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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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5/10

第5話 ちょっとした恩返し


 魔法鑑定から2日が経過した。


 鑑定の結果は、前代未聞の全属性持ち――『6つの魔法(セクスタプル)』、そして全階級『特級』。

 俺個人としては、ゲーム知識通りの結果に驚くこともない。


 だが、本来のシナリオで起こり得た『魔法鑑定の悲惨な結果に絶望したレヴォスを、コレットちゃんが優しく抱きしめてくれる』というイベントが発生しなかった。


 広間では、コレットちゃんが「ふんふんふ~ん♪」と機嫌良さげに鼻歌を口ずさみながら、ハタキで掃除をしている。

 俺はそんなコレットちゃんの平和な姿をじっと眺めていた。


(……正直に言おう。どうせなら、コレットちゃんが抱きしめてくれるイベントを体験したかったなぁ……クソッ! 全部あのベマスタのせいだ!)


「レヴォス様、馬車の準備が整いました」


 背後から、フォルテの低く落ち着いた声がした。


「ああ、わかった。俺はこれから街へ出る。屋敷はフォルテに任せるぞ。……いいか、もし不審な輩が来訪したなら、問答無用で(ほふ)れ。慈悲など不要だ」


「はっ、承知しております」


 フォルテの返事を確認し、俺は馬車に乗り込んだ。




 魔法鑑定から2日後の今日は、レヴォスの人生を狂わせる『事件』が起きる日なのだ。


 ゲーム内では、落ち込むレヴォスを元気づけようと、コレットが提案して二人で街へ出かけることになる。

 公爵令息だと悟られないよう、二人は帽子を深く被り、平民の子供のような格好に変装して。

 

 コレットは長い髪を帽子の中にしまい込み、少年のような装いになる。

 ……だが、それが悲劇の引き金だった。

 

 背後に潜むベマスタの暗殺者に気づかぬまま、二人は街で襲撃を受ける。

 なんとか逃げるものの、暗殺者から毒の刃を受けたレヴォス。


 レヴォスを逃がし切れないと思ったコレットは決断するのだ。


 コレットは毒で弱っているレヴォスを路地裏の箱の中に隠し、自らがレヴォスだと暗殺者に言い張り、囮となって誘拐されることを。

 暗殺者たちは、レヴォスの顔を正確には知らなかったのだ。

 

 その後、なんとか自力で屋敷に戻ったレヴォス。

 コレットに騙された暗殺者たちは怒り、翌朝、レヴォスへのメッセージ代わりにコレットの嬲られた死体を屋敷の前に放置したのだ。


 (……そんな胸糞悪いシナリオ、俺が叩き潰してやる!)


 今日、俺は万が一に備えて、屋敷にはフォルテを残してきた。

 コレットや、他の使用人の護衛のためだ。


 そして俺が向かうのは、冒険者ギルド『虎狼(ころう)咆哮(ほうこう)』。


 ギルドの重い扉を蹴り開ける。


 酒場の中心では、ボコボコに叩きのめされ、縄で無様に縛り上げられた6人の男たちが転がっていた。

 それを取り囲むように、多数の冒険者たちが、ぎらついた視線で男たちを監視している。


「レヴォス様、こいつらが例の『不審者』どもですぜ」


「ああ、よくやった」


 俺は事前に、ここの連中へ命令を下していた。

 『今日、街に紛れ込んできた、堅気には見えぬ6人組を捕らえておけ』と。


 (いや……「捕らえろ」とは言ったけど、ここまでボコボコにしろとは言ってないんだよなぁ……まあ、手間が省けていいけど)


 床に転がるこいつらは、間違いなくベマスタの送り込んだ暗殺者だ。

 教会で俺に馬鹿にされたことを恨んで送り込んできたのだろう。

 

 この1年、俺が直々に「稽古」をつけてやった冒険者たち(ゴロツキ)の実力は、今や並の冒険者を凌駕する。

 おまけに多勢に無勢だ。


 暗殺者たちも、まさか数十人もの武装集団に待ち伏せされ、袋叩きにされるとは夢にも思わなかっただろう。


「うぅ……人違いだ……俺たちは……本当に何も知らないんだ……」


 縄で縛られた男が、弱々しく(うめ)く。


「そうか。ならば、貴様らの身体には『蛇の刺青(いれずみ)』が刻まれていないと言うのだな?」


「――っ!」


 男たちの表情が、一瞬で変わった。

 ベマスタの飼い犬どもは、忠誠の証として蛇の刺青を入れている。

 脱がせば一発で身元が割れるのだ。

 

 (暗殺者なんだから、こんなことを言われただけで、動揺しちゃいけないと思うだけどなぁ)

 

 だが、冷静な思考の裏側で、俺は腹が煮えくり返っていた。

 もし俺が対策を講じていなければ、目の前のこいつらがコレットに筆舌に尽くしがたい惨劇を強いていたのだ。

 そう考えると、容赦するつもりなんて失せてくる。


「そこの貴様が頭領(リーダー)だな?」


 俺は6人の中で、一番冷静さを失っていない男に声をかけた。


「…………」


 そいつは無言で俺を睨んだ。どうやら、当たりのようだ。


「俺がレヴォス・ムーングレイだ。その目に、俺の顔を焼き付けておけ。……貴様だけは、ベマスタのもとへ帰してやる」


  俺がそう言い放つと、周りの冒険者たち(ゴロツキ)たちが残りの5人の胸元を、無言で刃が貫く。

 5人の身体が、ドスンと力なく崩れ落ちた。


 それでも、リーダー格の男は眉一つ動かさない。

 仲間の命など、こいつらにとっては消耗品に過ぎないからだ。


「ふむ、こいつを()()()()()()()街の外に捨ててこい。爪、鼻、歯……あとは髪の毛も不要だな。あとは数本、骨を砕いて身体を軽くしておいてやれ」


「「「へい、仰せのままに!」」」

 

