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【4】寝首をかきに参りました



――――闇より深い夜は気を付けよ。


「陛下……お覚悟おおおぉっ!」

「ひぃっ!?何だ!」

「寝首をかきに参りました」

こんな風に闇のものがやって来るかもしれないから。


「いや、何を言っているのだ弟よ!と言うか影のものたちはどうした!?」

「俺です」


「そうだったそのボスがお前だったな」

「ボスに命じたのは陛下でしょう」


「いやそうだけどさ、臣下として間違っても寝首をかきに来たとか言ったらいけないと思うのだが」

「これも訓練ですよ、警備訓練。部下たちはしっかりと陛下を守ろうと奮闘しましたよ」

「そ……それでどうなった」


「今は俺がいるのでポーション飲んでピンピンしながら張り込み用定食食ってます」

「……まさかのご飯タイムか。いや夜勤なのだから夜食も必須だろうが」

「ええ。うちの定食は好評で最近では近衛騎士舎や城の食堂でも取り入れられてます」


「そう言えば話題だったな……と言うかそれよりも何の用だこんな深夜に」

兄上がふうと溜め息をつく。


「単なる訓練ではないのだろう?今日に限ってリュシルが一緒に寝てくれなかったし」

「義姉上の肌に良くないので事前に通達しておきました」

「私だけまたのけ者か」

「訓練ってこう言うものですよ」

まあ最近は避難訓練などは事前通達せいであるが。こちらは抜き打ちだからこそと言うもの。


「しかし……リュシルは訓練を受けなくていいのか」

「日中に城の避難訓練に参加しましたので」

「妻だけずるいーっ!」


「あなたが公務で参加できなかったから特別コースでやって差し上げてるんですよ。深夜手当ください」

「それはまぁ、宰相に伝えておくが……本題は何だ?」

「リタ嬢のことです」

「それは……」

兄上がキリッと王の顔になる。


「リタ嬢のルーチェ公爵邸での扱いは酷すぎる。さらには夕食についても。賞味期限の過ぎた腐りかけのものを食べさせようとしておりました」

解析は残業していたエルネストに頼んだ。今度菓子折り差し入れよう。


「公爵夫妻は実の娘のリタ嬢ではなくジョヴァンナばかりを贔屓し、ジョヴァンナはリタ嬢にかなり辛く当たっている様子」

通りで今までリタ嬢に会えなかったわけだ。両親も一緒になってあの子を虐げていたのだ。

良い両親の顔はジョヴァンナの前でだけ見せていたわけだな。


「何と……婚約破棄騒動まであった上にさらには家でもか」

「はい。一刻も速くリタ嬢をあの家から引き剥がすべきです」

「うむ。もう19歳だ。花嫁修行として大公邸に向かわせるのも良いが……お前の闇魔力は平気なのか」

「……どちらにせよ、今のままではいきますまい。彼女が脅えるのでしたら別棟も用意しております」

屋敷の敷地内の隅の離れはリフォームを中止。物置のままにするとして……彼女には別棟を出してやるべきだ。


「……分かった。明日朝一で公爵夫妻を呼びつけリタ嬢の待遇を改善するため命じよう」

「ええ、よろしくお願いします。兄上」

「ぐふっ、弟萌え」

やっぱり寝首かいておいた方が良かったろうか、このブラコン。


※※※


――――翌朝


謁見の間に呼び出されていたのはふるふると震える公爵夫妻だった。


「ルーチェ公爵」

「は……はい、陛下」


「何故呼ばれたか分かるか」

「その……リタの婚約破棄騒動の件でしょうか」

何故そうなる。リタ嬢には何も悪いところはない。むしろ婚約破棄騒動で責められるのはジョヴァンナの件だ。今回はそこではないがな。


「リタ嬢は我が弟アルドの婚約者となった」

「え……えぇ」

本当に分かってんのか?このブラコンの弟に婚約破棄したことの意味を。


「だからこそ将来の義妹となるリタ嬢に対する扱いについて看過できないものがある」

「……っ」

公爵がハッとする。


今さらかよ。俺と結婚する相手は陛下の義妹となるのだ。ジョヴァンナの時はジョヴァンナを溺愛しすぎて見えていなかったとでも?


