【14】裏切りの忠騎士
――――side:リタ
薔薇のかおりが運んでくるテラスでは2人の淑女が華を咲かせていた。
「今日は来てくれてありがとうございます、リタさま」
シルバーブロンドにレモン色の瞳の美少女が微笑む。
年齢は私と同い年。私よりも先に生まれた高位貴族令嬢の彼女はリヴィオ殿下の婚約者になった。
そして私は一年遅れてファウスト殿下の婚約者に……それも過去の話。今はアルドさまの妻なのだから気にすることなどないはずだ。
「いえ、こちらこそお招きありがとうございます。レティツィアさま」
私も粗相のないように笑みを返す。
「こうしてお茶会に来ていただけるなんて光栄ですわ。今日はリタさまとたくさんお話がしたいと思っておりましたの」
「私もレティツィアさまとのお話、楽しみにしておりました」
こうして同世代の少女とお茶をするなんて、無能と蔑まれる前のうんと小さな頃以来だ。
「嬉しいですわ。美味しいお茶菓子もたくさんありますからどうぞ楽しんで行ってくださいませ」
「ええ。最近お菓子作りをしているのでいろいろなお菓子を食べられることが嬉しいのです」
「まぁ……っ!もしかしてそのお菓子はアルドさまに!?」
「え……ええ。喜んでいただければと思って……!」
「素敵ですわ!その……もしよろしければですけれどアルドさまの知られざる素顔などを知りたいですわ」
「し……知られざる!?」
そんなに……なの?
「だってアルドさまったら、陛下がかねてよりパーティーに招いてもなかなか来られないのですもの」
「そ……そうだったのですか」
高位貴族と言うこともあり積極的に参加しているのだと思っていたが。
その面では私もそうだけれど事情がまるで違うのよね。
「そう!だからこそそのミステリアスな素顔は社交界中で妄想が膨らみまくっておりますの」
「ええっ」
ミステリアスな……と言われても。普段のアルドさまは飾り気もなく力強くてお優しい。
だが社交界にあまり参加してこなかったとなればそう話題が一人歩きしてもおかしくはないのだろうか。
「ですから是非、たくさん聞かせてくださいませ!」
「ええと……私に分かることでしたら……」
レティツィアさまの勢いに押し負けてしまったろうか。私はおずおずと頷いた。
※※※
――――side:アルド
署名、印、署名、印……。
やっと半分片付いたか。
「うーん……こっちの案件の調査はアイツにやらせるとして……こっちは今日中に決裁終わらせないとエルネストに怒られるな」
第6隊は徹夜もあれば張り込みもあれば……隊長など幹部職になれば書類業務も普通だ。
「やぁアルド。捗ってるー?」
「からかうつもりならお前にもやらせんぞ、ヴィー」
「あっはは。それは勘弁」
「でもここら辺は種類ごとに共有ボックスに入れておけ」
「結局やらせるの?仕方がないなぁ」
文句を言いつつもヴィーが種類ごとに共有ボックスに投入していく。これでエルネストに送れば完了だ。
「アルドー」
「ん?どうした?」
「エルネストから。追加だって」
「うぐっ」
さらに増えるだなんて。
「夕方までには片付ける!」
「そうだねぇ。俺も夕方からは用事があるから」
「用事……?」
珍しいこともあるものだな。暇さえあれば俺のストーキングとか言ってるくせに。だが俺も身を固めたし、アイツも何かほかの趣味でも探してきたのかもしれないな。
それならそれでいいことか。
※※※
――――side:リタ
花園に囲まれたお茶会は盛り上がりすぎてしまったのか陽が傾きかけている。
「本日はたくさんお話を伺えて楽しかったですわ、リタさま」
「私の方こそ……!レティツィアさまとお話しできて嬉しかったです」
アルドさまのお話だけではなくて時折王太子殿下との甘い日々もお聞きできるだなんて。
私とアルドさまも……って何を考えているのかしら!私ったら!
