

ちょうど、エレベーターが着いたことを知らせる高い音が鳴った。扉が開き、数人が継の横を通り過ぎていく。

「おい、あれ見ろよ」

「黄色い猿の餓鬼だぜ、どっかの部署が買ったのか?」

などの侮蔑と一緒に。

継はただため息をついた。こんなことはもう慣れてる。4年前にゲルマニア大に来た時もそうだった。

アーリア人を世界で唯一にして最高の民族だと信じて疑わないドイツ人が多民族を蔑みの目で見るのはよくあることであり、アジア人などは特にそれを受けやすい。

当時の友人たちは寛容な人間が多く、そうした侮蔑も時間が経つにつれてなくなったが、初めのうちは洗礼のように侮蔑と蔑みを受けた。

エレベーターに乗り込むと、イリスが5階のボタンを押した。内務省は地上10階、地下4階の構造になっている。

扉が閉まると、中は継とイリスの二人きりになった。

「……うちの部署には」

唐突にイリスが口を開いた。

「狂人は多くても……さっきみたいな人種差別者は……いないから」

「えっ、あ、うん」

継が先程の言葉を気にしていると思ったのだろうか。今さら気にもしないが、アーリア人第一主義者がいないならそれに越したことはない。

ゆっくりとエレベーターが上へ上へと向かう。他の階で止まることなく、5階にたどり着いた。鈍い音とともに扉が開く。

5階にあるのは国家治安情報部1課、2課、3課のオフィス。

「イリスは何課に所属してるの?」

「1課だよ。ほら……あの大部屋」

エレベーターを出てすぐの真っ直ぐな通路の突き当たりに、その部屋があった。

「つまり、僕も?」

イリスが頷く。

歩いていくと、通路の両側に2課と3課のオフィス、加えて情報分析室という部屋があった。

20メートル程歩き、2人は国家治安情報部1課のオフィス前に立つ。

「そうだ。これ……試して」

イリスがドアの横の装置を指さす。どうやら指紋認証と網膜認証システムのようだ。

「継の網膜と指紋データ……もう日本からデータが送られてるから……反応するはず」

言われて継はまず人差し指を装置に押し付ける。続いて顔をカメラに近づけた。

システムが彼の指紋と網膜を解析する。そして認証確認を告げる電子音が鳴りロックが解除され、継は1課のオフィスへと足を踏み入れた。


部屋には男女合わせて3人。机が5つある。

「ようやく到着か。長旅ご苦労だった、沖野 継」

最初に話しかけてきたのは男だ。スーツを着ているので官僚のようにも見えたが、その猛禽類を連想させる目と額の傷は、継が彼を元軍人だろうと推測するのに十分であった。

「はっ、はい。はじめまして」

彼の方に歩み寄り、継が右手を差し出す。男は微笑して握り返した。

「クラウス・ケンプフェルトだ。今後ともよろしく、黄色いサル」

クラウスの言葉を聞き流しつつ、継は心の中でイリスに舌打ちした。何が人種差別者はいない、だ。来て早々の挨拶がこれじゃないか。

「クラウス上級捜査かーん。人種を差別する発言はクソッたれ人権団体から抗議が来るわよー」

オフィスの右端にある机で、座りながら銃器を整備している女が言った。

「分かってるさ、ニコラ。つまらん冗談で気分を害してすまなかった、継」

「いえ、慣れてますから」

女がこちらに手を振っている。朱色のショートヘアがよく似合っていた。彼女もスーツ姿であり、見る者に仕事のできる秘書のような印象を与える。

ただ、恐らくサブマシンガンであろうものを弄っている彼女を見てそのイメージは消え去った。

「彼女はニコラ・シュタットフェルト。かつて秘密警察ゲシュタポの死神と呼ばれた女だ。取り扱いには十分注意すること」

クラウスが女――ニコラの方をちらと見て言った。

「うわ、ひっどい。私のこと猛犬だと思ってるわけ?」

「それ以上だ。猛犬は見れば危険だと分かるが、お前の恐ろしさは見ただけじゃ分からんからな」

