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【1】元婚約者の姉と婚約した



――――婚約破棄騒動なんてもう懲り懲りだ。


異世界転生してこれほど痛感したことはない。


「なのにまた俺に婚約しろと?」

ソーレ王国謁見の間の空気が俺の闇魔力に染まるかのように凍り付く。


「その……アルドよ。これには深い理由があるのだ」

「何でしょうか、陛下」

「もう『兄上』とも呼んでくれない!」

目の前でブロンドにロイヤルブルーの瞳のイケオジが崩れ落ちる。元々年も離れているしそう呼んで喜ぶ俺でもない。


「謁見の間なのですから当然ではありませんか、陛下」

「それはそうだが……弟よ」

「何でしょうか、陛下」

「『兄上』は?」

「何でしょうか、陛下」

「遂に無限ループに入りよったわ」

「ふざけているのでしたら帰りますが。これでも忙しいので」

一応肩書きは近衛騎士団第6隊隊長アルド・オスクリタ大公24歳ただいま独身婚約者恋人なし。


「まぁ待て、本題に入ろう!」

「何でしょうか」

最初からとっととそうすれば良いのに。


「先日の婚約破棄の件、私としても胸が痛い」

「……」

そうだったな。つい1週間前のことである。


「ルーチェ公爵令嬢ジョヴァンナ嬢が城のパーティーで突如婚約破棄を告げた」

「……そうですね」

理由は俺の爵位が一代限りなのと地味な黒髪なのにアメジストの瞳が癪にさわる、顔が平凡。


さらには騎士団長スクード伯爵の方がイケメンと言うことだった。最後のは……意味が分からない。


「あのような場でアルドの名誉を傷付けるようなことをされれば、私としても婚約を維持させることなどできまい」

本来ならば決定権は陛下にありジョヴァンナにはないがな。


「お気持ちお察しします」

「えらく他人行儀ではないか。お前はどう思っているのだ」

「別に……どうも?」

「……今すぐ暗殺でもしそうな目で言わないでくれるか?私はお前のお兄ちゃんなのだぞ」

そこは主君じゃねえのかよ。


「兄弟姉妹で殺し合うことも憎み合うことも普通にあるでしょうが」

「私たちは仲良き兄弟ではないか」

「はいはい、そうですね。それでいいですよ」


「お前、私をないがしろにし過ぎではないか?」

「何を仰います。陛下の敵とあらば切り刻む前にこの身からあふれでる闇魔力で精神崩壊させてやりましょうお任せください喜んで!」

「いや、やめなさい。分かった。よく分かった。婚約破棄をされたお前の精神状態が」

兄上がどうどうと制してくる。


「さすがです陛下。我々臣下一同身に余る考察力であらせられます」

「そ……そうか。お前が少しでも心穏やかに暮らせるのなら私としても嬉しいことだ」

……と、言うことはもしや。


「え?ひょっとして長期休暇ですか?」

「いや、そうではなく」

何だ、違うのか。


「じゃぁ帰っていいですか?」

「いやだから待つのだ。今回そなたをここに呼んだのは頼みがあるからだ」

「……頼み?」


「とある令嬢と婚約してほしい」

「……婚約破棄されたばかりなんですが」

「いや、そのな。その令嬢はつい昨晩、王立学園の卒業パーティーの場で婚約破棄されてしまってな」

卒業パーティー……こちらは秋入学だから卒業も夏とあって時期的にそんな時期だったかと頷く。俺は任務でしか行ったことがないから詳しくは知らないが。

しかし……。


「婚約破棄って……そんなに流行ってるんですか?」

「流行ってたまるか!その、その被害者はリタ・ルーチェ公爵令嬢だ」

え……?その名前に一瞬ピタリと固まる。


「……それ、元婚約者の姉では?」

確か血は繋がっていないはずだから正式には義姉である。


「そうだ」

「婚約者は第2王子ファウスト殿下では?」

