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【6】真珠姫のやりたいこと



――――翌朝。いつもの怠さがない。


「……」

そして目の前で眠る真珠のような彼女の姿にハッとする。


「そうだ……そうだった」

昨晩の記憶が鮮明になってくる。


「そう言えば……一緒に寝たのだった」

むくりと身体を起こし、すやすやと健やかな寝息を立てる少女を見おろす。


触れたら壊れてしまいそうな白磁の肌に恐る恐る振れてみれば、滑らかな清涼さが伝わってきて心地よい。


「ん……アルド、さま?」

その時白金の睫毛の下から銀色の眼が覗き、ハッとして手を引っ込める。


「……」

銀色の瞳にまっすぐに見上げられたじたじになりながらも弁明する。


「へ……変なことしていない」

「ふふっ」

しかし彼女は微笑ましそうに見てくる。


「はい。アルドさま」

触っていたこと、バレていないだろうか。いや、知った上で許して……くれたのか?


「朝食に、しようか」

「はい、お腹空きました!」


「……そうか、今朝は素直だな」

「そのっ、それは……あの時は」

最初に会った時のことを思い出したのかリタが赤面する。


「構わない。緊張しているとどうにもな」

「アルドさまにもあるのですか?」

「そりゃぁな。初めて兄上の王としての顔を見た時何かは……緊張した」

「陛下の……」

「そう。ま、今はそうでもないが」

「えっ」

「そう言う意味じゃないぞ?兄弟仲はいい方だ」

「ふぅ……ホッとしました」

まさか朝からこんなにも平和な会話が出来ようとはな。


※※※


いつもの食堂はリタがいるからか彩りが多めな気がする。


「大公邸の朝食はどうだろうか」

「お、美味しいです!」

まるで感激したように言ってくれる様子に少し胸が痛む。この子はあの家で相当酷い目に遭ってきたのだ。


「好物はあるか」

「その、食べられるものなら……」

彼女が育った環境がそうさせたのだろうか。


「大公邸の食事はパンの他にも米やパスタなんてのもある」

「お米……は珍しいですね。リゾットでしょうか」

「それもあるが普通におかずの供としても食べるぞ」

西洋風の世界だから米と言えばリゾットなどになる。しかし……。


「俺は出来るだけ白米で食べられる米を仕入れさせているからな」

この世界にも各種ギルドが完備されているので商業ギルドのつてを辿ってちょちょいとな。


「白米で……おかずの……お供として?」

「なかなか旨いぞ。丼ものにもなる」

「どん……?」

「海産物を揚げて上に乗せたり、卵と鶏肉を混ぜたものを乗せたりして食べる」


「初めて聞きました」

「まぁそうだろうなぁ。だがこれらは隊員や大公邸の賄いにも人気で最近では近衛騎士団も宿舎の食堂に取り入れている」


「まぁ……っ!もしかしてアルドさまがお広めに?」

「うちの料理長に作らせていたらいつの間にか広まっていたんだ」

うちは第6隊上がりの使用人も多いし現役も駐留する宿舎を併設してあるからな。


「お丼……食べてみたいです!」

「では早速昼にでも出してみようか」

「は……はい!楽しみですね!」

リタが嬉しそうに微笑む。


「今日は俺もオフだから屋敷内を案内するよ」

「あ、ありがとうございます!」

その中でリタが興味を持つものがあればやらせてやりたいものだな。


※※※


中庭では屋敷の騎士たちが訓練をしている声が響く。


「大公邸の騎士さまたちなのですね」

「ああ。たまに第6隊も混ざっているが。ほら……ヴィーも」

「まぁっ!」

今日は剣を握り打ち合いをしているようだ。第6隊の暗器を利用した訓練は駐留用の演習場でしか出来ないがな。


「だがこう言う男っぽいものは……」

失敗してしまったか?もっと女の子が興味を持つものにすれば良かったろうか。


「女性もいらっしゃいますよ。カルラちゃんも女の子の騎士さんです!」

「ああ……うちは男女そんなに気にしないから」


「ですがやはり珍しいのですか?」

「まぁな。近衛騎士の場合、女性王族の警護を除けば珍しいし騎士団はもっと珍しい」

「それなのに結構な割合では?」

男女比は7:3だろうか。近衛騎士団全体でみても多めである。


「興味のあるものには出来るだけ声をかけてスカウトしたんだ」

そう言う情報を集めるのは俺たち第6隊の十八番だしなぁ。


「私も武術が得意でしたらお役に立てたでしょうか……」

リタがしゅんとする。

まずい……また自信を削いでしまったか!?


