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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第29話 アリアと、ルナリア


 帝国中央学園が突如として、数日間の休校を告げた。

 華々しい学園生活が始まったばかりの矢先の出来事だ。


 原因は、4大公爵家のシークランス家の屋敷で起きた、原因不明の大爆発だという。

 貴族の子弟が集まる帝国中央学園にも危険が及ぶ可能性があるということで休校なのだ。

 

 暗殺未遂だか、事故だかの噂があるが……全く怖いものだな?


 そして、俺はその休校の時間を使ってやることがある。


 我がグリンベル領の屋敷、その客間。

 そこには、先日保護したばかりの2人の女性が、落ち着かない様子で肩を寄せ合っていた。


 ネール・ムーングレイ。

 そして、その娘であるネーブ・シークランス。


 重厚な扉を開けてフォルテが2人を促す。

 

「このお方が、グリンベルの領主であらせられるレヴォス・ムーングレイ様です」


「……楽にしろ」


 俺はソファの背もたれに深く腰掛け、足を組み、傲岸不遜な態度で2人を見下ろした。

 正面に座る2人の顔には、困惑と不安が見える。


「あの……レヴォス、よね? 私のこと、本当に覚えていないのかしら……?」


「――レヴォス()にございます」


 ネールの震える声に、フォルテが俺への敬称について釘を刺す。


「知らんな。二度と俺にそのような戯言を抜かすな」


 突き放すような言葉を吐き捨て、俺は冷たい眼光を向けた。


 ネールの困惑に染まった顔で言葉を失うのを見て、胸の奥が焼けるように痛む。

 だが、これが最善なのだ。彼女たちを、血塗られたムーングレイの業から切り離すためには。


「貴様らには、今日限りで名前を捨ててもらう。この領地での平穏を望むなら、その呪われた名はあまりに危険すぎる」


 俺の言葉に、ネールはハッと何かに気づいたように顔を上げた。

 ネールの瞳に、俺の真意を読み解こうとする鋭い知性が宿る。


「……分かりました。その仰せに従いましょう、レヴォス様」


 ネールは一転して、領主に対する敬意を込めた所作で深く頭を下げた。

 理解したのだ。

 これが俺なりの、歪んだ『守り方』であることを。

 

「お母様、名前を変えるの……?」


 不安げに母親の服の裾を掴む少女に、ネールは優しく、だが力強く頷いた。


「ネーブ、これは私たちが生きるために必要なことなのよ。……ところでレヴォス様、私たちの名前はなんとすればよろしいですか?」


「好きにしろ」


 俺の言葉に、ネールは少し思案した表情をしたが、すぐに返答した。


「……では、レヴォス様。私たちの新しい名を、授けてはいただけませんか?」


「……俺がか? 構わんが、ネーブはどうなのだ」


「はい! ぜひ、領主様につけていただきたいです!」


 (むむむっ! これは、いわゆる『名付けイベント』というやつか!? よし、原作のイメージを崩さず、それでいて二人の絆を感じさせる名にしよう……そうだなぁ……)


「ネール。お前は今後、『アリア』と名乗れ」


「アリア……素敵な名を、ありがとうございます」


 ネール……いや、アリアは深々と頭を下げた。


「そしてネーブ。貴様は――『ルナリア』だ」


「ルナリア、ですね。とっても素敵な名前です! ありがとうございます!」


 こうして、2人は過去を捨て、グリンベルの民として新たな一歩を踏み出した。


 (ちなみに、『ネー』という共通項があった2人に対して、今回は語尾に『リア』を持ってきた。離れていても、二人が親子であることをその名に刻みたかったのだ)


 

 ――――――

 

 

 我が妹ネーブ――『ルナリア』には、ここグリンベル領でやってもらう事がある。


 元々、ルナリアも俺と同様にラスボスなのだ。

 赫の魔女、ネーブ・シークランス。

 

 その宿命ゆえ『ルナリア』も主人公からヘイトを稼ぐ必要がある。

 ヘイトをかせぐには、事前に必要な事があるのだ。


「ルナリア、今日からお前を鍛え上げる。まずは、フォルテから剣を学べ」

「改めて、ルナリア様。フォルテと申します。私も未熟者ですが、少しでもお力になれるよう尽力させていただきます」

「よ、よろしくお願いいたします!」


 ペコペコと頭を下げるルナリア。

 

「で、こっちが賢者のクロエだ。お前に魔法を教える」

「クロエです。私の知識を余さずお教えさせていただきます。ルナリア様」

「よろしくお願いいたします!」


「こいつがヒロン。こいつからは政治、軍略と兵法を学べ」

「ヒロン・イロンダルです! 宜しくお願いいたします!」

「よろしくお願いしますっ!」


 次々と紹介される『師匠』たちの顔ぶれに、ルナリアは目を白黒させている。


「そして、メイドのコレットだが、お前は家事をルナリアに――」

「……あの、レヴォス様?」


 コレットが、俺の言葉を(さえぎ)る。


「さすがに、詰め込みすぎではないでしょうか……? ルナリア様が壊れてしまいます」


「……そうか? まあいい、ならばフォルテとクロエとヒロン、お前ら3人が優先してルナリアを教えろ。急務で仕上げるのだ」

「「「 承知いたしました 」」」


 その日から、ルナリアの修行が始まった。


 夜明けと共に起床し、体力向上のための走り込み。

 朝食後はクロエによる、脳が焼き切れるような魔導講義。

 午後はフォルテの容赦ない剣の稽古。

 夕食後はヒロンによる、思考を酷使する座学。

 それが終われば風呂と自習、そして泥のように眠る日々。

 

