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婚約破棄してきた元婚約者の姉と婚約することになった  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【19】意思を得た人形



――――闇の炎の中にそれはいた。


「何をしている」

ザバンと降り注いだ水に呆けたように見上げてくるのは5歳程年下だろうか。10か11の少年だ。


「どうして……」

か細い声が漏れでる。


「燃えてたら鎮火するのは当然だろう?それより……」

マジックボックスからタオルを取り出せばそれでコシコシと水滴を吸い取ってやる。


「風魔法が使えれば良かったんだがな。もしくは……お前ならヒート魔法も使えそうだ」

「知らない。燃やすことしか知らない。でも……」

「どうした?」

「おれは……危険なんだって」

「危険?そういや火魔法だけじゃなくて闇魔法も強そうだな」

「恐くないの?」

「恐いものかよ、これが」

普段は隠している闇魔力を出してやればハッとして俺を見上げてくる。


「おれと……同じ」

「そう、同じだ。お前、良ければうちに来るか?」

「いいの?」

「もちろん。それに……」

「……?」

「闇魔力持ち同士、放っておくのも心配だしな」

ぽすんと頭に手を乗せればまるで懐くかのように引っ付いてくる。


どうしてかそれが過去の自分と重なりあう。


「……不思議な縁だな」

「え……?」


「いや、何でもない。それよりお前の名前は?」

「……ヴィート」

「なら……愛称はヴィーかな。俺はアルドだ」

「アルド!」

「ああ」

それが出会いだった。


※※※


――――闇の中を駆ける。


「見えてきた」

「了解、アルド。でも……」


「分かっている、ヴィー」

「どうしてあの男はまた手を出した」


「お前がその理由を知っているのなら、彼もまた知っているかもしれない」

「私の知りたいことも……聞きたい」

「カルラ……そうだな。聞かねばなるまい」


「だけど……彼は答えられるんだね」

「そうだ。俺たち闇魔法使いは力が強ければ強いほど弱い闇魔力を呑み込む」

「あの人は……負けてしまったの」

「事実がそう物語っている」


やがて前方に人影が見える。小柄な子どもと分かるものの、カルラよりは年上か。ヴィーを保護した時よりも大きく……そうだな、15歳かそこらか。


「カイ!」

カルラの呼び掛けに、微動だに動かず立ち尽くしていた少年がこちらを振り返る。


相変わらず青白い肌に対照的な黒髪、瞳孔が縦長の瞳。表情はあどけなさが消え大人びている。


「カルラ」


「私の名前が呼べるなら……もう洗脳の闇魔法は切れているんだ」

「……元々ぼくには効かないよ」

「え……っ」


「だろうな。ここからでも感じる。お前の闇魔力は人とは異質な性質を持っている」

「それはあなたも同じでは」

カイがこちらを威嚇するように見る。


「いい度胸をしているようだ。俺の飼い主に」

「やめろ、ヴィー。不用意にやり返すな」

「ええ……だけどぉ」

「だけども何もねえよ。相手は子どもだ」

「ふん……純粋な人とは言えないけど」


「あなたもぼくと同じ……?」

「同族扱いやめてもらえる?」

そういやコイツ、同担拒否だったけど……同族も拒否なのか?