「いやいや、訓練できているのも非戦闘員のバックアップがあってこそだ。そうだな、次はバックアップ隊を見に行くか」

「は……はい!」

気合いが入り直したのかかわいらしいな。


連れてきた備品庫ではポーションを補充するものや物資の記録を付けるものなど様々だ。


「ポーションなんかは第6隊の宿舎でも生成している」

「すごいのですね!私は作り方も分からないですし、魔力もないのでポーションに魔力を込めることも出来なくて……」

しまった……また失敗してしまったか!?


「ひょっとして奥さまも視察ですか?隊長」

俺たちの姿を見た女性隊員がやって来る。


「いや、まだ婚約者だ!」

「奥さまって……っ」

リタの顔が真っ赤である。


「いや、でも昨晩は一緒に寝たって」

「……誰に聞いた」

「カルラが嬉しそうに話してましたよ」

「……それは俺も怒れない」

「カルラも懐いている……と言うことは我々としても隊長の本命だと認識したまでです」

「お前らは……もう」

しかしながら気の利くやつらであることはかわりない。


「その……本命」

当のリタはと言えば……また顔を赤くしている。その……否定するわけじゃない。しかしこう言う時男としてどうすべきか。


「そ……その、そうだな。リタができそうなことを……探していたんだが」

気の利くコイツらなら何か思い付くだろうか。同じ女性同士だし。


「うーむ……見た限り体育会系ではない様子」

「まぁな」

「でしたら繕い物とかはどうです?」

「それでしたらできます!」

お……?当たりか?


「実家では繕いながら大事に着ていましたので!」

公爵令嬢が……か?しかし公爵邸の彼女の扱いを考えれば信じられなくもない。


「でしたらたくさんお仕事がありますよ。騎士と言うのは付与魔法をかけていても結構頻繁に解れさせるので。手始めに隊長のを仕上げてみては?」

「いや俺のは別に」

「や、やります!」

「え……っ」

「私もアルドさまのために出来ることをしたいのです」

そう語るリタの表情が輝いている。結果的に連れてきて良かったと思える。


「分かった分かった。繕い物に関してはメイドたちに選別を頼んでみるよ」

リタがここでやりたいことを見つけることが出来た。女性隊員のアドバイスのお陰でもあるな。


※※※


そうして数刻。


「できました!」

リタが嬉しそうに持ってきたのは試しにメイドに用意させた訓練着である。


「へぇ、解れた後が分からなくなってる。すごいものだな」

「はい!アルドさまのために頑張りました!」

俺のために……か。まぁ悪い気はしないな。


「では他にもやらせてくださいませ!」

「そうだな……またメイドに幾つか見繕って……」


――――その時だった。


ぐぅ……と音が鳴る。


俺のではない。と言うことはリタ……?