「私が何も知らないと思っているのか」

ずん……と重々しい静寂が襲いかかる。


「し……しかし」

ほう……?この状況で陛下に意見しようとは殊勝な心意気だ。


「リタは……リタはスキルも魔力もない出来損ないなのです!」

「だからと言ってお前たちのしたことが許されると?お前たちはスキルや魔力の有無で娘を虐げるのか」

「虐げるなどと我々は……」


「顔合わせの席に供のものも付けず、馬車も送っただけで帰ってしまう」

「む……迎えに行く手はずだったのです!」

「言い訳はいい。来なかったものはないのも同じ」

「そんな……っ」


「さらに屋敷ではリタ嬢に腐りかけの粗末な食事を出した挙げ句、リタ嬢を心配して弟がつけた近衛騎士を侮辱したのだったな」

「そんなつもりは……っ」

「お前たちの発言は一言一句記録されている」

俺たちが天井裏でな。


そして俺たちの侵入すら知らされないとは……お前たちは自分たちの御庭番にも見捨てられたのだ。いや……彼らは正統な跡継ぎのリタ嬢の味方だったと言うだけのこと。


「もう言い逃れは許さん!!」

「ひぃ……っ」

本当にそっくりだ。血は繋がっていないくせにな。リタ嬢が似なくて本当に良かった。


「リタ嬢は大公邸にて保護する」

「そんな……まだ婚前ですよ!?」

「婚前だと言うのにリタ嬢に何かあっては困るものでな。アルド」


「はい、陛下」

いつの間にやらこの場には俺の姿がある。その事実に公爵夫妻が驚愕する。


「リタ嬢を頼んだぞ」

「畏まりました。早速迎えに参りましょう。公爵家ではまともに馬車も用意できないようですので」

「……っ」

ギリと悔しげに奥歯を噛み締める公爵を鼻で笑ってやる。


でも事実だろ?きっちり馬車すら用意できてない時点でお前たちは負け確ってことだ。


「では陛下、御前失礼いたします」

「ああ、アルドよ」

臣下の礼と共に颯爽と謁見の間を後にする。

『馬車の準備は』

『用意してございます』

部下からの念話にうんと頷く。


城の裏口にきっちりと馬車をつけておく部下たちは相変わらず優秀で何よりだ。


「さて、早速出発してくれ」

乗り込むなり告げれば馬車が発車する。


「少し寝る」

徹夜だったからなあ。


「着いたら起こしてくれ、ヴィー」

「はいはい。目覚まし係は任せてよ」

当たり前のように正面から声がかかる。


「ふぁ~~」

徹夜任務はよくあるとはいえ……どうしてか彼女に会いに行くことに安心感を覚え寝入ってしまわないか妙に心配になった。


※※※


――――side:リタ


アルドさまは不思議な御方だ。最初にあの方を見た時はとても恐かった。


無能であるがゆえにファウストさまからも見放されひとりになった私にあてがわれた婚約者。


こんな恐ろしい方が婚約者だなんてやっていけるのだろうか……不安で仕方がなかった。


「けれどあの御方は……」

アルドさまはどこまでも紳士的で優しい御方だった。


そして手と手が触れ合った時。闇が晴れたかのように優しい空気に包まれた。


「あれは何だったのかしら……」

それにあの感覚、昔どこかで……。


「リタっち」

「……カルラちゃん?」


「隊長から念話が入った」

「念話って……」

「第6隊の便利な魔法通信のようなもの」

「すごいのですね!」


「うん、隊長は念話まで魔法で構築したすごいひと。そんな隊長だけど」

「はい」

「今から来るって」

「ええっ!?」

公爵邸に訪問してくださると言うこと?


「出迎えに行こう」

「だけど……ジョヴァンナがいるはずよ」

お母さまとお父さまは今朝早くに出掛けたようだけど。


「また来たら私が追い返す。隊長も来る。問題ない」

「それなら……」

大丈夫かしら。だけどどうしてか昨晩も……。うん……あの方と一緒なら私も勇気が出せるだろうか。


※※※


――――side:アルド


カタカタと車輪の音に揺られてまどろむ。


「アルド、もう少しで着くよ」

「んん……ふあぁ……早かったような、そうでもなかったような」

「仮眠ってそう言うところがあるよねえ」

「だな」

着衣を整え寝不足を見せぬように王族直伝スマイルを浮かべる。


「どう?」

「完璧すぎて恐いほどだよ」

「それでいい。俺たちはナメられたらおしまいだ。だが……リタ嬢が恐がらないかどうか」

「隊長がそんなこと気にするなんて。珍しいこともあるもんだ」

「おい、俺だってな……」

しかし何故だろうか。こんな感情は一度目の婚約ではなかったことだ。異世界に転生して王族に生まれて、貴族に臣籍降下して……。


結婚なんてものは義務。前世のような結婚観のような夢は見ないと切り捨てていたのにな。


どちらにせよこの闇魔力では無理だから。


※※※


公爵邸の門の前には既にリタ嬢とカルラが待機していた。


「迎えに来た、リタ嬢」

「アルドさま!」


「陛下の許可は得た。大公邸に来てほしい」

「……本当に良いのですか?」

「もちろんだ。ああ……いきなりで混乱するだろうし俺がいやなら別棟を出す。そこでも不自由なく暮らしていけるようにする」

「その……っ」

リタ嬢が俺の手を掴む。また……この感覚。

不快ではない。むしろ触れていたいと思わせるこれは何だ……?


