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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第25話 本当の脅威


 一晩中、俺はソファに深く腰掛け、神経を極限まで研ぎ澄ませていた。

 膝の上には聖剣を置き、わずかな空気の震えも見逃さないよう……


 だが、期待していた暗殺者はついに現れなかった。


「……ふん。興醒めだな、シークランスめ」


 鼻で笑い、凝り固まった肩を回す。

 期待外れもいいところだ。

 

 怖気づいたのか、あるいは手駒が尽きたのか。

 まあいい。俺に牙を剥くことがどれほど愚かなことか、身をもって理解したのだろう。

 

 そして今日、ついに帝国中央学園の入学式を迎える。


 俺の目的はただひとつ。

 この学園に集う、4大公爵家の子息たちの顔を拝んでおくことだ。


 原作の知識が正しければ、公爵家の次代を担う連中は全員この学園に在籍しているはず。


 まずは、『騎士団』を管轄し、我がムーングレイ家。

 

 次に、『宗教省』管轄のシークランス家。

 昨日顔を合わせたケウダ・シークランスは、義理の妹の引き立て役に過ぎない無能だ。

 真に警戒すべきは、今はまだ虐げられている義理の妹――『赫の魔女』ネーブ・シークランス。

 

 だが、今は兄のケウダの暴力やシークランス家で酷い仕打ちを受けているだけで、現段階では脅威ではない。

 

 そして、『魔法省』を管轄し、オレスフォードへの侵略を企てたリンクショット家。

 魔法研究だけじゃなく、古の魔道具の研究や、魔法生物の捕獲など、魔法全般に余念が無い。

 その長女の名は、アイリス・リンクショット。


 最後に、帝国の経済を牛耳る『商業団』のブレイバースト家。

 商業が基盤なので、武力だけでねじ伏せるのは難しい厄介な連中だ。

 この嫡男、キリノ・ブレイバースト。

 

「よし。では行ってくる。クロエ、コレットを任せたぞ」


 身支度を整え、部屋に残る二人に声をかける。


「レヴォス様。どうか、お気をつけて」

「いってらっしゃいませ! はい! コレットちゃんは私が命に代えても守りますので!」


 そして、俺は部屋を出て入学式が行われる、学園の大ホールへと向かう。

 その道すがら、クロエとコレットの事が気になっていた。


(……昨夜、暗殺者対策として俺のベッドに二人を寝て貰ってたんだけど、妙に距離が縮まってる気がするなぁ。寝ている間も、何やらモゾモゾと身を寄せ合い、あえぐような熱っぽい声を漏らしていたけど……よほど暗殺者が怖かったんだろうな……うん、でもそれを乗り越えて仲が良くなることは良い事だね!)


 大ホールに足を踏み入れると、そこは新入生たちの熱気とざわめきで満ちていた。

 案の定、俺が登場した途端、周囲の視線が針のように突き刺さる。


「おい、見ろよ。あれがムーングレイ家の……」

「あの、極悪と噂の嫡男か……?」


 ひそひそという陰口が、嫌というほど鼓膜を打つ。

 だが、それがどうした。公爵家に生まれた以上、畏怖(いふ)羨望(せんぼう)の対象になるのは当然の宿命だ。


 俺は背筋を伸ばし、堂々と歩む。

 一点の曇りもない足取り。やましいことなど何一つないのだからな。

 

「入学前に、学園の広場でいきなり他家の令息を叩きのめしたらしいぞ」

「逆らう奴は全員潰すと恫喝(どうかつ)したとか……恐ろしい男だ」


 (……うん。やましいことはしていないつもりだったけど……すでに悪い印象を与えちゃったみたいだ……)


 そして、入学式が始まった。

 学園長の退屈な演説が終わり、ついにその時が来る。

 

「新入生代表の挨拶。レヴォス・ムーングレイ、前へ!」


 俺が指名されたのは、公爵家の権威もさることながら、やはり『6つの魔法(セクスタプル)』かつ全属性『特級』という前代未聞の鑑定結果ゆえだろう。


 そして俺は悠然と壇上へ登る。

 この帝国中央学園での代表挨拶は、貴族にとって最高の栄誉。

 いったい誰が『最初の頂点』として選ばれるか、それがこの学園生活における最初の勝負なのだ。

 

 演説席に立つ。

 眩い照明のせいで客席の細部までは見えないが、このどこかに他の公爵家の子息たちが座っているはず。

 他の公爵家の顔が見えないのが残念だ。


 肺の奥まで空気を満たし、腹の底から響くような声で口を開く。


「紹介に預かった、ムーングレイ家の嫡男。レヴォス・ムーングレイだ。……諸君、魔法鑑定の結果はどうだった? 満足のいく結果だったかな?」


 ――ザワッ……

 