「きゃ……っ、私ったらっ」

「ちょうどいい。繕い物は一旦中断して昼飯にしよう。料理長が丼ものを用意してくれているはずだ」

「は……はい!楽しみです!」


そうして料理長が用意してくれた丼ものを見てリタが目を輝かせる。


「こちらは……」

「親子丼と言う」

「親子……?」

「卵と鶏肉を使っているから、卵を子、鶏肉を親と見なしてその名がついたんだ」

「まぁ……っ、面白い名付けです!」

「そうだろう?反対に豚肉で卵をとじれば他人丼になる」

「そう考えれば確かに!アルドさまは色々なことをご存じなのですね」

「ん……まぁな?」

これ……全部前世の知識なんだがな。


「味も旨いぞ。食べてみてくれ」

もちろん俺はここまでの親子丼の作り方は知らないので料理長に必死に伝えたものを料理長が形にしてくれた努力の結晶である。


「んんっ、ふわふわの卵に染み込んだ味がお米ととっても合って……ぷりっぷりの鶏肉とも愛称抜群です!」

「だろう?」

俺一人じゃぁ卵をふわふわに出来たかも怪しいからな。完全に味を再現してくれた料理長には感謝しかない。


「付け合わせのスープは不思議な色をしてます」

「ああ、それは味噌汁だ」

味噌汁自体の作り方は知っていたが、味噌を入手するのが一番の難所であった。


「味噌は自家製でな」

「自家製!」

「この界隈で入手しようとなるとなかなかな。さすがにこれは商業ギルドでも入手が難しい。だから……作ることにした」

作り方?第6隊だからこそ入手できたってのもある。公私混同?まさか……情報をいかにものにするかも大切な任務である。


「お味噌まで作ってしまうなんて……アルドさまはすごいです!」

「第6隊のみんなや料理長のお陰だよ」


「……!何だか皆さんが大きな家族みたいですてきです!」

家族……か。俺には兄上以外無縁だと思っていたのに。


「みなさんのたくさんの絆で生まれたお味噌……とっても美味しいのでソーレ王国でも広まればいいですよね」

「ふふっ。そうなれば俺も嬉しい限りだ」

次は近衛騎士団の騎士舎に味噌製造案を持っていこうか。商業ギルドでもいい。やっぱり定食には味噌汁がなけりゃぁな。


「……」

しかしその時リタがじっと考え込んでいることに気が付いた。


「リタ?」

「いえその……何でもありませんわ!」

どうしたのだろうか?食事自体は気に入ったと思ったんだがな……?


※※※


リタはせっせと繕い物を楽しんでいるようだ。俺としても彼女が夢中になれるものを見付けられてホッとしたところである。


「旦那さま、こちらを」

「はぁ……やっぱり行かねばならないか」

ロベルトが厳選した招待状の山を見せてくる。これでも厳選してくれているだけありがたい。


「行っとくが俺は婚約破棄されて傷心なんだぞ?」

「だからこそ後がまを狙った招待状が増えましたが……旦那さまの傷心を汲み取りほぼ蹴って参りました」

「さすがはロベルト。分かってるな。だがこの山は何だ?」

「婚約されたではないですか」

「……」

「なので傷心期間は終わり。世間は舞踏会シーズンなのですから」

「それはそうだが……」

日本で言えばちょうど6月くらい。この時期になるとお茶会程度で我慢していた貴族たちが一気に舞踏会を催す。城も例外ではない。


「婚約者をエスコートし社交付き合いをするのも貴族の務めです」

「まぁな」

社交界に必要なものを売買し経済を回す必要もある。貴族同士の繋がりを深める意味合いもある。


「何より王弟殿下と繋がりたいものは数多くおります」

「昔は化け物とか呪われた王子だとか散々言ったくせに今さらかぁ?」

「そのような貴族からの招待状は問答無用で弾いております」

「ん、上出来」

今さら後悔しても遅いわけだ。


「陛下の覚えを良くするために王弟殿下にいかに気に入られるか……それこそが貴族たちの最大目標なのですよ」

「だろうなぁ」

何たって俺の発案で第6隊の伝統も塗り替えるほどのブラコンだからな。


「そしてそのためにリタ嬢のご機嫌取りも忘れてはならないと考えるでしょうから、リタ嬢への害意は少ないかと」

「まぁなぁ。ジョヴァンナたちの方は知らんが」

「王弟殿下に婚約破棄をしたような令嬢をもてはやせば貴族生命が終わるのでは?」

「終わるだろうな」

俺の敵認定イコール兄上も舌打ちしたくなる相手。国王なので実際に舌打ちなどはしないだろうが。


「ですがルーチェ公爵夫妻はどうでしょう」

「先日兄上に叱責を受けたことは社交界に広まっている」

社交界と言うものは恐ろしいほどに噂が一人歩きする。


「その上……根回しはしてある」

「おや、第6隊を動かしておいででしたか」

「もちろん。噂を回すくらい出来なきゃ第6隊の名が廃る」

ロベルトが選出した招待状から幾つかピックアップする。


「参加するのはこれらの王城のパーティーだ。リタ用のドレスやジュエリーセットも手配する」

「承知いたしました。そのギリギリの納期のものを選ばれたようですね」

「これでも譲歩してるんだぞ?」

「確かに。仕立て屋には幾らか積んでおきます」

「そうしてくれ。これからも大公の贔屓でありたいだろうからな」

あとはジュエリーか。彼女のことだから遠慮しそうだな。


「最初だからな。俺が選んだものを贈ろう。宝石商を呼んでくれ」

「既に手配しております。あと数刻で来るかと」

「ああ。さすがだな」

早速ドレスを発注し到着した宝石商からドレスに合いそうなジュエリーを見繕う。


「なかなかいいものを用意している」

「ええ。大公閣下の色は真珠姫にもきっと映えましょう」

宝石商もちゃっかりしてる。ジュエリーはアメジスト中心のものが多い。


しかしそのお陰で準備も粗方調ったか。あとはリタが喜ぶ姿を目の裏に思い浮かべながら待つだけだな。



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