【13】何となくな違和感
――――闇夜の静寂に鈍く光る切っ先が迫る。
ガキン
「……っ」
白刃を突き立てようとした影はまだ幼く子どものようだった。
「そこまでだ」
これくらいは予期している。
「……どうして」
それは少女の声だ。
「お前は……」
「任務に……失敗。失敗作には死あるのみ」
「待て!」
不届きものを何故止めた。
11か12そこらの少女だったからか。そんなもの、関係ない。不届きものには死の制裁を。
平和主義の前世の自分と闇に育てられた自分がせめぎ合う。
「お前は……イディハルケンか」
「……」
「沈黙は肯定と取る。先程のセリフ、やつらのものだろう。そして昨今闇社会で話題になっている凄腕の暗殺者」
話題に上るのはイディハルケンが子どもでも関係なく英才教育を施し……使うからだ。
「失敗すれば用済み……それもやつらの手の内だ」
それでもやつらは使い回す。使い回す材料はそこら中に散らばっている。
親を喪った孤児、捨てられた孤児、売られた孤児。やることなすことキナ臭いがこの少女は。
色の抜けた白髪に赤い瞳、青白い肌。
イディハルケンの直系である。
「お前、良ければ俺のものにならないか」
「は……?」
「お前のターゲット。それは既に俺の闇魔法で精巧に偽装したもの。お前は何も狙っておらず失敗もしていない」
「対象を仕留め損ねれば失敗と同じ。あなたに見付かった。あなたを殺さなきゃ……でも殺せない」
聡い少女にはそれが分かっていたのだ。先程から俺のことを覗こうとする少女。
「その能力……魔法ではなくスキルか」
「……」
「沈黙は肯定だ」
「……」
抵抗をしてもかなわない。それが分かっているからこの子は口を閉ざす。そして自分がここで終わりだと思っているから諦めている。
「生を諦めるのはまだ早い」
「……」
「お前はイディハルケンの人形だ」
やつらは子どもたちをそう称する。イディハルケンの暗殺人形と。
「だが俺がお前に生命を与えてやる」
「……」
「人形ではない、俺の部下として。人間として」
「イディハルケンは許さない」
「許すか許さないじゃないさ。認めなければならない。そうしなければ闇の世界から弾き出され白日のもとに焼かれることになろう」
「そんなこと……あり得ない」
「あり得るさ。今の俺の言葉を聞いてアイツは人知れず闇の私兵を配備させただろう。やつらが認めなければ潰す。やつらの後任はいくらでも作れる」
「あなたは……だれ?」
「アルド。アルド・オスクリタ」
「……カルラ。私はカルラ」
「ならばカルラ。お前を人形から人間にしてやろう。そうだな……?その剣にちなんで……カルラ・スパーダと言うのはどうだろう?」
それがカルラ・スパーダと言う少女との出会いである。
※※※
――――出会いから1年後。
「隊長、隊長ーっ」
カルラがパタパタと駆けてくる音にふとペンを止める。
「どうした?」
「今、閉じてた?」
「ああすまん、ちょっと何でも見てくるストーカーがウザくてな」
「それ……ヴィーじゃないよね。ヴィーなら別に閉じないもの」
「だな。もうひとつの方」
とは言え先日はヴィーの方が閉じていた。それが妙に気にかかるが。
「そんで、どうした?」
書類をまとめてはしに寄せれば、カルラがはいっと何かを差し出してくる。
「リタっちに招待状が来た。レティツィア嬢からの茶会の招待状」
「リヴィオの婚約者か」
ふと扉を見れば、リタがそわそわしながらこちらを覗いていた。
「その、お仕事中かもしれないからって……後にしようとも思ったのだけど」
「隊長は気にしない。リタっちラブ」
「おま……っ、カルラ」
そうストレートに言うものじゃない!しかしながら……。
「そこら辺はカルラやヴィー……メイドたちも分かってるから、俺の書斎を訪ねていいか聞くといい」
元第6隊のメイドならばそこら辺の把握も得意だ。
「は……はい!」
手招きすればトタトタとリタが書斎に入ってくる。
「それで茶会だったな」
「ええ」
「レティツィア嬢ならば大丈夫だろう。もし何かあればカルラが俺に知らせてくる」
「ありがとうございます!カルラちゃん、当日はよろしくね」
「うん、任せて」
