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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第56話 約束


 ブラドニスの精神支配から救い出した、アイリスの姉エステラ。

 エステラはブラドニスの血によって操られていたが、今はその血を取り込んだ俺の支配下にある。

 もっとも、俺が意識的に命令を下さない限り、エステラは意思を持った一人の人間として過ごせるはずだ。


 そして、この状況下でエステラの妹であるアイリスは、俺と盟約を結ぶこととなった。

 いや、結ばざるを得ない状況へと俺が追い込んだ、と言うべきか。

 

 俺とアイリスの間には、ひとまず敵対関係はなくなった。

 

「アイリス、ここグリンベルは俺の領地だ。お前がここへ自由に出入りすることを許可しよう。それに、今日は泊まっていくがいい。姉の様子が気になるだろうからな」


 俺が淡々と告げると、アイリスは弾かれたように顔を上げた。

 

「っ!? あ、ありがとう! ……あの、実はもうひとつお願いがあって……」


「なんだ? 言ってみろ」


「お姉さまを連れて帰りたいのだけれど、そうもいかない事情があって……」


 アイリスは肩を落とし、床を見つめて暗い表情を浮かべていた。

 その絶望に染まった瞳を見れば、おおかたの予想はつくが。


「お姉さまはすでに公式には死んだものとして扱われているんだ……それが急に帰ってきたとなると、どうなるか……それに、ボクの両親は子どもの安否なんて今さら気にしていない。お姉さまがいなくなった時だって、両親が守ろうとしたのは公爵家としての面子だけだったから……」


 アイリスの声は、怒りと悲しみで微かに震えていた。

 どこかで聞いたような話だ。俺の父親であるグランディアと、何ら変わりはない。

 公爵家というものは、どいつもこいつも血の通わない薄情な連中ばかりなのだろうか。


「……ああ、ならばエステラをここで匿うことを許可しよう。どちらにせよ、今のエステラが外の世界で平穏に暮らすのは困難だろうからな」


「あ、ありがとう……! もう、レヴォスくんの……いや、レヴォス様のおかげで何から何まで。本当に感謝しかありません。ボクにできることなら何だってさせていただきます」


 アイリスは感極まった様子で、俺の手を握りしめようとして寸前で止めた。

 その瞳には、救い主を見るような崇拝の念が混じっている。


「……そうか。では、さっそくひとつめの命令だ」


 俺の言葉に、アイリスは驚愕で目を見開いた。

 

 まさか、このタイミングで具体的な要求が来るとは思っていなかったのだろう。

 フン、覚悟が甘いな。俺はそんなに甘い男ではない。


「な、なんでしょうか……?」


 アイリスはごくりと唾を飲み込み、全身を強張らせて俺の言葉を待つ。


「今、俺を『レヴォス様』と呼んだな? それに、その(うやうやし)い喋り方。俺側に付くとは言ったが、そんな態度を取られれば周囲に不審がられる。言ったはずだ、俺とお前の関係は内密なものだと。今まで通り、対等な友人として接しろ。これが命令だ」


「え……あっ。わ、わかりました! ……じゃなくて、わかったよ! レヴォスくん!」


 アイリスはあたふたと手を振りながら、必死に口調を戻そうとしている。

 不器用な奴だ。

 だが、そんな一途なまでの不器用さがあったからこそ、アイリスは姉のエステラを救い出せたのだろう。


 原作の『エル戦』では、アイリスはブラドニスと対峙するも、姉のエステラを盾にされ身体を乗っ取られることになる。

 俺も、これほど早くブラドニスと直接対決することになるとは計算外だったが、絡め手で封印できたのは大きな収穫だ。

 まさか、俺の身体の中にブラドニスを封じ込めることになるとは思わなかったが。


「では戻るぞ。アイリス、今日は姉の隣の部屋を使え」


「ふふ、ありがとうレヴォスくん! 何から何まで至れり尽くせりだね! お礼に、キスでもさせてくれないかい?」


 現金なもので、安心したアイリスはいつもの調子でふざけ始めた。


「……二人の時は、余計なはしゃぎ方は不要だ」


「え、あ……はい……すみません……あ、でもキスは本当に――」


「さっさと行くぞ、アイリス」


 俺は背を向け、スタスタと歩き出した。

 

 こうして、グリンベルに新たな客人が二人加わった。

 アイリス、そしてエステラだ。


 その夜、エステラは目を覚ました。

 

 アイリスとの数年ぶりの再会を果たしたものの、エステラ自身には操られていた期間の記憶が一切ないことが判明した。

 空白の時間は残酷だが、凄惨な記憶に苛まれるよりは本人にとっても幸せなことだろう。


 そして、エステラはここグリンベルで教育を受けることになった。

 幼少期に誘拐されて以来、エステラの教養は止まったままだからな。

 領内に学校を設立させておいたのが、こんな形で役に立つとは。

 

 このグリンベルにおける、唯一無二の教育者。

 それが司祭のポエテだ。


「ポエテ、エステラの教育を任せたい」


「承知いたしました。……しかしレヴォス様、一点よろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「私はセレスをはじめ、教会で多くの子らに教えを説いて参りましたが、私には手に負えぬ領分がございます。……エステラ様は公爵家の令嬢なのですよね?」


