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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第67話 秘密の話



 バルトロの屋敷での掃討(そうとう)作戦を終えた翌日。

 俺はグリンベル領へと向かった。

 

 グリンベルの広場には、昨夜救出したばかりの獣人たちが集まっていた。

 その数、68人。

 狐族にタヌキ族、猫族――多種多様な少数民族の獣人たちが、肩を寄せ合っている。

 

 一夜明けた彼らの顔からは、昨夜まであった底知れぬ絶望は消えていた。

 希望、というにはまだ微かな光に過ぎないが、少なくとも『奴隷の枷』から解き放たれた者の顔だ。


 俺が皆の前へと歩み出ると、68対の目が一斉にこちらを向いた。

 感謝、困惑、そして不安。

 その重圧を真正面から見据え、俺はあえて傲岸不遜な態度で言い放った。


「俺はここグリンベルの領主、レヴォス・ムーングレイだ。ここに留まりたいと望む者は留まれ。去りたい者は去ればいい。引き留めはしない」

 

 俺の声に、広場がしんと静まり返る。

 次に俺が何を言い出すか、皆はそれを固唾を呑んで待っている。


「ただし、留まると決めた者には言っておく。俺はお前たちを『飼う』つもりはない。ここでは仕事をし、自らの足で立て。グリンベルは、そうした意志を持つ者のための土地だ。……だが、俺の支配下に居る間は、その安全だけは俺が絶対的に保証してやろう」


 俺の言葉に、再び沈黙する獣人たち。

 そして沈黙を破ったのは、一人の若い獣人の男だった。

 彼は拳を強く握りしめ、地面を踏みしめながら口を開いた。

 

「……俺は、留まります」


 それを皮切りに、次々と声が上がっていく。


「お、俺も……お願いします!」

「私も、留まりたいです!」


 俺は無言で軽く頷いた。

 

 結局、去ると言い出した者は一人もいなかった。

 いや、そもそも彼らにはもう、帰る場所など残されていないのかもしれない。

 

 その悲哀を理解しつつも、俺は情に流されることなく実務的な指示を飛ばす。


「よし。ヒロン、各人の適性を聞き出し、即座に仕事を割り振れ」

 

「はっ! ただちに! お任せください、レヴォス様!」


 ヒロンが獣人たちに声を掛け始めたのを確認して、俺は二人の獣人の元へと歩み寄った。


 その二人は『ローロー飯店』の女主人である、狐族のアンズ・プラムコット。

 そしてそのアンズの弟である、巨躯のネクタ・プラムコット。


「お前たちも、ここに残るのだな」


「ああ。良ければ、しばらく厄介になりたいんだけど……構わないかい?」


 アンズは少しだけ気まずそうに、だが真っ直ぐに俺を見つめてきた。


「問題ない。好きなだけ居ればいい。……それと、弟のネクタよ。お前は昨夜、俺に挑んで早々に気絶し、一番大事な場面で役に立たなかったな。ここではその無駄にデカい身体を活かして、役に立つことを期待しているぞ」


「う……面目ない……」


 弟の方のネクタは力試しに、俺が一発殴って気絶してしまい、その後ずっと気絶していた。

 ネクタが目を覚ましたのは、ここグリンベルに着いてからだ。

 その不甲斐なさを自覚しているのなら、使い道はある。


「では、アンズ。同胞である獣人たちの世話は貴様に任せる。取りまとめ役だ」


「……わかった。任せておくれ。私の……今までの償いも兼ねて、ね」


 アンズは自嘲気味に笑い、自らの手のひらを見つめた。

 その瞳には、自分の手が汚れているという確かな罪悪感が滲んでいる。


「ふん。貴様はバルトロに『奴隷の枷』で同胞を盾に取られ、脅迫されていただけだ。好きで悪事に手を染めていたわけではないだろう。くだらん感傷に浸る暇があるなら、手を動かせ」


「なかなか……そんなにすぐには思い切りがつかないものでね」

 

「貴様が情報を俺に流し、捕まった同胞の居場所を把握していたからこそ今回の作戦は完遂された。すでに、罪滅ぼしは済んでいる。これ以上、過去に縛られるのは俺が許さん」

 

