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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第60話 ローロー飯店



「では、ヒロン。貴様は今からグリンベルへ向かえ。大量の人員を迎え入れる準備を整えておくのだ。それと、聖女セレスと賢者クロエを至急この学園寮へ招集しろ。一刻を争うぞ」


 バルトロ商会を根こそぎ奪い取るという俺の宣言に、ヒロンは魂が抜けたように呆然としていたが、俺の言葉で弾かれたように正気に戻った。


「え、あ……は、はい! ただちに、承知いたしました!」


 ヒロンは慌てふためきながら椅子を蹴るようにして立ち上がり、転がるようにして部屋を飛び出していった。バタンという音が響き渡る。

 

 嵐が去った後のような静寂の中、俺の隣ではメイドのコレットが、事態の急変に思考が追いつかないといった様子で、おろおろと視線を泳がせていた。

 

「……コレットよ」


「ひゃいっ!?」


 声をかけただけで、コレットは心臓が口から飛び出しそうなほど過剰に反応した。

 そんなコレットの揺れる髪には、いつぞや俺が贈ったあの髪留めが留められている。

 

「ほう。あの髪留め、着けているのだな」


「あ……はい! レヴォス様に頂いた、私にとって世界で一番大切な宝物ですから。肌身離さず着けさせていただいています。それに……」


 コレットの頬が、みるみるうちに熟した林檎のように赤く染まっていく。


「最近のレヴォス様は、その……凄くお忙しそうですし、お顔を拝見できない時間も増えて……でも、これを着けていると、不思議とレヴォス様がすぐ傍にいてくださるような気がして、心が温かくなるんです……」


 ……なるほど。

 かつて、俺――レヴォスという傲慢(ごうまん)で救いようのないクソガキに付き合えたのは、世界中でこのコレットただ一人だけ。

 

 そして俺にとって、当時唯一『家族』と呼べるのはコレットだけだった。

 それは、コレットにとっても同じ意味を持っているのかもしれない。


「……コレット、今から街へ出るぞ。準備をしろ。メイド服ではなく、街歩きに適した普通の服装だ」


「え、今からですか!? ふ、服なんて適当なものしかありませんが……ただちに準備してきます!」


 俺自身も平民に紛れても目立たない簡素な服に着替えた。

 コレットも、少し着古してはいるが清潔な外出着で現れる。


「では、行くか」


「は、はい! ……でも、どちらへ向かわれるのですか?」


「街中だ。たまには外の空気でも吸わねば、思考が腐るからな」


「街、ですか……?」


 キョトンと首をかしげるコレットを連れ、俺たちは王都のメインストリートへと足を踏み入れた。

 そこには流行の最先端を行く店が軒を連ね、大道芸人の歓声が飛び交っている。

 帝国の心臓部たる、この街の圧倒的な熱量が肌に伝わってくるようだ。


「わぁ……! たくさんお店がありますねぇ! あ、見てくださいレヴォス様! あっちにはクレープが売ってますよぉ!」


 年相応の少女のように目を輝かせ、はしゃぎ回るコレット。

 その屈託のない笑顔を見ていると、こちらの肩の力まで抜けていくようだ。


 俺たちはクレープを頬張りながら歩き、大道芸に喝采を送り、食事をしたりと、束の間の休息をこれ以上ないほど堪能した。


 そして、ようやく本日の目的地へと辿り着いた。


「レヴォス様、ここは……? なんだか、凄く敷居の高そうなお店ですけど……」


 そこは街道沿いでも一際異彩を放つ、貴族御用達の高級テーラーだった。

 並外れた品揃えを誇り、中には珍しい衣装まで取り揃えている。

 俺の目当ての場所だ。

 

「見ての通り、服屋だ。入るぞ、コレット」


「は、はいぃ!」


 店内に足を踏み入れると、俺たちを察した店員が揉み手をして近寄ってきた。


「ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用命でしょうか?」


「ああ。服の寸法を計ってもらいたい。こちらの淑女のな」


「えっ、わ、わたくしですか!?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まるコレットを無理やり採寸台に乗せ、手際よく数値を測らせる。


 ふむ、やはり俺の読み通りだ。

 コレットの体格は、これから会う人物と同じくらいの体格だ。

 

「店員よ、今から俺が指定するものを全て用意しろ」


「す、全てですか!? ははっ、ありがとうございます!」


 普段着から、最新のトレンドを取り入れた外出着、夜会用のドレス、果ては最高級の絹を用いた寝間着(ネマキ)まで。

 両手で抱えきれないほどの荷物を店員に運ばせ、俺たちは満足感と共に帰路についた。

 

