【18】闇の一族
――――緊迫した空気の中、闇に紛れた隊員たちが配置につく。
魔弾狙撃手から索敵部隊、実働部隊。
『俺の索敵スキルで割り出した敵のデータも常に共有する。闇魔法使いを嘗めてもらっちゃ困るってことだ』
闇魔力を持つ者の索敵スキルは闇に紛れたもの、魔法で偽装したものまで炙り出す。
『だが作戦は殺すことじゃない』
狙撃手が狙うのも命じゃない。あくまでも味方のバックアップである。
『いいか、良く聞け。敵は闇族の暗殺人形だ』
闇族こと闇の一族は自ら現場に立つこともない。ほんと……ナメられたものだ。
『だがやることは説得だの話し合いだの生ぬるいことじゃぁない。殺るよりも難しいぞ。制圧だ!』
愚かにも第6隊のトップに喧嘩を売ったやつら。目にものを見せてやらんでどうする。
『だが俺たちは近衛騎士団第6隊だ!騎士として守るべきものは何だ。捧げた剣は誰のためにある』
――――だから闇族の狙いどおり殺すことじゃない。殺して全てを終わらせることじゃない。俺たちは闇の住人のひとりでも……騎士だから。
『騎士として常に正しくあれ!!』
『『『了解!!』』』
※※※
闇夜の静寂が緊迫を孕む中、俺にだけ聞こえる声が呼ぶ。
『隊長』
『どうした、カルラ。不安なのか』
『……隊長は、目的は殺すことじゃないって言った』
『そうだな。殺すことじゃない』
『どうして……生かしてくれるの』
その問いはカルラにとって元は同じ存在だったからか。
『それは騎士だからだ。騎士は常に弱いものを守るためにある』
『弱いもの』
『そうだ。意思も関係なく人間であることを奪われた人形たち。救ってやらないでどうする』
『……隊長は変わらない』
『変わらないさ。揺るがないさ。この揺るがない信念のもと、俺たちは騎士の誓いを立てたんだ』
『だけど私は……っ』
カルラも近衛騎士であるように騎士の誓いは立てている。しかしまだ13の少女である。
『しっかり見ておけよ。騎士の信念を。それがお前の立てた騎士の誓いにもなる』
『今からでも?』
『もちろんだ』
『分かった。私も……私は隊長に人間にしてもらったから。だから私も騎士として正しくありたい』
『その意気だ』
そして機は熟す。
念話を部隊全体に飛ばす。
『準備はいいか』
『『『はい、隊長!』』』
『作戦決行5秒前!』
……
『4』
……
『3』
……
『2』
……
『1』
……
『決行!!!』
闇が動く。殺気のない暗器が踊る。
意思を奪われた人形と騎士がぶつかり合う……!
『暗殺人形は任務に失敗すると自死をはかる!毒薬を飲ませないで!』
カルラの声が響く。
『説得は無駄だ!暗器、魔力、全てを無効化した上で拘束せよ!』
それが俺たちにできることだ。
『ちょっと手荒くなるけど仕方がないよねぇ』
『ヴィー!それは仕方がないが騎士としての誇りは捨てんなよ!!』
『はいはーい』
作戦決行と共に入り込むものがある。
周りを囲っていた人形たちは陽動だ。
『本番はこちらだ、カルラ』
『了解、隊長』
闇魔法使いの俺の索敵を掻い潜れるわけがない。
「そこまでだ」
「挟み撃ち」
大公邸の敷地内に侵入した小さな人影を捉える。
「……あなたが来たのね、アイラ。来るならアイラかカイだと思っていた」
やはりカルラの知己か。青白い肌に生気のない顔。
「……」
アイラは何も答えることなく暗器を取り出しカルラに迫る。
「……慣れてる。これが人形」
アイラの一撃を難なく受け止めるカルラ。
「やっぱり腕は……私の方が上」
ガキンと暗器を弾き飛ばしたカルラが素早く魔力封じの手枷を嵌める。
「……っ!」
アイラは急いで外そうとするがあれは簡単には外せない特別製だ。
「そこだな……!」
的確な箇所を裂けばガシャガシャと仕込んだ暗器が落ちてくる。
するとアイラは咄嗟にとある小瓶に手を伸ばす。
「させない」
カルラの氷魔法が瓶をかちこちに凍らせると、ブーツでガキンと粉々に砕く。
「あとは闇に溶かして無効化する!」
小瓶は中身も外側も跡形もなく闇に溶けていく……。
「……っ」
アイラが失意と共に崩れ落ちるのをカルラが拘束する。
「今の私は騎士だから。優しくはできない」
「任務は彼女らの拘束だからな」
「けど……私には分かるから。人形たちは……人形をさせられているだけ。心の叫びは私のスキルが拾う」
「お前はそうやって彼女たちと会話してきたんだな」
「……そうだよ」
カルラが憂いげに睫毛を下ろす。
そしてそれと同時に念話で通信が入る。
『A地点、制圧完了』
『同じくB地点も制圧完了!』
次々と部下たちから連絡が入る。
『例の毒薬は闇魔法と炎魔法で無力化してるから任せて~~』
ヴィーの声は相変わらず間の抜けたものだが。
『了解。大公邸全域、異常はないようだな』
『中も問題ありません、旦那さま。奥さまも無事です』
『ああ、サンキューな。ロベルト』
敵をわざわざ招き入れたのはここだけってことだ。
「撤収するぞ、カルラ」