「少なくとも人形化されてないってことは長らく長を謀っていたと言うこと。相当な悪ガキだ」


「それしか生きる術がなかった」


「ま、そうかもねぇ。じゃなきゃとっくに処分されていたろうね」

その張本人が言うとなかなかに重たいな。


「それに……そうか、あなたがその人の主なら、原因はあなたにもある」

カイが俺を見る。


「かつて飼い慣らすのが困難だと捨てたものをあなたが拾って飼い慣らした。だからあの男は……長はまた欲を出したんだ」

「なるほど?長に暗殺人形を牽制させて煮え湯を飲ませた俺がヴィーを飼い慣らしているのなら自分にもできると?」


「そうだよ。人形を作り、仕事をさせて自分たちは指示をするだけ。鈍った腕とあなたよりも薄い闇で」

「実力の違いくらい見せつけてやったと思っていたんだがな」

「それでも負けたくなかったのだろう」

「ならば人形を作らず、人形作りをやめて全て闇ギルドに差し出し出頭すれば良かった」

今回のようにジェンナーロが引き受けてくれたはずだ。


「そんなことができるほど、プライドを折るのは無理だったのでしょう」

「長らく裏社会に名を轟かせてきたから……か」

「そう言うことです。それから……カルラ」


「……私」

「ぼくのことに気が付けば、何がなんでも追ってくると思ってた。こんなに早かったのはその人たちのスキルのお陰?」

「……そうだよ」

カルラが静かに答える。カイはそれまで待つ気だったのだろう。


「イディハルケンは……カルラで最後だ」

「……手を下したのか」


「まさか彼らも人形に下克上されたとは思うまい」

「それで……ほかの人形たちは。ジェンナーロたちが来てくれなかったら、彼らは自らの生命維持に必要なことすらできないところだった」

「……大公邸を包囲したところで闇の主に始末されると思っていたんだけどな。何たってあそこは……」


「そこまで。お前も闇社会に足を踏み入れた身だ。おしゃべりが過ぎるぞ」

光側のベニートでさえ直接の言及は拒否したと言うのに。


「ぼくも始末するつもりですか」

「暗殺人形たちを始末しなかった時点でそのつもりなどないと思わないか」

「だけどぼくは……人形ではなかった」

「だとしても……俺は騎士だ。騎士として常に正しくあらねばならない」

たとえ第6隊が闇の世界にも脚を突っ込んでいたとしても、表向きは陛下に騎士であることの忠誠を捧げているんだよ。


「あなたは主なのに甘い。だけどカルラはどうかな」

「私……」

「ぼくに聞きたいことがあったんじゃないのか」

「……あの人は、長は、私のことを……」


「娘と呼んだことはなかったよ」

「……」

カルラは俯く。そのスキルゆえに分かることもあるが長も闇魔法使い。ある程度は隠していたのかもしれない。そこをカルラは知りたかった。


「けれど娘と呼んだのなら……仇を取るかい?」

「私にそうさせるつもりならどうして最初に『呼ばなかった』と言ったの」

「……君に嘘をつくことはできなかった」

「どうして……?」

「君は人形相手にも声を聞き、人間として接しようとした」

「それは……」

「人形のふりをし、君に心を読ませなかったぼくにもだ」

「たとえそうでも、カイも私の仲間だ。それに私の父親代わりは別にいる」

「そこの彼かい?」

「そうだね。だから寂しくなんてない。だけどあの人は……寂しい人だったと思うよ」


「……寂しい?」

「孤独な人。私のお父さんにライバル心を燃やしたのに、自分は何一つ同じものを得られなかったから」

「確かに」

「私が思うのはそれだけだ。だから私は……カイを生かすよ」

「……」


「カイ、一緒においで。カイは私たちと来るべきだ」

「そんなの、その人が許すのか?」


「俺は構わない。何たって前例があるからな」

「ぼくが最後のひとりのカルラに手を下すとは?」


「お前はここでカルラにやられるつもりだったんだろ?」

「……それがふさわしいと思ったんだ。カルラはもうイディハルケンの人形じゃない。カルラは人間になったんだ。だから……」

「カルラだけは違うとお前も思ったのだろう?」

「……そうだ」

「ならそれでいい。ジェンナーロもお前を引き取ることは躊躇すると言うか、俺に押し付けてくるだろう」

何たって前例があるのだから。


「押し付けられてやるさ。ただしお前はカルラの後輩な」

「ぼくの方が年上だけど」

「騎士としては先輩だ」

「……確かに」

「それにカルラの後輩は嫌か?」

「……」

カイがカルラを見やる。


「……嫌じゃないよ」

「なら、決まりだな」

「変な人」

「それでも騎士だから」


「これが騎士として正しくあること」

カルラが自分に言い聞かせるように頷く。


「始末することで成功とする闇族とは違う。分かりあうこと」

「そうだ。騎士は常に弱いものを守るためにある」

「私たちも」

「当然だ」

ぽすんとカルラの髪を撫でてやればその口元が薄く笑む。


カイはそれを不思議そうに眺めた後、ホッとしたように嘆息した。


※※※


これで全て終わり。警戒体制を解き表は騎士団に、裏は裏ギルドに任せ俺は住み慣れた匂いのする場所へと帰還した。


「やっと帰ってこられた」

扉を開ければ真っ先に飛び付いてきた姿にひと安心する。


「ただいま、リタ」

「お帰りなさい、アルドさま!」


「全て終わった。もうだ丈夫だ」

「メイドたちもそう教えてくれました!でも……アルドさまの姿を見るまでは……っ」

うっすらと目尻に涙が浮かんでいる。


「すまなかったな」

「いえ、ずっとお仕事だったのですから」

「だが俺と結婚すると言うことはこう言うことだ。また危険にさらされるかも分からない」


「それでもアルドさまは守ってくださるのでしょう?」

「それはもちろんだ!」

「はい。アルドさまはそう言う方です。騎士としても、夫としても。アルドさまは常に誰かを守るために戦っていらっしゃいます」

「……リタ」

「私はそれを誇りに思います!」

誇り……か。


「ありがとうな、リタ」

「こちらこそ!お嫁さんにしてくれてありがとうございます」

「俺の方こそ」

互いにふんわりと微笑み合えば、足は自然とベッドに向かう。


「お疲れでしょう?今夜はゆっくり休めるのですよね」

「ああ、さすがに明日の昼まではな」

何事もなければ休めるはずだ。


「ヴィーもカルラたちも取り敢えずは休ませられる」

「ヴィーさんやカルラちゃんも無事なんですよね」

「ああ。アイツらも今夜はゆっくりするはずだ」

ヴィーがどこでゆっくりするかは……触れないでおくが。


とにかく今は。


「ゆっくり、休んでくださいね」

「……ああ……」

髪をすくリタの指が心地よい。


――――今夜はいい夢を見られそうだ。



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