「一緒が……いいです。アルドさまと……一緒が」

「……っ」

どうしてか彼女がとてつもなく愛おしく映る。


「分かった。本邸に部屋を用意するが……詳しい話は大公邸でしよう。いいか?」

「はい」

「荷物は……これだけか?」

カルラには事前に連絡して荷造りを頼んでいた。


「はい……私はものが少ないので……」

まさかそれにもジョヴァンナが関わってないよな……?


「分かった。早速積み込もう」

「その……」

「どうした?」

「えと……昨日とはずいぶんと口調が違うので……」

「……」

しまったあぁぁっ。昨日厳重に貼り付けた紳士の仮面が……いつの間にかどっかに行っていた!!

どうしよう、俺。


「失礼いたしました。すぐに戻します」

「いえその……っ、そのままでっ」

「……ですが」

「素のアルドさまもすてきですから」

す……すてき!?


「それに……」

「リタ嬢?」

「どうしてか昨夜ずっとアルドさまが見守ってくれていたような気がして」

ギクッ。バレて……ないよな!?ストーキングの件!いや違う。あれはストーキングではなく任務の一環だ!


「だからアルドさまと一緒だと……安心するんです」

「俺と……」

そんなこと初めて言われたかもな。この体質は諦めていたから。


しかしリタ嬢をエスコートし馬車に乗り込もうとした時だった。


「何であなたが来てるのよ、アルド!」

ジョヴァンナ……!


「今日はお父さまもお母さまも城に呼び出されて構ってくれないし……お買い物もしたかったのに!何でリタなんかといい馬車に乗ろうとしているの!?」

「これは我が大公家の馬車だ。あなたには関係ない」

「何ですって!?それを寄越しなさい!私は今買い物に行きたい気分なの!」

「ふざけるな。お前のものではないと言っているだろう」

一方的な婚約破棄以上にリタ嬢に酷いことまでしていた怒りが滲み出る。


「ひ……っ、化け物っ」

「婚約破棄の現場以来か?」

もう取り繕う必要もないと闇魔力を解放したあの時。

この女はそう言った。


「分かったのなら去れ。お前はお呼びじゃない」

「ひぃっ!」

ジョヴァンナが脅えたように公爵邸に戻っていく。

ふん……所詮はあの程度。

「……っ!」

……しまった。ここにはリタ嬢もいたのだ。


「リタ嬢……その、これは」

「アルドさま」

リタ嬢の手が俺の手を包み込む。すぅっと怒りが鎮まっていくような気がする。


「アルドさまは化け物なんかじゃありません。強くて優しい御方です」

さっきのを見た後もそう思うのか。

「アルドさま」

まるで安心させるように微笑む彼女がどうしてそんな嬉しそうなのか。頬が赤くなってないか心配になってきた。


「その、馬車を分けるか」

むしろ俺が馬でもいい。


「いえ、一緒がいいです」

「……俺と」

「はい!」

混じり気のない晴れやかな笑み。これは彼女の本心だ。


「なら、どうぞ」

差し伸べた手に彼女は躊躇うことなく手を重ねてくる。

昨日のように馬車に乗り込めばリタ嬢がハッとしてこちらを見てくる。


「あの、カルラちゃんは?」

「後から馬で護衛する」

狙っていたかのようにヴィーが馬を連れて手を振ってくる。


「カルラちゃん、まだ13歳なのにすごい」

まぁ、ヴィーが乗る時に手伝ってはいるがな。


「それなのに私は何もできなくて……」

「ではリタ嬢には何か趣味は」

「その……特には」

「ではこれから見付けていけばいい。大公邸ではいろんなことを体験してみてくれ」

「いいの……ですか?」

「もちろん。リタ嬢に快適に過ごしてもらうことが一番の目的だからな」

「はい……アルドさま」

ぽっと頬を赤らめるリタ嬢にどうしてか胸がむずむずするのは……何て感情なのだろうか。




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