最近の2人の仲の良さを見ていると微笑ましいものだな。
※※※
――――side:リタ
ある日、閉じ籠っていた公爵家からアルドさまが連れ出してくれた。
元の婚約者ファウストさまからも家族からも無能と吐き捨てられた私。だけとスキルや魔力の有無は『関係ない』と仰ってくださったアルドさま。
「アルドさまと結婚してからアルドさまがいないお出掛けは初めてで……」
結婚する前からもファウストさまにはろくに呼ばれもせず、年に数回のパーティーの同伴のみ。無能と呼ばれ始めてからお茶会なんて誘われたことすらない。
「心配しないで、リタっち。私が付いてる」
「ありがとう、カルラちゃん」
アルドさまが付けてくださった近衛騎士のカルラちゃんは私よりも幼いのにしっかりものですごい。
「でも城でのお茶会なんて初めてで」
「任せて、リタっち。近衛騎士は城内のマップも完璧」
「うん、頼りにしているね、カルラちゃん」
暫くすると男性の元気な声が響いてくる。
「ここら辺には近衛騎士の演習場もある」
「そうなんだ」
見てみると私よりも年下の男の子たちもいるようだ。その幾人かがこちらに気が付いたようで声が聞こえてくる。
「なぁ、あの女、近衛騎士の制服着てるけど」
「え……女なのに?」
「き……気にしちゃダメだよ、カルラちゃん」
「大丈夫だよ、リタっち。あの子たちは見習い。私は本物の近衛騎士。挑発にはのらない」
「カルラちゃん……しっかりしてて偉いね」
時折年齢差が逆なのではとも思ってしまう。
「あ……アイツもしかして『人形』じゃねぇ?」
「そうだそうだ!何言っても表情ひとつ変えない『人形』だ!」
「ちょっと……いくらなんでも……っ」
声を出そうとした時、さすがに大人の近衛騎士たちがやって来て彼らを叱り飛ばす。
「でも……」
「でもじゃない!彼女は立派な近衛騎士!近衛騎士を侮辱するなど見習いの身で随分と大きくなったものだな!」
『す……済みませんでした』
大人の騎士の迫力に彼らが縮こまる。
「第6隊隊長には私からも謝罪をしておこう」
「……了解しました」
そう言うとカルラちゃんがそっと視線を外す。
「い、行こうか、カルラちゃん」
「うん、リタっち」
カルラちゃんは気にしている素振りなど見せずに追随してくれるけれどやはり心配である。
「私は気にしてない。気にならない」
「だけど……」
「それが私だから。『人形』みたい……なのは事実」
「そんなこと……っ」
「そうそう、第6隊に来た頃よりかは表情豊かになったと思うよ」
その声にハッとすればこちらに向かってくる見慣れた騎士を目に捉える。
「ヴィーさん!」
「やあ、奇遇だね」
「ヴィー、こんなところで何してる?珍しい」
「うん?単なるお使いだよ」
「隊長から?」
「そうそう。ちょっと野暮用でね」
「ふぅん……それにしては念話閉じてる」
「お兄さんは色々と秘密主義なだけ」
念話って確か……第6隊で利用している魔法通信の一種だったっけ。
「そう言うことにしておくけど」
「ふふっ。安心しなよ。人形はそんな懐疑的な表情はしないよ」
「……っ!」
「カルラは間違いなく『人間』だ。俺なんかよりもずっと人間らしい」
「そんなことは……あ、でもヴィーよりもなら進歩」
「そうそう」
どう言う意味だろう?ヴィーさんほどフレンドリーな騎士はいないと思うのだが。
「それじゃ。どこかへ行くついでなのだろう?」
「そう。レティツィア嬢のお茶会」
「んじゃぁ楽しんでね~~」
「は……はい!ヴィーさん!」
ひらひらと手を振ってくれるヴィーさんはやはり……人懐こさを覗かせる騎士なのだけど。不思議だなぁと思いつつも、レティツィアさまの元へと急ぐことにした。
※※※
――――side:アルド
ふと書類に向かうペンを止めて天を仰ぐ。
「……ん?何だアイツ、念話切ってるのかよ」
『おい、エルネスト』
『何でしょうか、隊長』
『ヴィーのやつ、城に行ってるか?』
『いいえ、こちらには』
『そうか……分かった。サンキューな』
『いえいえ、また何かあればいつでもどうぞ』
『ああ』
そして再び静寂が降りてくる。
「なーんか最近、変じゃないか?アイツ」
そんな呟きがボソリと漏れた。