「……そうだ」

つまりは甥であるわけだが。確か今は2年生で来年から3年生。ファウスト殿下は卒業生でもないのに先輩の卒業パーティーでそんなことを……。


「やらかしたんですか」

「……うむ」

兄上が神妙な面持ちで頷く。まさか自分の息子がそんなことをしでかすとは思ってもみなかったのだろう。世の中の婚約破棄ものの当事者の両親だって同じ気持ちなのだろう。


「仕方がありませんね。第6部隊の拷問実習に参加させます?きっと良い子になりますよ」

「良い子の前に心神喪失しないか?それ」


「婚約破棄などするやつぁ全員拷問実習受けるように命を出せば良いのでは?」

我ながら良い案では?イイコトを思い付いてしまった。ウッヒヒヒヒヒッ。


「最初の犠牲者はファウスト殿下です。もう婚約破棄などするバカはだいぶ減るでしょう」

「それはそうかもしれんが恐すぎるわ!一応息子だからなぁ……まだ信じたい親心がある」

「はぁ?婚約破棄なんぞしたんですから義姉上に公開ケツ出しペンペンしてもらえばいいでしょう!」

「ある意味公開処刑ではないか……と言うかリュシルのことは義姉上って……私は?」


「さ~~て、問題は解決ですね。俺は帰ります」

「待て待て待て!」

兄上が俺の腕を引き留める。


「はぁ……婚約破棄で傷心の弟にまだ婚約しろと?何て兄だ」

「ふぐ……っ、こんな時だけお兄ちゃん呼びだなどと。何て弟だそれでも愛しているぞ弟よ!」

言っておくが『お兄ちゃん』とは呼んでいないからな。


「はいはい、で、何?」

「やっぱり私のこと雑に扱っていいと思ってない?」


「何を仰いますか、陛下。我々近衛騎士団第6隊はいつでもどこでも陛下に忠誠を誓っております」

「そ……それならば良いが。そうかそれならばだ。リタ・ルーチェ公爵令嬢との婚約の命も臣下として受け取るが良い」

「……チッ」

「……舌打ちされたんだけど、忠誠は?」

まさか兄上に1本取られるとは。しかし……。


「婚約破棄された同士……か」

謁見の間を出、ふと漏れ出る呟き。


「……まずはリタ嬢について調べねばならないな」

俺は足早に謁見の間を後にする。


「スキル使うか」

この世界の人間には必ず魔力の他にスキルが与えられる。俺の場合は索敵、気配隠とん、それから……。


「遠視」

よーし、いるな。場所が絞れているのなら索敵や魔法通信よりこちらの方が便利だ。場所は予想通り城内にある近衛騎士団の詰め所である。


「よぉっ!婚約破棄されたんだって!」

「気ぃ落とすなよ!」

周囲の近衛騎士どもはデリカシー0かよオイ。


「いいだろう。そのつもりなら……ヴィー」

「お呼びで?」

まるで常に俺の背後にくっついていたかのようにオレンジの髪に赤い瞳の騎士が現れる。ヴィート・リベルタ。俺の部下の中でも精鋭のひとり。


「今日の訓練相手だ」

「へぇ……面白そう」

バーサーカーがニィと笑んだことでからかってきた近衛騎士どもが悲鳴を上げた。


『ヒイイイィッ!?逃げろおおおぉっ』


「アルド、アイツら逃げたけど」

「はぁ……腰抜けどもめ。後でアイツらの隊長に文句送りつけとくからいい」

「ふぅん、アルドがいいなら俺はイイケド。でも婚約の件は本気で受けるの?」

「……はぁ。お前は終始俺のストーキングをする気か?」

「ライフワークなもんで」

「やめなさいもっとましな趣味があるだろうに」

「ええと……拷問?」

……どこで育て方を間違えた。


「とにかく話が分かっているのなら早い。ついてこい」

「了解~~」

ガチャリとドアノブをひねる。


「エルネスト」

「おや、隊長」

遠視で見た通り、書斎で書類を捌いていたのは俺の右腕であり副隊長のエルネスト・ロッカ。淡い金髪にダークブラウンの瞳の無駄にイケメンすぎる青年である。


