【15】闇の主
――――side:リタ
白い、白い空間。
ここは、どこだろうか。
「おや、お目覚めですか」
目の前には黒髪にダークグレーの瞳の爽やかな青年がいる。でもどこかおかしい。この空間自体おかしいがもっとおかしいのは……。
「……?」
このもやのようなものは何なのだろう……?
「おや……やはりあなた、見えるのですね。興味深い」
「え……」
「幼い頃より見えていたのではないですか?ですが……誰もそれを信じてくれなかった」
「どうしてそれを」
「見えるからですよ。私の目は何でも見える。だからこそ教えて差し上げましょうか?」
「何を……ですか?」
「あなたが見ているものですよ」
「……」
「例えばあなたがアルドを見た時に見たもの、とか」
「アルドさまをご存知なのですか」
「もちろん。むしろ知らぬわけがない」
「アルドさまとはどのような関係で?それにヴィーさんとも」
私をここに連れてきたのは十中八九ヴィーさんだろう。
「そうですねぇ……アルドは私の最推し、ヴィーは同志と言ったところでしょうか」
「さいお……どう言う?」
「とても尊き存在と言うことです。あなたも見たのでしょう?あの方から滲み出る深淵の闇の魔力を」
「……まさか、私が見ていたものって……」
「通常の人間には見えないはずの……魔力の粒子や残滓と言ったところでしょうか」
「私には魔力がないから見えたってことですか?」
「いいえ、あなたにも魔力はありますよ。ですが……そうですね。あなたの持つ稀有なスキルが隠してしまった」
「私の……スキル?」
「そう……それは」
青年が口を開きかけた時。
ピシリ。
空間に亀裂が生じる。
「一体何?」
「思ったよりも早かったようですね」
クスリと青年が微笑めば、亀裂の向こうから求めていた姿が現れる。
「リタ――――ッ!!!」
バキンと空間を粉々に砕き躍り出たその姿に思わず叫んだ。
「アルドさま!」
「さぁて……どう言うつもりなのか洗いざらい吐いてもらうぞ!ジェンナーロ!!」
※※※
――――side:アルド
「隊長!ここって……」
「ああそうだ、カルラ。闇ギルド本部だよ」
表のギルドがあれば裏もある。ここはそんな裏側を担当する。
「リタっちはここに?」
「ああ……恐らくは」
足を踏み入れようとした時、目の前に見慣れた騎士の姿が目に入る。
「ヴィー……お前、どういうつもりだ」
「どうもこうも、俺たちに首輪を付けないと決めたのは隊長でしょう?だからこそこんな風に寝返ることだってできる」
「それは……」
「今さら、後悔してる?」
「後悔なんて……してない!俺はお前たちと絆を紡いでいると信じている!今もなお、お前とも!」
「なら証明してみる?」
ヴィーが緋色の刀身を抜き去る。まさに彼の人生を表したような色の刃だ。
「かかって来なよ、隊長。言っとくけど……通すなって言われているものでね」
「隊長、どうするの?ヴィーとやり合う気?」
「安心しろ、カルラ。何があっても俺はヴィーを信じている。そして何より……俺の方がヴィーより強い!」
闇色の刀身を抜き去れば、炎の闇と深淵の闇がぶつかり合う。
「通してもらうぞ、ヴィー!」
「……っ、相変わらずいい闇だっ」
「食らえええぇっ!」
渾身の闇魔力と剣薙ぎを叩き込む。
「うぐ……っ」
ヴィーが吹っ飛び何か見えないものに激突する。
「ほう……?それか」
そこだけが異空間の入口となっている。
「あっれぇ~~、おかしいなぁ。バレちゃった」
ニィとほくそ笑むヴィーをギリッと睨み付ける。
「後で覚えとけ」
「ヴィー、私の分もだ」
カルラが告げれば、ヴィーは『ははは』と笑う。
本当に読めないやつめ。しかしながら入口が分かったのなら。
「壊すまで!」
ガンッ
ガツンッ
ガツンッッ!!
