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【2】これはストーキングではない



――――異世界が生きづらいと感じたことはあるか。そんなの毎日だ。


「……怠い」

前世の社畜やってた頃と何ら変わりはしない。あと祝日もシフト入ってれば勤務。第6隊は徹夜で張り込みなんてのも日常茶飯事だ。


「今何時」

「朝の4時」

ごく普通に答えてくる俺の腹心。


「お前いつ寝てんの?……ヴィー」

エルネスト並みのバイタリティーじゃねえか


「寝てるよ。アルドと」

「いやいや恐いんだが!?」

一応ベッドはいつもひとりで使っているのに。


「俺、子どもの頃はアルドがいないと眠れなかったから」

「そういやお前を拾ったのって12かそこらの時だっけ」

「正確な年齢なんて知らないけどね」

それは単に拾った時にこのくらいだろうとつけたものだからな。


「だけどさすがに卒業の歳だろ」

「ええー、まだまだ俺は現役なの」

いやその現役はさすがに卒業して欲しいんだが。


「お前普段どこで寝てるわけ?」

「んー?アルドの寝室に結界空間作ってその中に寝てんの」

そこら辺は好きにさせているから気配の有無はいちいち探知してないが……マジかよ。

部下がこんなんで俺は無事に結婚できるのだろうか。


「部屋もあてがったはずだろう。続き部屋」

俺の私室にはふたつ続き部屋がある。夫婦の寝室に通じる扉とヴィーの寝室に通じる扉。


「だからこそ気軽に来られるんじゃない」

そう言う気軽さのために続き部屋にしたんじゃないのだが。やっぱりどこで教育を間違った……?


「でもお前もお前だよ……よく寝てる俺に近付けるな」

寝ている時は無防備……ではないさすがに職業柄。しかし普通の人間なら俺を恐がるはずだ。


「俺も闇属性だからかな?へーき」

「ああ、そうだった」

闇属性同士ならこんなものだ。ほかの属性持ちは異様に闇を恐がるがな。


「でももう大人なんだから」

「こうして隣の寝具で寝てるわけじゃん」

そう言う心配じゃねえよ。


「なら、私は一緒に寝ていい?私はまだ子ども」

気配もなく現れた少女が告げてくる。


「……カルラ」

色の抜けた白髪に赤い瞳、青白い肌。彼女の名はカルラ・スパーダ。13歳。

『スパーダ』は俺が付けた表の姓だが。


「いや……そのな」

「さっき悪夢を見た。不眠症になりそう」

「分かった分かった。でも一応今は婚約者がいることを忘れるな」

フリーだったのは1週間だけだった。


「その前に嫁に来る女がアルドと寝られるの?」

「……そん時ゃぁ白い結婚で充分。貴族にはよくあることだし、俺の爵位は一代限りなのだから子孫を残す必要もない」

子孫が残ったとしたら王族の誰かと結婚するか、どこかの家に輿入れ嫁入りするかだが。


「私なら」

「やめなさい、こんなおっさんと」

「アルド、まだ20代」

「10代前半から見ると充分におっさんだ」

「私は構わない」

「若人にありがちな一種の気の迷いだ。ほら、とっとと寝な。6時になったらもう起床時間だ」

騎士の1日は早いのだ。第6隊は深夜勤務日以外に限るが。


「はぁい、お父さん」

「まさかの親父かよ」

まぁでもお父さん代わりに見られるのなら、『わたし、しょうらいはおとうさんのおよめさんになる!』みたいでかわいいではないか。


「ではお休み」

「お休み……すやぁ……」

寝るの早っ。ふぁぁ……俺も寝直すか。


※※※


――――2時間後。


キョンシーってこんな感じなんだろうか。


「う~~……あぁぁぁ~~……」

まるで前世の30代のようである。


「おはよう、アルド」

「ごく普通に枕元に立ってんじゃねぇよ、ヴィー」

よくある異世界チートなら両手に花だが、現実は左手に腹心(ストーカー)、右手に13歳である。


「おはよう、お父さん」

「お父さんはやめなさい、カルラ。真面目に30代の気分だ」


「そうなの?まだなってないのに良く知ってる」

「お前もな。何で知ってんの」

転生者ではないはずだが……?