 ポエテの言わんとしていることは即座に理解できた。

 学問や生活について教えるはポエテで十分だが、貴族としての社交や嗜み、その『格』については専門外だということだ。


「そうか。ふむ……ああ、その点はもう一人、適任者となる者を付けるか」


「……なるほど。確かに、あのお方であれば……名案でございます」


 ポエテも察したようだ。

 このグリンベルで貴族の教養を完璧に熟知している者は少ない。

 俺やアイリス、そして元貴族のフォルテも候補には挙がるが、それを超える最善の選択肢がある。


 それは、俺の母である『アリア』だ。

 シークランス家に囚われていたアリアは元王族。教養の深さは折り紙付きだ。

 俺の母親ではあるがゆえ、政争の火種を避けるため、一貫して他人として領内で暮らしてもらっている。

 

 俺はポエテを伴って、アリアの元へと向かった。

 

 だが……そこで俺を待ち受けていたのは、想定外の光景だった。

 

「これはレヴォス様。お久しぶりです。ご機嫌いかがですか?」


 アリアは微笑みながら、俺に声を掛けてきた。

 だが、俺は驚愕のあまり、その場に釘付けになった。

 

 俺の目の前にいるのは、アリアだろうか?


「……その姿はどうした? なぜ、若返っている?」


 救出時のアリアは20代後半の姿をしていた。

 呪具による不自然な意識停止の結果だ。


 だが、今目の前にいるのは、15歳の俺よりも幼く見える少女だ。

 14歳……

 もはやルナリアや、セレスと同年代にしか見えない。

 

 俺の問いに、アリアではなくポエテが神妙な面持ちで口を開いた。

 

「レヴォス様、私から説明いたします。アリア様の体内には呪具の魔力が残留しておりまして……呪具が破壊されたことで反動が生じ、一時的に細胞が過剰に活性化したようです。しかし、すでに容体は極めて安定しておりますので、ご安心ください」


 (いや、ご安心くださいって……先に言って欲しかったんだけど!? 俺の母親が、いつの間にか俺より年下になってるのは、さすがに驚くんですけど!)


 内心の動揺を押し殺し、俺は冷静さを維持した。


「そうか。健康に問題がないのであれば構わん。呪具の副作用で不老不死が実現できるのかもしれんな」


「呪具の力は不安定極まりないものです。命を削る危険な賭けとなりますので、推奨はいたしかねます」


 ポエテが真顔で応えた。

 

「なあに、冗談だ。呪具などに頼るつもりはない。それよりもアリア、頼みたいことがある」


 俺はエステラに貴族教育を施してほしいこと、そしてエステラの境遇を説明した。

 アリアはそれを、慈しむような瞳で静かに聞いていた。

 凄惨な監禁生活を経験した者同士、通じ合うものがあるのだろう。


「レヴォス様、承知いたしました。エステラ様のことは、このアリアにお任せください!」


 少女の姿となったアリアが、頼もしげに胸をドンと叩く。

 

 ……その姿、いずれ元に戻るのだろうか? それともこのままなのか。

 若返ったことは喜ぶべきなのかもしれないが、息子としては非常に複雑な気分だ。

 

 まあいい、ひとまずエステラの件はこれで片付いた。


 ――――――

 

 その夜。

 領内の騒がしさが消え、皆が寝静まる頃。

 俺は自室のベッドの端に腰を下ろしていた。


 さすがに今日は精神を摩耗させた。

 学園に戻る気力も湧かず、今夜はグリンベルで静養することにしたのだ。


 しかし静まり返った廊下から、こちらに近づく足音が聞こえてくる。


 この足音は……クロエか。

 

 ――トントン。


 予感通り、控えめなノックの音が響く。

 

「入れ」


 俺はベッドに座ったまま、ぶっきらぼうに答えると扉がギイと音を立てて開いた。


 そこには、案の定クロエが立っていた。

 だが、薄手のねまき姿のクロエは、頬を朱に染め、顔つきは少し緊張している。


「どうした、クロエ」


「あの……レヴォス様とのお約束を、今、叶えていただきたく参りました」


 約束……

 そういえばエルレインの村を守る時に、クロエに『何かひとつ願いを叶えてやる』という約束をしたな。

 

「そうだったな。で、クロエよ。何を望む? ……そういえば、凄い収穫があったぞ。『血の魔法』と言ってな。この研究を――」


 俺が『血の魔法』の研究について切り出そうとした瞬間、クロエがスススと音もなく距離を詰めてきた。

 そして、俺の横にチョコンと座り、射抜くような強い眼差しを俺に向けた。

 

「そ、そんなことはどうでもいいのです……!」


「……なにっ!?」

 

 そ、そんなこと!?

 そして、あの研究中毒のクロエが古代魔法を「どうでもいい」だと?

 

 クロエの願いとは、いったい何だ?

 まさか、俺の命とは言うまいな……?


「クロエ。願いと言っても、俺にできることには限度があるぞ」


 俺は警戒しつつ、クロエから距離を取ろうとした。

 だが、クロエは俺の袖をギュッと掴んで離さない。

 その指先は小刻みに震えていた。


「承知しております……しかし、レヴォス様……私はもう……私はもう、我慢できないのです! 私の願いとして、レヴォス様のお身体、一晩借りとうございますっ! ……えいっ!」


 クロエはそう言うと突然、俺に勢いよく飛び込んできた。

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