【3】公務執行妨害だ
――――闇の世界と言うのは油断ならない。
「揃ったな」
そして相対した時から上下関係が決まっているもの。つまりは……ナメられたらそこから終わり。
「俺が何を言いたいか……分かるな?」
俺の前に並ぶのは侵入に気が付き集まった御庭番集団。既に冷や汗をかいてやがる。うちの御庭番なら後ろのヴィーをもさらりと流すが……コイツらは違うようだ。
「俺はお前たちが愚かだとは思っていない」
少なくとも得たいの知れない存在を感知する技能は備わっているようだからな。
「お前たちが賢明な判断をすることを……大公閣下はお望みだ」
俺が本人だと言うことはナイショである。
「……大公閣下はジョヴァンナさまを」
「あ゛?」
久々に殺気駄々漏れだぞ。
「ひっ」
「大公閣下は婚約者であるリタ嬢のことを大変心配していらっしゃる」
「ジョヴァンナさまでは……ないのですね」
「死にたいのかお前たちは。少しは賢いと思っていたんだがな」
「お……お許しをっ!」
「そうです!我々はリタさまの……っ」
「……うん?」
「リタさまは本来は公爵家の跡取りのはずなのに」
「ジョヴァンナさまにあのような目に遭わされ」
「あんな待遇は酷すぎる」
酷すぎる待遇……ね。
どうやらあの姉妹、ただの姉妹の関係じゃなさそうだな。
「ですが大公閣下がリタさまを本当に幸せにしてくださるのなら……」
「我々はあなた方を信じます」
「ふん……お前たちは甘すぎる」
しかしながらこれで公爵邸のセキュリティはないようなものだ。
「早速拠点を確保する。どこでも選び放題な」
「はーい!」
ヴィーを連れ、公爵邸に紛れ込む。
選んだのは天井裏。ちょうどリタ嬢の部屋の真上である。
「さてと……第6隊特製結界魔法完備っと」
俺たちの声は外に漏れないし姿も隠蔽できる優れものだ。
「これで思う存分ストーキングできるねぇ」
「だからストーキングじゃねぇよ、断じて」
因みに隊員同士のやり取りは念話魔法。カルラなら魔法じゃなくてスキルでできるがな。
『もしもし、カルラ?そっちは順調か?』
『オッケー、隊長。順調順調。リタっちの部屋に着いた』
『ああ、見てる』
俺の遠視スキルを投影魔法でヴィーにも見えるようにしている。
『因みに着替えも見る?』
『……見るわけないだろコンプラ的に。終わったらモニターを再開する』
『なるりょ』
さて、業務連絡を済ませたところで早速スト……違う調査をしようか。
※※※
映像をシャットダウンしたモニターから会話が聴こえてくる。
「こっちが私の寝室よ、カルラちゃん」
「うん、お邪魔します」
「何もなくてごめんね」
「構わない。護衛はしやすい」
そうして数分、カルラから通信が入る。
『着替えは終わった、隊長』
『了解。今から調査を開始する』
『ストーキング?』
『こら、ヴィーの言葉を真に受けるんじゃない!』
カルラが変な言葉を覚えちまったじゃねえかっ!
――――それはともかく、再開した遠視モニターには2人の少女が映っている。
奇妙なのはベッドにクローゼットしかない簡素な部屋。それもかなり狭い。公爵令嬢の部屋とはとても思えんな。
「カルラちゃんは今、何歳なの?」
「13歳」
「13歳で騎士だなんてすごいんだね……!」
「見習いならこれくらいもたまにいるよ」
確かにな。俺がカルラをスカウトしたのは見習いとしてじゃないが。
「へぇ……やっぱり近衛騎士ってとってもすごいんだね」
「うん。すごい騎士はたくさんいるよ」
「そうだよね。そう言えばアルドさまは……第6隊なんだよね」
「うん」
「第6隊ってどう言うことをする部隊なの?」
「それはあんさ……」
まずいまずいまずい!!
『カルラ!』
『は……っ、隊長?』
『それは機密事項だ』
『そうなの?』
「あんさ……?」
まずい、このままではリタ嬢に第6隊の裏の顔がバレる!!これはまずいぞ。かくなる上は!
