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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第66話 権利書



「くっ、なぜだ……!? 確かに、貴様の魂は引き抜かれたはずなのに!」


 目の前のバルトロが、幽霊でも見たかのように顔を引きつらせている。

 呪具『知恵の書』から伸びた異形の手は、確かに俺の胸を貫き、魂を引き抜いて行った。


 だが、引き抜かれたのは俺の魂ではない。

 俺の体内に潜伏していた『ヴァンパイア・ロード』ブラドニスの魂だ。


 棚ぼたで厄介払いができたわけだが、事情を知らぬバルトロにしてみれば、魂を抜かれても平然と立っている俺は理解を超えた怪物に映っているのだろう。


「不思議か? バルトロよ。身の程をわきまえぬ下衆に、特別にその秘密を教えてやろう」


 俺は冷徹な笑みを浮かべ、絶望に震えるバルトロを傲慢に見下ろした。

 

「な、なに……? なぜだ、なぜ死なない! なぜ生きているのだ!?」


「くくく、簡単なことだ。俺には、魂が……6つあるからな」


 嘘だが。

 それはもう、まぎれも無い嘘だが。


 そんな設定、原作の『エル戦』にも存在しない。

 そもそも、こんな嘘に引っかかるとも思ってもない。

 

「なっ!? なんだとっ!? きさま、やはり悪魔の類か……!?」


 引っかかってるがな。

 俺の言葉にバルトロは、雷に打たれたような衝撃を受けていた。

 バルトロ、思ったより純粋なやつなのか?


 呆れを通り越して感心すら覚えるが、追い詰められた人間は目の前の超常現象を説明するために、より大きな虚構を信じようとするものだ。

 ならば、その愚かさを徹底的に利用させてもらうまで。

 

「ああ、そうだ。よく知っているな。我がムーングレイ公爵家は、代々我ら悪魔が支配しているのだ。この帝国がなぜこれほどの力を保っているのか、その理由を考えたことはなかったのか?」


「な、なにぃ!? この大帝国が、そんな恐ろしい力で……やはり、やはりそうだったのか!」


 バルトロは恐怖のあまりガチガチと歯を鳴らし、膝をついて後ずさりした。

 その無様な姿に、俺は一歩、足音を立てて歩み寄る。


「おっと、動くな。余計な真似をしなければ、今すぐ殺しはしない」


「貴様……何が狙いだというのだ!?」


「帝国内でお前が不当に溜め込んだ、土地や利権をすべて頂こうと思ってな」


「ふっ……いくら悪魔だろうと、それを私がむざむざと譲ると思うか?」


 バルトロは強がりを口にするが、その声は震えている。

 俺は奴の顎を乱暴に掴み上げ、逃げ場のない視線を突き刺した。


「選ばせてやる。この場で魂を喰らわれて死ぬか、権利を譲って生き延びるか。毒入りの紅茶や呪書で俺の命を狙った大罪……それと引き換えだと思えば、安いものだろう?」


 これは交渉ではない。ただの『強奪』だ。拒絶すれば死。

 それ以外の選択肢など、端から用意していない。


「……わかった。書く、書けばいいんだろう! だが残念だったな。権利書や契約書はここにはない! 外国の屋敷にあるのでな!」


 バルトロが最後の手札を切ったつもりで、醜い笑みを浮かべる。

 だが、俺は鼻で笑った。


「ほう? そうなのか? フォルテ」


「権利書はこちらに。すべて揃っております、レヴォス様」


「な、貴様! 誰だ!? いつの間に……!?」


 俺は一人でこの屋敷に来たわけではない。

 俺が正面から囮となってバルトロを引きつけている間に、別動隊に屋敷の鎮圧と書類の捜索を命じていたのだ。


「これが権利書か。よし、俺への譲渡を証明する一筆を今すぐここに記せ。……死にたくなければ、さっさとな」


 俺はペンを投げつけ、冷たく言い放った。

 バルトロは悔しさのあまり奥歯を噛み締め、ギリギリと嫌な音を立てている。

 その瞳には、築き上げてきた富を奪われる屈辱が滲んでいた。


「くっ……わかった! 書けばいいんだろう! 本当に、書けば助けてくれるんだな!?」


「ああ、俺は何もしない。その紙さえ受け取れば、俺はここを去ると約束しよう」


「……くそっ!」


 バルトロはやけくそになりながら、権利書にサインした。

 そして、それを俺が奪い取る。


「ふむ。どうやら帝国内での店や商品、土地はこれで俺のもののようだな」


 バルトロは殴り書きのような筆致でサインを済ませた。

 俺はその紙を奪い取るように回収し、満足げに眺める。


「ふむ。帝国内の店舗、商品、そして広大な土地。すべて俺のもののようだな」


 バルトロは俺を憎悪の目で見上げている。

 当然、こんな強引な譲渡は法的には無効だろう。

 俺が去った後、こいつは全力を挙げて国に訴え、権利を取り戻そうとするはずだ。

 

「よし。では、帰るぞ、フォルテ」


「はっ」


 俺はバルトロに背を向け、扉へと歩き出す。

 絶望と憎悪に染まったバルトロの背後で、闇が蠢いた。


「ああ、そうだ。言い忘れていた」


 俺は立ち止まり、肩越しにバルトロへ冷淡な視線を投げかける。

 

「バルトロ。情けなくて死にたくなるだろうが、自ら命を絶つのは少しだけ待て。……お前の相手は、俺ではない。そこの奴らだ」


「……なに?」


 バルトロが怪訝そうに振り返った瞬間、奴の顔から一気に血の気が引いた。


「き、きさまら! いつからそこに……! 裏切りおって!」


 倉庫の影には無数の『目』が光っていた。

 『奴隷の枷』を嵌められ、虐げられてきた獣人たち。


 隠密に長けた彼らの気配を、増長したバルトロは察知できていなかったのだ。


「主人に逆らう気か! 面白い、身の程を教えてやる! 『奴隷の枷』よ、この反逆者どもに死より深い苦痛を!」


 バルトロの絶叫が響く。

 だが、獣人たちは微動だにしない。


 彼らの『奴隷の枷』が発動することはない。

 聖女セレスが事前にすべての解呪を済ませているのだ。

 

「なんだ……? なぜ発動しない! なぜだ!?」


「あんた……今までよくもやってくれたね……!」


 『ローロー飯店』の店主、アンズが怒りに肩を震わせ、一歩前へ出る。

 他の獣人たちからも、凄まじい殺気が立ち昇っていた。

 同胞を殺され、誇りを踏みにじられてきた彼らの怒りは、もはや誰にも止められない。

 

「ちょ、ちょっと待て! なぁ、レヴォスさん! さっき、約束しましたよね!? その権利書を渡せば、命は助けてくれるって!」


 バルトロが縋るような声を上げる。

 だから、俺は無関心に答えた。


「ああ、約束したな。俺は『何もしない』と。……見ての通り、俺は手を下さない。約束は守っているぞ?」

 

「え……」


 バルトロの顔が絶望に染まり、口が金魚のようにパクパクと動く。

 その周囲を、獣人たちが静かに、だが確実に包囲していく。


「アンズ。事が済んだら、この汚らわしい屋敷ごとすべて燃やしておけ。証拠も、未練も残すな」


「……承知したよ。……感謝する、レヴォス様」


 背後で始まった断末魔の叫びを、俺は心地よい音楽のように聞き流しながら、屋敷の外へと向かった。

 手元に残った権利書を強く握りしめ、次なる覇道へと想いを馳せる。


 バルトロ商会という巨大な贄を喰らい、グリンベルはさらなる進化を遂げることになるだろう。

 

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