「うん、隊長」
アイラを連れ撤収すれば、第6隊員たちの厳重な警戒の中無力化された人形たちが拘束されている。
「全員無傷……とはいかないけど命の別状はないよ」
「そうか……良くやった。ヴィー、お前たちもだ」
『『『はい、隊長!』』』
「しかしあとはこの子たちだな」
「対話はアルドの予想した通りできる状況じゃない。教育は徹底されているようだ」
「否、教育と言うよりも洗脳、調教の類い」
カルラの言葉にみな眉をひそめる。
「それならアルドはカルラとどう対話したわけ?」
ヴィーは俺たちの出会いについて言っているのか。
「私は人形として育てられた。けど一族だったから。人形の中でもある程度の意思と自由があった」
それでもイディハルケンからは逃れられなかったわけだが。
「闇魔法は使い方を誤れば呪うこともできるし洗脳することもできる。だからその逆も心得ている」
「だから私は人間になれた。隊長、この子たちのことも」
「やってみよう……と言いたいところだが」
「どうしたの?」
遠視スキルと言うものは便利である。似た同じようなスキルを感知してくれるのだからな。
「そろそろ必要な頃合いかと思いまして」
「ジェンナーロ……頃合いと言うか見てただろう」
「特に苦情もなかったので堪能させていただきましたよ~~」
「言っとくが任務だからだぞ」
それと事情が事情だから共有しておく必要もあったのだ。
「うふふふふふっ。心得ておりますとも。それと……まずは彼ら彼女らのことですね?」
ジェンナーロの視線が動くのと共に現れた黒服のものたち。
「闇ギルド職員まで連れてきたのか」
「みな闇魔法の精鋭ですよ。洗脳魔法の仕組みは見えていますからお構い無く。後はこちらで引き取りましょう」
ジェンナーロの千里眼は魔法の仕組みすら容易に見抜くのだ。
「彼らに預けるのでいいの?」
「いいよ、ヴィー。彼らなら適切な解除魔法を使ってくれる。それに……自らの意思ではないにしろ一度こちら側に足を踏み入れてしまったんだ」
「そうですねぇ……。それを忘れてすっきりさっぱり普通の暮らしを……とは行きませんよ」
「ああ。ジェンナーロ」
「ですから面倒は見ますよ。闇ギルドの存在意義は闇世界の秩序のため。ギルドとは秩序のためにあるものですから」
表にしろ商業ギルドにしろ工業ギルドにしろ……根底にあるのは『秩序』である。
「ならば任せる」
「ええ。お任せを」
今できることはこれくらいしかない。
「それでアルドはこれからいかように?」
「俺たちは邪教の本部を叩く」
「そうだと思いました」
「ふん……喧嘩を売られてここまでで済ます俺じゃない」
大元は叩かないとな。
「ヴィー、カルラも来い」
『『了解!』』
大公邸の警備のため幾人かこちらに残し、俺たちは邪教の本部に乗り込む。
『そちらの様子は』
邪教本部に配備している部下に連絡を取る。
『対象の男女2名、変わらず』
『分かった』
男女……ねぇ。ったくあのガキ、こんな時間までとはいい度胸をしている。
――――邪教の本部に辿り着けば、昼間は信者で賑わっているだろうが今は明かりの灯った部屋以外は静寂だ。
「ベニート、待機ご苦労だったな」
「オスクリタ隊長」
本部には俺たちの他にも騎士団が揃っている。一応表は彼らの縄張りだから好き勝手し過ぎる訳にも行くまい。
「本当によろしいのですか?邪教にはかの貴族家が関わっています」
「どうせ落ち目なくせに足りない資金を庶民から巻き上げているんだ。叩いてなんぼだ。……表向きはな」
「裏の噂は聞き及んでおります。そちらも……」
「問題ない。俺を誰だと思っている」
「我らが王弟殿下であらせられる」
敢えて裏の肩書きは出さないところ、ベニートも分かってるじゃないか。
「それじゃぁ早速乗り込もうか。最初はどーんと派手になぁっ!」
「少し私怨が入っていませんか?」
「気のせいだ!行くぞ!あの女にぎゃふんと言わせたれやぁっ!!」
「ガッツリ入ってますよね?」
ベニート、お前だって少しは入れたっていいんだぞ?この俺が許すんだから。
※※※
突然の合同騎士団の乱入に静けさに包まれていた邪教本部が大慌てである。
「落ち目の公爵家がついていれば磐石だとでも思っていたのか?」
「少なくとも彼らは裏を宛にしていたのでしょう」
「同時に恐れてもいただろうが……この扉の先にいる女は正真正銘実家の権力のお陰と高を括っているだろう」
「でしょうね」
バンと開け放たれた扉に驚きこちらを見る男女。
事前に報告には聞いていたが……はぁ、本当に男女か。
「ちょっと……何なのよ、アルド!?それにベニートさままで……っ」
「ふぅん?さすがに今はファウストに熱をあげているからかベニートに飛び付いたりはしないんだなぁ、ジョヴァンナ・ルーチェ」
「……それは勘弁を」
ベニートの小さな呟きが聞こえてきたが。
「何を訳の分からないことを言ってるのよ!ここは私の聖域よ!」
積むにつまれたこのドレスや宝石の山がか?