「レヴォス様、あんなに山のような服、一体どうされるおつもりですか?」


「ふん、何を今更。一部を除き、全てコレット、貴様のために買ったものだ」


「わ、わたくし……に!? これ、全部ですか!?」


 今日一番の驚愕に、コレットの目がこぼれ落ちそうなほど見開かれる。

 ずっとメイドとして奉公に明け暮れ、自分のために贅沢をするなど考えもしなかったコレットには、この状況はまさに青天の霹靂なのだろう。

 

「当然だ。日頃の献身に対する礼でもある。それに、コレットにはあの髪留め一つでは足りないと思っていたのだ。これからは、その日の気分で装いを変えるがいい」


「あ……ううっ……ありがとう……ございます……!」


 感極まって涙ぐむコレットの顔を横目に、俺たちは心地よい疲労と共に寮へと帰還した。


 

 ――――――


 

 その日の夜。


「レヴォス様! ただいま参上いたしました!」


 招集に応じ、聖女セレスと賢者クロエが、夜の帳を切り裂くようにして到着した。


「うむ、よくぞ来た。セレスよ、クロエが製作した『偽装の仮面』は持参しているな?」

 

「はい! こちらですね。これがあれば、私が見つかることも無いかと」


 セレスが差し出したのは、目元だけを覆うミステリアスな仮面だ。

 これなら聖女の面影を消し去ることができる。

 

「よし、休む暇はないぞ。すぐに出かける。セレス、ついて来い」


「え!? は、はいっ!」


 俺がセレスを連れて向かったのは、昼間コレットと共に食事をした店。

 

 極彩色の装飾が目を引く中華風レストラン、『ローロー飯店』だ。

 

 昼食を装い調査した際、店員たちの独特の身のこなしを見て確信した。

 この店こそが、バルトロの手先たる諜報員たちが集う、闇の巣窟であることを。

 原作知識と現実が、ピタリと一致した瞬間だった。

 

 『ローロー飯店』の重厚な彫刻が施されたドアを押し開ける。

 

「あら、いらっしゃい! お二人様ですかぁ~?」


 スリットの深く入ったチャイナドレスに身を包んだ店員が、艶めかしい笑みを浮かべて近づいてくる。

 

「……いや、『3人と4人、そして後から7人か8人』だ」


 俺がその『暗号』を口にした瞬間、店員の瞳から一切の愛想が消え、鋭い刃のような光が宿った。


「……では、何のお食事を?」


「ふむ、『小籠包と炒飯、そしてトビキリの飲茶』を頼む」


「……こちらへどうぞ」


 女はそう言って(ひるがえ)ると、客席を通り抜け、店の最深部へと俺たちを導いた。

 隠し通路の如き扉をいくつも潜り抜け、最後に行き着いたのは、金属で補強された巨大で頑丈な扉だった。

 

 店員が三度、独特のリズムでノックし、扉を押し開ける。

 

「ボス、客です」


 俺たちはその言葉に続き、煙草の煙が充満する部屋へと足を踏み入れた。

 

 部屋の中央、豪華なソファに不遜な態度でふんぞり返っていたのは、巨大な体格をした青年だった。

 上半身は剥き出しのまま、ボロボロの長いコートを羽織ったその姿は、海賊か野盗の首領といった趣だ。


 何より異質なのは、全身に刻まれた無数の傷跡。

 そしてその頭頂部に生えた大きな耳。

 狐族の獣人だ。

 

 傍らには、冷徹な美貌を湛えたチャイナドレスを着た狐族の秘書が、静かに控えている。

 

「あぁ? どこのどいつだ、てめえは。……なんでここの『暗号』を知ってやがる?」


 男の威圧的な問いかけを鼻で笑い、俺は震えるセレスの腕を引き寄せ、男の正面にあるソファへ勝手に腰を下ろした。


「おい……誰が座っていいと言った、ガキ」


「……貴様らはバルトロの部下なのだろう?」


 バルトロの名を出した瞬間、男の眉が跳ね上がり、部屋の空気が一気に凍りついた。

 表社会では決して語られない、黒幕の名を直接突きつけられた動揺が、彼らの間を走る。


「俺はレヴォス。わざわざ出向いてやったのは他でもない。今日から、貴様らは俺の傘下に入ってもらうのでな」


「……なんだと?」


 男の顔が、怒りを通り越して理解不能という困惑に染まる。

 

 突然現れた得体の知れないガキが、バルトロの影を暴いたばかりか、自分たちを支配すると言い放ったのだ。

 当然の反応だろう。

 だが、俺の言葉に嘘偽りはない。

 ここにある全てを、俺が『奪う』と決めたのだから。

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