『近衛騎士のあんさんたちの必要品供給部隊だ』
「近衛騎士のあんさんたちの必要品供給部隊だ」
よし、言えたな!なお、必要品が何かは機密事項だ。
「そうなんだ。事務系……なんだね」
「……そうなのか?」
『そうだ、と答えなさい、カルラ。エルネストはそうだろう』
『剣の鬼じゃないの?』
『今は書類の鬼だ』
『なるほ』
「……そうだ」
「近衛騎士にもいろんな役職があるんだね」
ふぅ……何とかリタ嬢をごまかせたみたいだな。
ホッとしたのも束の間、いきなり部屋の扉が開かれる。専属はいない……と聞いたがずいぶんとぶしつけだな?
「食事よ」
そう言ってメイドが持ってきたのはパンとスープと水だけ。スープには具材がほぼない。
「言っとくけどそのガキのはないわよ。アンタが勝手に連れてきたんだから。役立たずのくせに」
「……」
あまりの態度にリタ嬢も俯くしか出来ない。その様子に勝ち誇ったように笑むメイド。
バタンと虚しく扉が閉じられれば、リタ嬢は僅かな食事が乗せられたトレーをカルラに差し出した。
「これはカルラちゃんが食べて」
「リタっちは食べないの?」
「お腹……空いてないから」
そんなはずがなかろう。日中食べた菓子だけで腹が膨れるはずもない。リタ嬢はカルラのために食事を譲ったのだ。
『カルラ、第6隊共有マジックボックスの中の張り込み用定食2つ、出していい』
部隊員は全員マジックボックス持ち。そのボックスを共有ボックスに繋げるようにしているのだ。中のものは時間が経過しないから張り込み用の食事を入れておくにも便利である。
『今夜は2人でそれを食べるように』
『了解、隊長』
「リタっち。第6隊の張り込み用定食、隊長から使っていいって言われた供給がある」
「張り込み……任務で使うものなのでは?」
「今私は任務中、問題ない」
カルラがマジックボックスからサッと定食を2つ出す。
「私も食べていいの?」
「隊長からの貢ぎ物」
み……貢ぎ物!?
「婚約者に貢ぐのも隊長の仕事」
そう……なのか?まぁ予算の範囲内なら間違ってはいない。
「アルドさまは……ジョヴァンナにも?」
リタ嬢……。そりゃぁ気になるか。何たって俺の元婚約者だ。張り込み用定食を貢いだことはないがな。リタ嬢は特別だ。
「張り込み用定食を貢いだことはないって。リタっちは特別」
「私が……特別」
「だから召し上がれ」
「ありがとう……!でも、これはどうしようかしら。食べないと不審がられるかも」
リタ嬢はメイドが持ってきた食事を気にしているようだ。
『魔法映写は済んでいる。中身は回収するように。解析に回す』
「第6隊で回収する。問題ない」
「それなら……。でもアルドさまはどうしてここまで……」
『どうして?』
直接聞くのかよ、カルラ。
『俺なりに役目を果たそうとしているだけだ』
「隊長は優しいから」
おい、俺が伝えたことと違うぞ。
「はい……アルドさまは優しいですね」
しかし上手くいった……とみていいのか?
だがカルラのやつ。別に嫌じゃねぇけど。
定食を食べ終わりカルラが後片付けを済ませたところで新たな訪問者がやって来る。
『カルラ、警戒。ジョヴァンナが来る』
『了解、隊長』
「あぁら、お義姉さま」
来たな。ハニーブラウンの髪にヘーゼルブラウンの瞳。珍しい光魔法を持っていたことから平民から公爵家の養女となったリタの義妹。
「聞いたわ。あのアルドの婚約者になったって!いいざまね!役立たずにはお似合いよ!」
どういう意味だこのアマ。一方的に婚約破棄したくせに。
『隊長、闇魔力漏れ出てる、抑えて』
『だけどなぁ、ヴィー!』
『楽しみは後にとっておくほど味が出る』
『……お前』
一気に闇魔力も退いたわ。
「それになに?そのちんまいの、それがアルドがつけた騎士ってわけ?どんだけひとがいないのよ!」
『カルラの実力も分からんくせによく言う』
『それは私にとっては褒め言葉。それで油断した奴らの首をかっ切って来た』
『……まだやるなよ』
『安心して。隊長。私もヴィーと同じ派。楽しみは後にとっておくほど味が出る』
そら良かった。いや……いいのか?