「リタ――――ッ!!!」
バキン
白い空間が見え、粉々に崩れていく。
「アルドさま!」
リタの姿と共に捉えた男の姿にやはりと頷く。
既にここは闇ギルドの壁に囲まれた簡素な部屋でしかない。
「さぁて……どう言うつもりなのか洗いざらい吐いてもらうぞ!ジェンナーロ!!」
「おや……ヴィーにはここを知られぬよう撹乱するよう言っておいたのですが」
「はぁ?アイツ、これ見よがしな場所で待ってたが?」
その上吹き飛ばされて見事に見えない壁があらわになった。
「あーあ……悪いねえ、ジェンナーロさん」
ヴィーが何事もなかったかのように俺の隣を抜けジェンナーロに近付く。
それをカルラがギッと睨んでいる。
そしてリタをスッと立たせればにこりと笑う。
「俺……同担拒否なんだわ」
「どう……たん?」
リタが首を傾げる。
「アルドの隣は俺だけでいい」
「おやおや……残念ですね。そこの暗殺人形も隣にいますが」
「暗殺人形があんなに取り乱すわけないでしょ?」
ヴィーがそれすらも見ていたように告げる。
「それにアルドの圧力でイディハルケンもいたずらに新たな暗殺人形を作れなくなった。あんたも賛成したんじゃないのか」
「ふふふっ。それもそうですねぇ……暗殺人形に頼らねば仕事もこなせないのなら本気で潰す……と。あの時のアルドは震えるほど闇に染まっていて震えが止まりませんでした」
「変態が」
「あなたが言います?」
「少なくともあんたとは志を異にするものだ」
そう言うとヴィーがリタを俺の方へ行くように押す。
「行きな」
「ヴィーさん……?」
「アルドの前でこれ以上悪事を企むほどジェンナーロさんは愚かじゃない……むしろこの状況になるのが最大の目的。目的は果たしたはずだ」
「ええ。なかなか楽しませてもらいましたよ」
ジェンナーロが手を振るとリタがトタトタとこちらに駆けてくる。
「リタ!無事でよかった!」
「アルドさま!」
ふわりと抱き締めればまた清浄な時が降りてくる。
「ったく……俺がどこでアルドを待ち構えていたかも見てたくせに」
「その真意を知りたかったのですよ。私のスキルは見ることだけ」
「それならどこまでも、何でもだけど」
「だからこそ分からないこともあるのですよ。私はそれを知りたい」
「そのためにこんなことを仕組んだ……いや、違うな。目的は何だ」
そう、それはあくまでもコイツの趣味なのだ。今回のことはそうじゃない。
「おや、アルド。あなたも『鑑定』して欲しかったのでは?私の『千里眼』で」
「それは……」
「あなたの予想はだいたい正しいでしょうね。リタ夫人のスキルは『無効化』ですよ」
「無効化?」
リタが驚いている。
「そうか……そう言うことだったのか」
だからこそ闇魔力すらも無効化していた。
「ええ。そしてそのスキルはリタ夫人次第でどんなものも無効化する稀有なもの。使い方次第では悪事にも利用できる」
「それは……っ」
「その事が公になればまず何が動くか」
「この俺の手から奪おうと?」
「闇社会に精通したものなら手は出さないでしょう。あなたを怒らせたらイディハルケンの二の舞だ」
アイツらは今相当肩身が狭いだろうな。
「だがそうでないものなたちは」
「闇の主の名前も知らない新参ものや金目に眩んだ愚か者たち」
「そう。手を出すかもしれないでしょう?だからこそ」
「お前がやったと?」
「闇社会のナンバーツーが手を出し主に怒られれば牽制にもなるでしょう?」
「そのために……リタも恐い思いをしたかもしれない」
「ふふふっ。甘やかしすぎてはろくなことになりませんよ。それにその子は……あなたが思っているほど弱くはない」
「……」
それは彼女の育った環境ゆえなのか。
「あなたがいたからこそ」
「え……っ」
「強く正しくあれる。カルラもヴィーも部下たちも……そうでしょう?」
「ジェンナーロ……」
「だからこそ我が主。そのために私はここにいるのです」
「分かった。ならばもう容赦はしない。ジェンナーロ!」
「はい」
「お前はまだ当分闇ギルドの副ギルド長としてギルド長代行!馬車馬のように働けぇっ!」
「うふふっ。ゾクゾクしますね」
……やっぱりコイツ、変態だ。
「さて、片は付いた。帰る!ヴィー、お前もだ」
「もちろん!言われなくても付いていくからっ」
こっちもこっちで違う意味で変態だな。
「ああ、そうそう」
「ジェンナーロ?」
「リタ夫人の魔力ですが……風ですよ。本人が自覚ししっかりと基礎を学べば使えるようにもなりめしょう」
「私にも魔力が……ありがとうございます、ジェンナーロさん!」
リタがぺこりとお辞儀をする。
「おやおや……私も気に入ってしまうかもしれませんねぇ」
それは……切に勘弁して欲しい。