「いい?私はここの教団の光の巫女なのよ」
この女、まさか神殿の女神信仰を理解していないとか言わないよな?
「ここは神殿ではない以上女神以外を崇めている邪教ってことだぞ」
「はぁ?何を言ってるの?」
「お前のおつむでは理解できなくても……お前は理解しているはずだよな」
先ほどから黙りこくっている男の方を見る。
「なぁ、ファウスト」
「お……叔父上」
「言っておくが……兄上の治世に傷をつけることは許さない」
「ですがその、ここはどんな庶民にも手をさしのべる新しいスタンスの教団で……」
「神殿の真似事してる時点で詐欺なんだよ!バカが!!」
「ひ……っ」
「神殿に積めば済むお布施を庶民から巻き上げてる事実は変わりねぇっ!神殿は必要な時にだけ。だがここは必要もない時もだろうがっ!」
「……」
「そんなことしなくていいように貴族が寄付をしてんだよ!」
「は……はい。だけどジョヴァンナは稀有な光魔力の持ち主で……っ」
「はぁ?」
闇魔力をふんだんに放出すれば、ジョヴァンナが悲鳴を上げる。
「キャァァァッ!化け物ォッ!!」
「ファウスト。お前の親父はこれくらいであんなことは言わなかった」
「父上……が?」
「真に強い光魔力の持ち主だったからこそ。闇魔力の保持者の俺すらも受け入れた」
親から得られなかった愛情すらも注いでくれた。
「それなのにそんなことも分からねえで兄上の治世に傷をつけるのなら……ここで事故死扱いにしてやろうかぁっ!?えぇ゛っ!?」
「ひ……ひいいぃ……っ」
ファウストが間抜けな声で崩れ落ちる。
「ベニート、王子殿下は丁重に保護して差し上げろ」
「保護理由はいかがいたしましょうか」
「王子殿下はこっそりと夜の城下視察に出た際に誤って噴水に落ちてずぶ濡れになられた」
するとザバンと水がファウストの上から落ちてくる。俺の魔力は闇だけじゃない。
「秘密裏に王都で近衛騎士に引き渡す手はずは整えておいた」
「さすがです。これで我々も近衛騎士に恩を売れますね」
「ああ、そこら辺は好きにするといい」
これは騎士団と第6隊しか知らない秘匿事項だからな。
「さて、ここの捕縛はベニートたちに任せる。第6隊は裏を叩く」
「了解、アルド」
颯爽とその場を後にしようとすればキンキン声が響く。
「ちょっと……っ、私はどうなるのよぉっ!!?」
「好きにしていいぞ、ベニート」
「ではこっちで牢にぶちこみます」
「公爵家が引き取りに来たらさぞ醜聞になるだろうな」
令嬢が邪教の片棒を担いでいたなんて。
「こちらはお任せを」
「ああ、ベニート」
俺たちはこの裏にいるやつらに用がある。
「隊長、カイの姿が見えなかった。私の勘ではカイが廃棄になるとは考えられない」
「そいつはカルラから見ても腕が立つってことか」
「そうだよ。それに……」
「うん?」
「まるでヴィーみたいに感情を読ませないんだ」
「相当強い闇魔力の持ち主か」
「うん……」
カルラの表情は彼を理解してやれなかった悔恨か、対峙するかもしれない不安か。
「隊長、気配がないよ」
「ああ……だがいる」
「どう言うこと?」
「索敵スキルには引っ掛かる」
「嘘……あのひとの気配なら私が分からないはずがない!」
カルラも誰が待ち構えているか分かっていたようだ。
「ここで待っていてもいい。ヴィーと確認に行ってくる」
「……私も行く」
「見たくないものを見るかもしれないぞ」
「隊長も……見届けたんでしょ?」
「そうだな」
あの人の……先代の最期を。
「だから私も見届ける」
「分かった」
礼拝堂の一郭、そこに青白い肌の男が横たわっている。その面立ちはどこかカルラにも通じるものがある。
「……どうして。それにこの傷、新しいよ」
「ああ。闇世界の中では知るものぞ知る暗殺者だったはずだ」
「最期は飼い犬にあっさりと寝首をかかれるなんて……あっけない」
「カルラ……」
「いいの。この人は私にとっては親じゃない。私にとっては人形の操り師。だけど……この傷をつけたものは探さないといけない。私が最後に聞きたかったことを奪ったんだから」
「……分かった。追おう。まだそんなに遠くには行っていないはずだ」
「うん」
索敵スキル、解放。遠視、解放。
「……見えた」
ジェンナーロほどではないが、俺にもこれくらいはできるものでね。さて……本当の決着と行こうか!