 ひたすら、それを繰り返す。


「レヴォス様?」


「なんだ、コレット」


「ルナリア様、詰め込みすぎではないでしょうか?」


(またコレットちゃんに叱られたんだが……いや、しかしルナリアには強くなってもらわないと困るんだ。何せ、俺と同様に主人公と対峙する必要があるのだから)


「本人が根を上げるなら考えるが、それまでは様子を見る。何かあったら教えろ」


「承知しました」


 突き放すように答えたが、俺の懸念は杞憂に終わった。

 ルナリアは驚くべき適応力を見せ、その瞳には以前のような怯えではなく、確かな生気が宿り始めていたのだ。


 そして、ある日の午後。

 俺はアリア、フォルテと共に執務室で密談を行っていた。

 

「……で、なぜ捕らえられていた。グランディアの奴は何をしていたのだ」


 俺は、我が母ネールがシークランスに捉えられていた理由を聞いていた。

 俺の問いに、アリアは苦渋に満ちた表情で語り始めた。

 

「……私がムーングレイ家に嫁いだのは形ばかりのこと。ルナリアが生まれてすぐに放逐され、細々と暮らしておりました。しかし、ある日届けられたブレスレット……それを身につけてからの記憶が、全くないのです」


 ブレスレットを身に着けたら意識を無くす、か。

 記憶の混濁。間違いなく呪具の類だ。


「そうか。しかし、王家はどうしたのだ」


 ネールは王の娘なのだ。

 ムーングレイもシークランスも、こんなことをしてタダで済むわけがない。


「そうですね……これは……申し上げにくいのですが、私の母は王家の使用人でした。正式な側室にもなれず、疎まれた私は、厄介払いとして公爵家へ追いやられたのです……」

 

 身分による差別と冷遇。

 その事実に、俺は腹の底から煮えくり奥歯がギリリと鳴った。


「そうか。王家も、ムーングレイ家も……等しく腐り果てているな。アリア、ここでは身分などという無価値な概念は存在しない。ここで安らぐがいい」


「……ご配慮、痛み入ります」


 そういって頭を下げるアリア。

 感謝を述べるアリアを残し、俺はルナリアの様子を見に訓練場へと向かった。


(コレットちゃんも心配しているし、定期的にルナリアちゃんの様子を確認しないとだ)


 するとそこには、休憩中のはずが一人で黙々と木剣を振るうルナリアの姿があった。


「ルナリア、精が出るな」


「あ、おにい……じゃなくてレヴォス様。はい! 皆さまにお世話になっております!」


 屈託のない笑顔で答えるルナリア。


「そうか。何かあったら遠慮なく言え」


「はい! ありがとうございます!」

 

 ルナリアの手には、使い込まれた木剣。


「ルナリア。成果を見せろ。俺が相手をしてやる」


 そう言って、俺も木剣を握る。


「えっ!? よろしいのでしょうか……」


「殺す気で来い。全力を見せねば、許さん」


「分かりました……参ります!」


 二人で木剣を構え、対峙する。


 だが、その直後――


 視界にいたはずのルナリアの姿が、一瞬で掻き消えた。


「――っ!? 後ろか!」


 背後から迫る、容赦のない風切り音。


 狙いは頭――木剣といえど、まともに喰らえば死ぬ。

 

 だが……


「甘いッ!」


 俺は半身を翻すと同時に、上段から振り下ろされる木剣の軌道を一点に絞り、ルナリアの木剣に致して垂直に突きのカウンターを放った。


 ――バキィッ!


 衝撃音が響き渡り、ルナリアの持っていた木剣が見事に真っ二つに折れ飛んだ。


 そのまま、俺の剣先をルナリアの喉元へ突きつける。


「えっ!? あっ! 剣が!?」

 

「……勝負あったな」


「かすりもしないなんて…………全然、敵いませんでした……」

 

 ルナリアはシュンっと肩を落とし、悔しそうに唇を噛んだ。


「筋は悪くない。精進しろ」


「は、はい! がんばります!」


 俺はぶっきらぼうにそう告げ、足早にその場を去った。

 だが、背中を向けた俺の全身には、冷たい汗が吹き出していた。

 

 (……おいおいおい、冗談だろ!? たった数日でなんだあの動き! 正面から消えて背後を取るなんて、どんな超速移動だよ!? いったいどうやったの!? しかも、ルナリアの木剣を受けれなかったら俺、確実に死んでたよっ!? いや、これがラスボススペックなのか……? 油断してた……我が妹ながら、恐ろしすぎる才能だ……!)

 

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