かつて、継は父から聞いたことがある。たとえ悪趣味であっても、冗談を言い合える職場は良い場所だと。

先程のクラウスの発言、あれも本心からではないはず。ただタイミングが悪かっただけだ。

「あとは……あぁ、そこでパソコンを使ってるのがリコ・クロイツァー。国防情報部アプヴェーア出身のハッカーだ」

パソコン画面に向かっていた男がひょいと顔を上げ、継に軽く会釈する。髪の手入れは苦手なのか、金色の髪がボサボサの状態だった。それに彼、リコだけは他の捜査官と違い、ラフな私服を着ている。

「コミュニケーションが苦手そうに見えるが、ああ見えて結構しゃべりは上手い。尋問はたいてい彼にやってもらっている」

「ちょっ、クラウスさん!新人への紹介でいきなりコミュ障っぽいってのはないでしょ!?」

椅子から立ち、リコが声を上げて抗議する。よく見ると、彼はまだ青年という言葉の方が似合いそうな年齢だった。継とは二、三歳ほどしか年齢は変わらないはずだ。

「仕方ない。お前はそういう風に見えてしまうからな」

「それなら、俺よりイリスの方が人付き合いは苦手じゃないですか!」

リコがイリスの方を指さす。それと同時に、ニコラとクラウスも継の後ろに今まで黙って立っていたイリスを見た。

クラウスは思い出したように、

「そうそう、君をここまで連れてきたその娘が、イリス・クノーベル。最年少の内務省職員にして、親衛隊の狂気と呼ばれていた少女だ。索敵と戦闘に関してはウチで彼女に勝る奴はいない」

言われて、改めて継はイリスを見た。

どこからどう見ても年頃の少女。その人形のような存在は、狂気という言葉からは程遠いように思える。

「継……どうしたの?」

イリスが不思議そうに首を傾げる。

「い、いや、だって……イリスが親衛隊の狂気とかって」

「私は……普通だよ?」

「え、あ、うん。だよね」

そのやり取りは周囲の笑いを誘い、ニコラなどは作業を止めて笑いだす。

「普通っ、普通だってさ! イリスが普通だったら私らは聖人様になれるって!」

「イリスが普通、ねぇ……」

「冗談にしてはきついな」

三人とも散々な言い様である。

しかし、この雰囲気。嫌いじゃない。前の職場なんかよりもよほど良い。

「まあともかく、これで全員の紹介が終わったな。それじゃあ……」

「まだだよ」

クラウスの言葉を遮ったのはイリスだった。

「まだ、継の自己紹介が終わってない」

確かに。一方的に紹介されただけで、継自身はまだ自分の名前すら名乗っていない。

多分彼らは既に継の名前も、今までの経歴も知っているのだろう。ただ、これから共に働く四人には、自分から名乗るのが礼儀というものだ。

「日本内務省から派遣されました、沖野おきの けいです。ふつつか者ですが、どうかよろしくお願いいたします!」

後に四人の拍手が続く。

「よし。これで全員の紹介が終わったな。それでは」

クラウスが軽く咳払いした。と同時に、その場の空気が一気に変わる。継以外は全員、彼の咳払いの意味を理解していた。

まるで何か厳粛な儀式が始まる時のような静寂の中で、クラウスが口を開く。

「さっそく、内務大臣から直々に仕事が来てる。俺達の『掃除』のやり方を新人に見せるいい機会だ」

読んで下さった皆様、ありがとうございます。STBです。非常に寒い季節になりました。今キーボードを打つ手も非常に冷たい。

今回はメインキャラクター紹介みたいな感じでした。本当は戦闘シーンも入れたかったのですが長さの都合で分割することに。あとはそれぞれのキャラの使用銃器が決まってないので少し時間を置こうかと……ドイツ系の現代銃器でおススメがあったら感想に書いて頂けると嬉しいです。

ちなみに、今回出てきたクラウス・ケンプフェルトは私の大好きなモビルスーツの名前から取りました。そうです、青いあの機体。

それでは、今回はこの辺で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