 冒険者たち(ゴロツキ)の返事を確認し、俺は背を向ける。

 ギルドを出る俺の背中に、暗殺者の悲鳴が聞こえてきた。


 あの暗殺者は俺を恨み、俺の顔を決して忘れないだろう。

 そうすれば、コレットや他の使用人が狙われなくて済む。

 

 その後、街でちょっとした買い物を済ませ、俺は馬車で屋敷へと帰還した。

 

 ――――――


 屋敷に戻ると、フォルテがすぐに俺を出迎えた。


「お帰りなさいませ、レヴォス様。こちらは、特に何も起きておりません」


「そうか。……フォルテ、たまには下がって休め」


「もったいなきお言葉にございます」


 (フォルテさん、少しは休んでくれないかな……全然休まないんだよなぁ。これじゃ、うちがブラック企業みたいになっちゃうよ……)


 そして、俺は自室へと向かった。

 扉が開け放たれた室内では、コレットが掃除をしていた。


 ……ちょうどいい。


「コレット、そこの椅子に座れ」


「わっ!? レヴォス様! 申し訳ございません、お戻りに気づかず……っ!」


 コレットは心底驚いた様子で、慌てて掃除道具を脇に置き、平身低頭(へいしんていとう)に謝罪する。

 俺はこの1年、意識的に「コレット」と名前で呼び続けてきたおかげで、今ではコレットもその呼び方自体には驚かなくなっている。


「構わん。座れと言っているのだ」


「え……わ、わたくしが、でしょうか……?」


 コレットはおずおずと、俺の目の前の椅子に腰を下ろした。


 俺はコレットの正面に立ち、街で購入してきた小箱を開いて見せる。

 中身を見たコレットは、小首を傾げて「?」という不思議そうな表情を浮かべた。


 俺は何も言わず、箱の中のそれを手に取り、コレットの柔らかな髪へそっとそれを添えた。

 細工の凝った、上品な輝きを放つ髪留めだ。


「ふむ、悪くない。似合っているぞ」

 

「わわっ!? レ、レヴォス様!? わたくしのような身分で、これほど高価な品をいただくわけには……!」


「良いのだ。……俺の気が変わらぬうちに、受け取っておけ」


「あ……ありがとう、ございます……」


 コレットは信じられないものを見たという顔で、俺を凝視している。

 

 本来の歴史なら、この少女は命を賭して俺を守り抜いた。

 こんな安物の髪留め一つで、返せるような恩ではないのだ。


 今あまり過剰に接すれば、それこそ俺の印象が大きく変わってしまう気がした。

 そう思い、今日はこれだけで切り上げるつもりだった。


 ……だが、目の前のコレットの純粋な瞳を見ていたら、不意に俺の心が制御できなくなってしまった。


「レ、レヴォス様……っ!?」


 気づけば俺は、コレットを強く抱きしめていた。


「コレット……幼少の頃より俺に仕えてきたこと、誇りに思うぞ」


 (本当は、守ってくれてありがとうって言いたかったけど、ギリギリで抑えた。今の俺には、これが精一杯の言葉だ)


「い、いえ、そんな……あ、ありがとうございます……っ!」


 腕を離すと、コレットの顔はリンゴのように真っ赤に染まっていた。


(やば……つい勢いでやりすぎたかも。でも、コレットちゃん可愛すぎるだろ! 破壊力抜群だわ……)


「ふん……ではな」


 呆然と立ち尽くすコレットを尻目に、俺は逃げるように自室を後にした。

 

 (危ない、俺の顔まで火を噴くところだった……!)

 

 高鳴る鼓動を抑えるため、あてどなく広間へ向かうと、またしてもフォルテが近づいてきた。


「レヴォス様、魔法省から親書が届いております」


 そういって、便箋(びんせん)を俺にさしだした。


 差し出された便箋を受け取り、封を切る。

 内容に目を通した俺は、小さく口角を吊り上げた。


「……フォルテ、明日、魔法省から鑑定官が来る」


「魔法省が、ですか? 一体何のご用でしょうか?」


「俺の鑑定結果を再調査したいらしい。まあ、調査自体はどうでもいいが……来る鑑定官には『用』がある。丁重にもてなせ」


「承知いたしました」


 手紙には、俺の前代未聞の魔法鑑定の結果を念のため、調べ直したいという内容だった。


 本来なら拒否しても良かったのだけど、鑑定官の名前を見て受け入れる事に決めた。


 鑑定官の名前は、クロエ・フィーンズ。


 若くして魔法省の賢者と(うた)われる、優秀な魔術師。

 その美貌と徹底したツンデレ気質、そしてちょっと天然気質で、プレイヤー間でも上位の人気を誇っている。

 

 クロエは後に主人公の仲間となり、魔道具開発で多大なる貢献を果たす『魔道具マニア』でもある。

 

 魔法省の職員は副業を禁じられているが、クロエが裏で店を経営していることを、俺は知識として知っている。


 クロエが経営しているのは、『バルザの魔道具店』。


 俺が2日前に訪れた、あの店の主。

 自作の魔道具で、老婆に化けていただけなのだ。


 (……俺が渡した金貨1枚が、こんなに早く役に立つとはね!)

 

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