「急ぎリタ・ルーチェ公爵令嬢の情報を揃えてくれ」

「おや……昨晩の婚約破棄騒動の渦中の令嬢ではないですか」

「もう掴んでいたのか?さすがだな」

「ネタになると数人の隊員がレポートを提出してきましたので」

近衛騎士と言う花形騎士。貴族の子弟も多くおり中にはパーティーにも紛れ込んでいる。


そして昨日の卒業パーティーにはリヴィオ殿下もいたはずだから当然いる。


会場での近衛騎士の仕事は他の部隊がやるので俺たちのはぶっちゃけネタ探しである。


「よくもまぁ……余さず拾ってくるとは。でもさぁ、エルネスト」

「はい」


「しかしリヴィオ殿下も卒業する場で良くできたものだな」

「リヴィオ殿下など頭を抱えて崩れ落ちたとか」

「リヴィオ殿下の心中お察しするわ」

しかしなぁ……。卒業パーティーでの婚約破棄か。


「俺、聞いてないんだけど」

隊長なのに。


「気を遣ったのでは?隊長の婚約破棄のことがありましたので」

「なるほどな。あの後部下たちがジョヴァンナの暗殺を提案する念話を多数送ってくれて俺の気もだいぶ晴れた」


「それで晴れるのもどうかとおもいますが、実行に移さなくて何よりです」

「何だよエルネスト。お前は反対なのか」

俺の右腕だと思ってたのにぃっ!


「私は拷問してからの方が良いかと思いましたので」

「そうかそうか!やっぱりお前は最高の右腕だよ、エルネスト」


「いえいえ、そんな。私はいつでも隊長の力になりますよ」

「サンキュ。なら早速だけどさ」


「もちろんです。こちらが隊長の新たな婚約者殿の情報です」

「……何でお前までもう知ってんの」

俺の右腕が優秀すぎて、俺、ちょっとぞくぞくしちゃう。


「リタ・ルーチェ、18歳」

俺とは6歳差だが、貴族間の結婚などこのくらいの年齢差はまだまだだ。


「スキルはなし、魔力はなし」

ここは有名な話だ。だからルーチェ公爵邸に赴いた時も彼女は引け目からか部屋に閉じ籠っていた。


「見た目はプラチナブロンドに銀色のツリ目。その美しさゆえに『真珠姫』と呼ばれるが」

魔法で撮影された写真でも見事だ。少しだけ……あの頃の面影がある。しかし、呼ばれる『()』……?


「同時に『悪役令嬢』とも呼ばれる……か」

「ええ、近頃若い女性たちの間でそのように。とりわけ第2王子殿下が目移りした浮気相手の男爵令嬢がそう称していたと」

「そこまでテンプレか」

「テンプレとは?」


「いわゆるあれだ。高貴な女性にはない溌剌とした様子や表情がコロコロ変わるさまに、『君のような女性は初めてだ!』とばかりにころっと騙されて惚れるやつだ」

「その考察はなかなか斬新ですね。しかし後半の『君のような女性は初めてだ!』は無礼千万を非難しているようにも聞こえますが」

「あぇ?そうだった?」

これが婚約破棄もののテンプレだと思ったんだがな。


「ではそんな隊長にお聞きしますが、『悪役令嬢』とはどんな女性を指すのか分かりますか?第6隊の中でも意見が割れておりまして」

「それは簡単だろ。ツリ目美人を悪役顔だと定義付けた上でそれが公爵令嬢に当てはまると『悪役令嬢』となる」

「めちゃくちゃな定義ですね。私のアナライズスキルでも解析困難ですよ」

「だがこう言う定義なんだよ何故か」

しかしそんな定義をとりわけ主張するとは。男爵令嬢も転生者もしくは憑依と言うテンプレなのだろうか。


「つまり彼女は二重三重苦の中にいると」

「資料ではそうですね。それで隊長はどうされるので?」

「会うしかなかろう。陛下の命なのだから」

「おや、素直に従うのですか」

「ああ。兄上ではなく陛下として扱うことが一番……効く」

「相変わらず見事です、隊長」

エルネストの拍手が響いた。



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