 俺の言葉に、会場がざわりと揺れた。


「あいつ、『6つの魔法(セクスタプル)』だからって見下しやがって」

「どうせ金で鑑定結果を改ざんしたんだろう。汚らわしい」


 予想通りの反応だ。

 浴びせられる罵声を心地よく受け流し、俺はさらに言葉を重ねる。


「鑑定結果に歓喜した者もいれば、絶望に打ちひしがれた者もいるだろう。俺は幸運にも恵まれた結果を得た。そして、俺がこの場に立っているのは公爵家の血筋ゆえだと、そう思っている者も多いはずだ。だが、ここで敢えて断言させてもらおう。魔法鑑定の結果や、貴族の生まれそのものに、絶対的な価値など存在しないということをな」


 ――ザワザワザワザワザワザワッ!

 

 爆発的なざわめき。

 生徒だけでなく、教授陣までもが驚愕に目を見開いている。


 貴族としての矜持を唯一の支えにしている奴らの鼻柱を、完膚なきまでに叩き折ってやる。

 その絶望に満ちた表情を見るのは、実に愉快でたまらない。


「地位や金で優位に立てることはあるだろう。だが、人としてどう生きるかにおいて、そんなものは必須ではない。この学園で競うべきは、過去の栄光や血統の優劣ではない。成すべきことがあるなら、今すぐに動け。明日でも、昨日でもない。今、この瞬間から始める者だけに価値がある。俺は、そういう志を持つ諸君と共に学ぶことを切に願っている。……以上だ」


 言いたいことだけを叩きつけ、俺は一礼もせずに壇上を降りた。

 

 会場は水を打ったように静まり返り、冷ややかな空気が場を支配している。

 拍手など、最初から期待していない。


 だが――


 パチ、パチ、パチ。


 どこからか、控えめだが力強い拍手が聞こえてきた。数は少ない。

 俺の言葉に毒された、物好きな連中もいるらしい。

 

 その後、入学式は滞りなく終了した。


 リンクショット家も、ブレイバースト家も、結局その姿を確認することはできなかったが、向こうは間違いなく俺を意識したはずだ。

 まぁ学園にいれば、その内に会う事になるだろう。


 脅威の芽は、小さいうちに摘み取っておくに限る。


 式典を終え自室へ戻ろうとした、その時だった。


「あの! すみません!」


 背後から、鼓膜を震わせるほど真っ直ぐな大声が響いた。

 足を止め、ゆっくりと振り返る。


 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 

 手入れの行き届いていないボサボサの黒い長髪。

 美しい顔立ちに、その奥にある瞳は、宝石のように強い光を放っている。


 だが、着古した安物の服を纏っており、生地の質は一目で平民か貧乏貴族のそれだと知れた。

 

 しかし……『エル戦』において、こんなキャラはいただろうか。

 もしくは、モブキャラか?

 

「俺に何か用か。俺は忙しいのだがな」


「あのっ、先ほどの演説、すごく……すごく胸に響きました! 私、平民の特待生として入学したので、不安でいっぱいで……でも、公爵家の方が、生まれじゃないって言ってくださって、救われた気持ちになったんです!」


 少女は頬を紅潮させ、俺を食い入るように見つめている。

 あまりに純粋な、善意100%の視線。


「……そうか。なら、精々励むがいい。ではな」


 俺は冷たく突き放し、少女に背を向けた。

 そして再び歩みだし、その場を去ろうとした。

 

 だが……


 少女の恐ろしい一言に、戦慄することになる。


「あの……私、エルマって言います!」


「……っな!?」


 俺の足が、地面に縫い付けられたように止まる。

 全身の血の気が引き、指先が微かに震えた。

 冷や汗が背中を伝い、心臓が警鐘を鳴らす。


 家名を持たない、平民のエルマ。


 俺は知っている。

 知らないはずがない。


 エルマこそが、悪役公爵レヴォス・ムーングレイを殺す存在であり……


 『エルヴァンディア戦記』の主人公なのだ。


 この『エル戦』は主人公を男と女から選べる。

 『エル戦』のコミカライズなどでは、ほとんどが男主人公で作られていた。

 よって、俺は女性版主人公の顔など忘れていてしまっていた……

 

 まさか、ここでは女主人公だったのか……

 だが何より主人公のエルマが、この学園にいるはずが無い。

 どこかで、何かの軸がずれたのだろうか。


 エルマが俺を見据える熱っぽい瞳を、俺も直視しながら、俺はただ表情を崩さないように集中していた。



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