「そんなのに護衛が務まるって?バカみたい!」
ずかずかとジョヴァンナが部屋に押し入ってくる。
「や、やめて!」
「リタっち」
リタ嬢がカルラを守るように抱き締める。
「なぁに?それ!本当に役立たずの騎士じゃない!アッハッハッハッ!」
『動ければ喉をかっ切るのに』
『分かった。お前は暫くそのまま抱き締められとけ』
「そんなんで剣が握られるのかしら?私のベニートさまの足元にも及ばないわ!」
ベニート……騎士団長か。ジョヴァンナはベニートにホの字なんだっけか?
「ほら、そのひ弱な腕で剣を握れるの?見せてみなさいよ!」
カルラの得意武器は暗器だぞ。
しかしその時、ジョヴァンナがバランスを崩して転倒する。
『カルラ、何してんの』
『指先が動けばどうとでもなる』
さすがの腕前だが……。
『ややこしいことになった』
その証拠にジョヴァンナが悲鳴を上げたのだ。
「イヤアァァァァッ!!お父さまぁ、お母さまぁ!お義姉さまが連れてきた騎士が私を突き飛ばしたのおおおぉっ!!」
そしてドタドタと音が響いてくる。
「リタ!お前ジョヴァンナになんてことを!」
「ジョヴァンナはあなたとは比べ物にならない特別なスキルと光魔力を持つのに!」
この状況を見てどうやってそう思えるのか。
「お父さま、お母さま……そんなっ」
リタ嬢のこの屋敷での立場があからさまになったな。
『隊長……どうしようっ』
カルラ……?
『私の……せいだ』
全く……妙に年相応と言うか新人隊員らしさがあるな。
『まずはリタ嬢の腕から抜けるように。警護対象の行動としてはマイナスだ』
『分かった』
「リタっち、放して」
「カルラちゃん……?」
「私は騎士。護衛対象は騎士に抱き付かない。警護が出来ない」
「あ……っ、ごめんなさい」
「ミッション1、クリア」
「み……ミッション?」
『さて、始めようか』
『了解、隊長』
これは大公としての考えだ。
『このリタ嬢への所業は何事か』
「このリタ嬢への所業は何事か」
「何よこのガキ!子どものくせに!」
ジョヴァンナが叫ぶが関係ない。
『私は今、大公閣下の命でここにいる』
「私は今、大公閣下の命でここにいる」
『お前たちの所業は全て大公閣下の耳に入る』
「お前たちの所業は全て大公閣下の耳に入る」
『ゆくゆくは陛下の耳にもな』
「ゆくゆくは陛下の耳にもな」
「何だと!?」
「卑怯よ!」
公爵夫妻がカルラに迫る。確かにカルラは子どもに見えるが……それでも近衛騎士。近衛騎士ナメすぎだろ。それも……第6隊だぞ。
『公務執行妨害だ』
「公務執行妨害だ」
『やれ』
「応!」
カルラが目にも止まらぬ速さで公爵夫妻を気絶させれば、次にジョヴァンナの前立つ。
「ひ……っ」
あの顔、懐かしいなぁ。婚約破棄騒動以来じゃないか。ムカついたんで本来の闇魔力見せてやったらあんな感じになった。
『隊長の良さが分からないなんて罪。仕留める?』
『いや、何を恐いこと言ってんの。少し脅せばそれで悪女退散だ』
『了解、そう言うのは得意』
そう念話を送ってくれば、カルラが暗器を手にジョヴァンナの顔すれすれにぶっ刺した。
「ひいいぃっ、わ、私は類いまれなる、ひ、光魔法の……っ」
「関係ない。公務執行妨害は最強」
使い勝手もいいがなあ~~。あ、これは機密事項だった。
「思い知るがいい」
部屋に冷気が漏れ、ピシピシと氷筋が走る。
「ヒイィギイイィッ」
ふんっ。大人しくしていれば離れで白い結婚するだけで済んだろうに。
『それでも離れに追いやるの?』
ヴィーがクスリと微笑む。
『あの性格だからな。俺の闇魔力の都合もあるが……あれは無理。しかし……リタ嬢が凍えては困る』
『リタ嬢のところだけヒート魔法かけとく』
さすがは火魔法の使い手だ。