「暗殺一家は30代まで生き延びていたらよくそう言ってる」

生き延びていたらって表現が嫌だな暗殺一家。


「さて、身支度を調えるぞ。俺たちも仕事だ」

「婚約者に会うんじゃないの?アルド」

「それも仕事だ、ヴィー。貴族だかんな」

「ふぅん、俺平民だから知らないや」


「てめぇ他人事だと思って……適当な爵位押し付けるぞ」

前世庶民から王族貴族な人生がどんだけ大変かぁっ!思い知らせてやろうか……。


「爵位って適当に押し付けるものだっけ?」

「陛下に押し付けられたら受けるしかない面倒なものだ。兄上ならばブラコンを暴走させて確実に認めるだろう」

これぞ使う時に使うコネ。就活の時に使うよりもよほど建設的なコネである。俺は前世使ったことはないけど。


「ぐえ……やめてくださいほんとやめて。あの陛下ならない……とは言えない」

「分かってるじゃないか」


「ぐぅ……どうすれば諦めてくれる」

「ふん……ならば黙って俺に続くことだ」

「はっ!ある……いや隊長!!」

分かればいいんだ分かれば。


※※※


前世風に言えば金持ちしか利用できない料亭。しかしながら西洋風世界なので高級個室レストランと言ったところか。


「初めまして。アルド・オスクリタ大公です」


「……リタ・ルーチェです」

向かい合う少女は確かに真珠姫と言うに相応しい。しかし同時に前世で言う悪役令嬢顔。


「本日は簡単な顔合わせです。楽にどうぞ」

「……は、はい」

だが自信なさげな雰囲気と何かに怯えたようすがそれを肯定できかねる。


まさか俺の闇魔力が……いや、隠し通しているはずなのだが。


「リタ嬢とお呼びしても?」

「は……はい」

やっぱり10代後半からしても俺はおっさんなんだろうか。

「私も『アルド』で構いません」

「あ……アルドさま」

取り敢えず第1関門は突破したか。


しかしながら……元婚約者の姉と言っても初めてこうして言葉を交わすとは。


「簡単な茶菓子です。お好きに召し上がってください」

簡単と言っても高級菓子である。経費は後で兄上に請求してやるから。


「その……お腹は空いて……」

ぐぅ……。


「……」

今、鳴ったよな?リタ嬢の顔が真っ赤になる。


「少しくらい大丈夫ですよ」

女子特有のダイエット中ってやつだろうか。なら無理に食べさせるわけにもいかないかもだが。


「あなたはもう少し食べた方がいい」

ジョヴァンナと比べても痩せすぎな気がする。

この違いは単なるダイエット中とは言いがたいよな。


「それとも何か事情が?」

初対面でこんなこと答えにくいかもしれないが、これから婚約者となる身。出来るだけ彼女のことを知っておきたい。


「……た、食べます」

リタ嬢はそっと菓子に手を伸ばし口に含む。


「……っ」

美味しく……なかったか?


「いいの……でしょうか。私が……こんな美味しいもの」

どういう意味だろう?しかしながら。


「もちろんです。これはあなたのために用意したものです」

「でもジョヴァンナは……あ、ごめんなさい!」

どうしてここにジョヴァンナが……?彼女もさすがに話題が不味いと分かったのかハッとする。


「私……またっ」

え……っ、泣いてっ!?


「ちょ……落ち着いて!」

つい彼女の手に触れる。

「……っ」

彼女の驚いたような表情と共に、どうしてか俺の中の闇魔力が弾けたような感覚に陥る。いや……弾けたと言うか、中和した……?


――――何だ、これは。しかし同時にどこかでこの感覚を得た気がするのだ。それはどこでだったか。


「私は気にしておりませんから。泣かないでください、リタ嬢」

「は……は、い、アルドさま」

どうしてか心からホッとしたようにリタ嬢が落ち着きを取り戻す。


「帰りは公爵家の馬車で?」

「……はい、時間が経てば迎えに来るはずです」

部下たちの報告は本当だったのか。公爵家の馬車は彼女をここまで運んだ後帰ったと。


「ならば大公家の馬車で送りましょう」

「ですが行き違いになったら……」

「送りがあるのに帰る方が悪いのですよ。さ、こちらへ」

リタ嬢の手を取ればとたとたと付いてくる。何だろう……何だか小動物のようでかわいいのだが。思いの外エスコートする俺の気分も晴れやかだ。


「乗り心地はいかがですか」

「と……とても、ふかふかです」

徹夜明けでも無理なく休めるふかふかの座席はリタ嬢を座らせるのにも役立っているようだ。


「ところで本日は侍女や供のものは」

「……おりません」


「では屋敷には」

「おりますが……私の専属では……」

「護衛は付いてきていないようですが」

「……おりません」

公爵家の令嬢なのにか?馬車の件といい、誘拐などされたらどうするのだ。


「……ごめんなさい」

「あなたが謝ることでは」

「ですけど……私が無能だから」

スキルも魔力もないからか。


「関係ありませんよ」

「ですが……」

「あなたはかわいらしい。それで充分です」

前世で言えばクールなアイドル並みのかわいさだ。


「え……っ」

リタ嬢が驚いたようにこちらを見る。


「ですから問題ありませんよ」

「は……はい」

何だろうなぁ……この子。……かわいくないか。


「公爵邸に到着したようです。お手をどうぞ」

「は……はい!」

「それから……カルラ」


「呼んだ?隊長」

どこからともなくひょいっと現れたその姿にリタ嬢が驚いたように見る。


「ああ。カルラにはリタ嬢の護衛を任せる」

「分かった。貴族のメイド見習いに化けたことならある」

それで何をしたのかは触れてはならない気がする。


「だがやるのはメイドじゃない。あくまでも近衛騎士としての護衛だ」

「了解、隊長」

「そう言うことだ、リタ嬢。いいだろうか」


「その……私の方こそ。いいのですか?大切な部下の方……なのですよね」

「だからこそです。婚約者を守ることは大切なことですから」

「……っ!」

「カルラも頼んだぞ」

「うん、任された」


「アルドさま……その、色々とありがとうございます」

「気にされることはありません。婚約者としとの当然の責務ですよ。それでは私は」

「は……はい!お気を付けて」

「ありがとうございます」

馬車に乗り込めば既に中には腹心が待っていた。


「で、どうするの?アルド。いや、隊長」

「決まってる。まずは調査だ、ヴィー」

馬車の中でさくっと黒装束に着替えれば、公爵邸の影で馬車が止まる。


「それじゃ、帰った体で頼むよ」

「お任せください我が主」

ふむ、うちの御者は主に従順で何よりだ。まぁ……うちの諜報部隊の一員・御庭番でもあるんだけどな。


「よし、行こうかヴィー」

「まずはどうする?リタ嬢への扱いがああだとしても公爵邸にだって御庭番はいるでしょ」

「そこだ。屋敷を見張ると言ってもまずはそこだ」

「だよねぇ。ストーキングと言えばまずは御庭番の突破が髄一だ」

「……お前は突破と言うか放置されてるけどな」

うちの御庭番たちはむしろ率先してやってくださいしてるけど。

……目覚まし代わりに。


「だがヴィー」

「うん?」


「これはストーキングではない!断じて……!!!」

そこだけはきっちりと言い付けておかないと。



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