「そうだぜ、姉貴! レヴォスさんの言う通りだ! 俺たちは、これからを考えなきゃならねぇんだ!」


 ネクタが姉の肩を強く叩き、励ますように吠える。

 アンズはその言葉に、ようやく憑き物が落ちたような顔を見せた。


「……たしかに、そうだね。分かったよ、精一杯やってみるさ」


 アンズはニヘラと力なく笑ったが、その目は死んでいない。

 これからの多忙さが、彼女の心の傷を癒やす糧となるだろう。


 そして、俺は二人から離れて広場の端にある石段に腰を下ろした。

 68人の獣人たちがアンズの指示のもと動き始めており、ネクタが誰かに指示を出し、ヒロンが書類を抱えて早足で歩いている。


 グリンベルは最初、荒野に近い廃墟だった。

 何もないところから人を集め、土地を耕し、建物を建てた。

 計画通りといえば計画通りだ。


 さて。バルトロ商会から根こそぎ奪い取った『権利』と『資産』。

 これをどう料理し、グリンベルの更なる躍進に繋げるか。

 考えるべきことは山のようにある。

 

 

 ――――――


 

 数時間後、俺は王都の学園寮へと戻り、何食わぬ顔で登校した。


 教室に入り、最奥の席の中央に腰を下ろす。

 アイリスもケウダ・シークランスも、登校していない。

 俺の周りは静かなものだ。

 

 だが、その静寂を破る者が一人いた。

 4大公爵家の一角、『商業省』を司るブレイバースト家の嫡男、キリノ・ブレイバーストだ。

 キリノはさも当然のように、俺の隣の席を陣取った。


「なぁなぁ、レヴォスくん! あの今話題のお店の『ゴルヴァーン・ドロリット・ボヨンジュース』、もう飲みはった?」


「なんだその、ふざけた名前は。知らん」


 俺は眉をひそめ、冷たく突き放した。


「ええーっ! さすがのレヴォスくんも知らんかー! ほな、今度一緒に飲みに行こな! 絶対に美味しくって、魂引っこ抜かれるやつやで!」


 キリノは驚いたように大袈裟なジェスチャーを見せる。

 挨拶も抜きに、いきなり意味不明な話題を振ってくる。

 キリノらしいといえば、キリノらしい。


 教室にはまばらに生徒が入ってくるが、俺たち公爵家が二人並んでいる光景に気圧され、誰も近寄ろうとはしない。

 すると、キリノがキョロキョロと周囲を警戒するように見渡し、俺の耳元へ顔を寄せた。

 

「なぁレヴォスくん。……あの『噂』、もう耳に入ってはります?」


 キリノの声のトーンが一段、低くなる。


「……『噂』? 何を言っている、俺たちの周りは常に根も葉もない噂で溢れているだろうが。どれもこれも、反吐が出るほどくだらんものばかりだがな」


「ちゃうちゃう! ちゃうねん! これはもう、本物のドデカイ『噂』やねん……!」


 キリノはさらに距離を詰め、声を潜めて囁いた。


「あの闇商人のバルトロが行方不明なんや。屋敷は大火事で焼失してしもてな……店にも誰もおらんし、使用人も誰一人として見つからへんのやて……!」


 キリノは目を丸くし、ゾクッとするような仕草をして見せる。

 

「……そうか」


「なんやねんレヴォスくん! 『そうか』の一言で済む話ちゃうで!? これ、貴族社会全体がひっくり返るかもしれん大事件なんやで?!」


「どちらかといえば、お前たち『商業省』の管轄だろう。目障りな競合がいなくなって、一番喜んでいるのはお前たちではないのか?」


 俺が皮肉を込めると、キリノはわざとらしく人差し指を左右に振り、「チッチッチ」と舌を鳴らした。

 

「たしかに商売敵としては清々したけどな。でも、裏ではガクブルしてる連中がぎょうさんおるで。何せあのバルトロや、数多の貴族の『弱み』を握って支配下においてたって話やし。もしその証拠が表に出たら……没落なんて可愛いもんや、即刻処刑もんやでぇ」


 キリノは「ひー! おーこわ!」と言って、大袈裟に身を震わせる演技をしていた。


 だが、キリノの読みは正しい。

 貴族という特権に溺れ、義務を放棄して私腹を肥やしていた連中は、バルトロと同罪だ。


 俺はすでに、バルトロの屋敷から押収した証拠書類を、匿名で適切な機関へと提出済みだ。

 すべての癒着を暴けるわけではないが、大部分の汚職貴族は、近いうちにその報いを受けることになるだろう。


「ところでレヴォスくん。最近、エルマちゃんもアイリスはんも見かけへんけど……何か知ってはります?」


 探るようなキリノの視線。


「……知らん。誰だ、それは」


「うわー、レヴォスくん! 相変わらず冷たいわー! もしかして、わいの名前ももう忘れてるんとちゃう?」


「……お前は誰だ? 不審者が俺に馴れ馴れしく話しかけるな」


 俺が突き放すように言い放つと、キリノは「ひーっ!」と叫んでのけ反るような驚きを見せた。

 だが、その口元には、どことなく愉しげな笑みが浮かんでいた。


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