「このような時間まで盛り上がってしまうだなんて……申し訳ないですわ」
「いえいえそんな……!」
「お帰りは大公家の馬車で?」
「ええ」
長時間待たせてしまい御者にも申し訳ない。
「ではお気を付けて」
「はい、レティツィアさまも」
「ありがとうございます、リタさま。またお話いたしましょう」
「ええ。もちろんですわ」
レティツィアさまにお礼を言い、カルラちゃんと共に来た道を戻る。
「遅くなってしまってアルドさまは心配していらっしゃるかしら」
「念話なら送ってある」
「そうだった!ありがとう、カルラちゃん」
「ううん。けど……心配はしてると思う。隊長は心配性」
「それじゃぁ早く帰らないとね。御者は……」
「こっち」
カルラちゃんに続いて歩を向けた時。前方に見えた人影に驚く。
「ヴィーさん!ヴィーさんもまだお城に?」
「そうそう、用事が長引いちゃってねぇ」
「そうだったのですね。私たちはこれから大公邸に帰るのですが、ヴィーさんは馬でしょうか」
「そんなとこ。御者ならこっちで待ってるよ。おいで」
「はい!カルラちゃん、行きましょう」
「リタっち、待って!方向が違う」
カルラちゃんが咄嗟に私の手首を掴む。
「カルラ、さっきほかの馬車と場所を交替したんだって」
「……じゃぁどうしてその念話がない?御者だって私たちと同じ……」
「……聞き分けの悪い子だね」
何かが変だ。アルドさまのとは違う、恐ろしいもの。それは幼い頃から恐かったのに誰にも理解されなかったもの。
そして、次の瞬間。
「……っ」
私とカルラちゃんの手の間にもうひとつ手が割り込む。その手がカルラちゃんの手を捻り飛ばしたのだ。
「ヴィー!」
「まだまだ甘いよ」
「うぐっ」
カルラちゃんが弾き飛ばされる。
「カルラちゃん!!」
「いい子にしてね、リタちゃん」
「ヴィーさん……?」
「君に怪我をさせたらアルドがどう言うか分からないから」
それならどうしてカルラちゃんに怪我をさせたの?そんな恐い顔で私を見るの?
「待て!ヴィー!」
「待たないよ」
ヴィーさんの闇魔力がカルラちゃんを押し退け、その腕が私を軽々と拘束する。
「アルドなら……来るはずだよ。リタちゃんのところに。必ずね」
その瞬間、視界は闇に包まれた。
※※※
――――side:アルド
西陽が射し込む執務室で一息つく。その傍ら、カルラからリタの帰邸が遅くなると念話をもらった。
「ま、リタが楽しんだのならそれで何よりだが」
執務机の上を片付けたらリタたちを出迎える準備でも……。
「……っ」
『隊長!隊長……っ!!』
『カルラ?どうした』
妙に焦っている。
『リタっちが……それをヴィーが……っ』
『おい、落ち着け!それじゃぁ分からない!リタに何があった!?』
そこにヴィーの名前が出るのは何故だ。
『隊長』
それは御者を任せた隊員の声だ。
『リタさまがヴィーにより拐われたとのこと。カルラを先に屋敷に行かせました』
『は……?ヴィーが……何故』
いや……そうか。そう言うことか。何処かからともなく見つめてくる『視線』を睨み付ける。
「お前か……」
これ見よがしにこちらへおいでと手を叩いていやがる……!
「急ぎ馬を用意しろ!」
「はい……っ!」
ただならぬ雰囲気にロベルトが急ぐ。
馬に跨がり出発しようとした時、カルラが馬で飛び込んでくる。
「隊長!」
「状況は分かった」
「ごめんな……さいっ、私がっ」
「お前のせいじゃない。相手がヴィーなら手が出なくても分かる」
「だけど……っ」
カルラが悔しげに唇を噛む。カルラが天賦の才を持つとしたら……あれはそれを越える鬼才とも呼べる。
「何でヴィーは……裏切ったんだ」
「その答えは本人に聞きに行くとしようか」
「場所が分かるの?そう言えばヴィーもそんなことを言ってた」
「そうだなぁ……こうも堂々と主張されたら分からない方が不思議だ」
「……どう言うこと?」
「すぐに分かるさ。カルラ、まだいけるなら、付いてこい」
「もちろん……!リタっちは必ず取り返すから!」
「よし、いい心意気だ」
馬の嘶きと共に沈み行く夕陽の先へ、馬を駆る。
「リタ……待ってろ。絶対に助けるから」




