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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第22話 帝国中央学園


 オレスフォードでの激動の祝勝会を終え、俺たちは懐かしきグリンベルへと帰還の途についていた。

 行きは一刻を争う事態だったが、帰りは打って変わって、馬車が揺れる音さえ心地よく感じるほどの緩やかな旅路だ。


 オレスフォードの王からは、これでもかというくらいの豪奢な馬車を提示された。

 だが、俺たちはあくまで帝国から『お忍び』で来ている身だ。

 そんな走る宝物庫のような馬車で国境を越えれば、帝国の軍隊に捕捉されかねない。

 

 結局、どこにでもある平凡な馬車を用意してもらったのだが……


「さすがはレヴォス神様……目先の虚栄に惑わされず、真の効率を追求されるそのお姿。私どもの浅はかな思慮、どうかお許しください」


 ただ目立ちたくなかっただけなのだが、なぜか殊勝に頭を下げられ、感心されてしまった。

 正直、オレスフォードの連中が俺を『神』と崇め奉る熱狂ぶりには、辟易としていたのだ。

 グリンベルが近づくにつれ、ようやく肩の荷が下りる思いで、俺は安堵の溜息を漏らしていた。


 だが、この馬車の内部という密室でも、頭の痛い問題は続いていた。


「レヴォス神様! グリンベルとは一体どのような桃源郷なのでしょうか!? 私のこの眼で拝見できる日が来ようとは!」


 御者席にはいつものようにフォルテが座り、俺の隣には賢者クロエが、どこか落ち着かない様子で座っている。


 そして正面に座り、身を乗り出して鼻息荒く問いかけてくるのが、オレスフォードの王子ヒロン・イロンダルだ。


(……いや、なんで王族がついてきちゃうかなぁ。国を挙げて止めてほしかったのに、本人が泣いて(すが)るし、王も『神のお導きを!』とか言って送り出しちゃうし……断りきれなくて根負けしてちゃった自分の責任でもあるけど……)


 期待に満ちたヒロンの瞳が眩しくて、思わず顔を背けそうになる。


「グリンベルはつい最近領有したばかりの土地だ。今はまだ、何もない荒野に近い。ヒロン、お前も開拓のために馬車馬のように働いてもらうからな。……それと、一つ厳命がある」


「は、はい! 何なりと!」


 あまりの勢いに、ヒロンの顔がさらに近づく。暑苦しい。

 俺は眉をひそめ、冷徹な響きを意識して告げた。


「俺を『神』と呼ぶのは今この瞬間から禁止だ。二度とその名を口に出すな。いいな?」


「なるほど……真の神は己を神と呼ばせず、人の子として歩む。あえて偽りの名を名乗ることで、世の(ことわり)を試そうというのですね……承知いたしました! さすがはレヴォス様、深慮遠謀(しんりょえんぼう)、恐れ入ります!」


 一体、俺の言葉のどこをどう解釈すればそうなるのか。

 思考の斜め上を突き抜ける理解力に頭痛を覚えたが、ひとまずは『神』という呼称から解放される。

 俺はこめかみを押さえつつ、これ以上の追及を諦めて背もたれに深く身を沈めた。



 ――――――



 やがて馬車は、見覚えのあるグリンベルの景色の中へと滑り込んだ。

 離れていたのは二週間にも満たない。

 だが、その短い間に死線を越えてきたせいか、土の匂いすらも酷く懐かしく感じられた。


「「「 レヴォス様ー! お帰りなさいませー! 」」」


 俺たちの姿を見つけた領民たちが、作業の手を止めて駆け寄ってきた。

 その屈託のない笑顔を見て、俺の心に温かな灯がともる。


(ああ、やっぱりここが俺の居場所なんだなぁ。改めて実感しちゃうよ……)


 俺は馬車の窓から軽く手を掲げ、皆の歓迎に応えた。


 馬車を降り、集まった面々に、緊張でガチガチになっているヒロンを紹介する。


「今日からグリンベルの開発に協力してもらうことになったヒロンだ。こいつはやる気に満ち(あふ)れている。遠慮なく扱き使ってやってくれ」


「ヒロン・イロンダルと申します! この素晴らしい地の一助となれるよう、粉骨砕身に頑張ります! 皆様、よろしくお願いいたします!」


 王族とは思えないほど謙虚な、というか必死な挨拶に、領民たちは驚きつつも温かくヒロンを受け入れた。


 さっそくヒロンの能力を試してみたが、これが意外にも『当たり』だった。

 オレスフォードという砂漠の過酷な土地で育ったヒロンは、実践的な都市開発の知識を叩き込まれていたのだ。


 居住区や最低限の耕作地は既に整いつつあったため、ヒロンが着手したのは、より高度なインフラ整備だった。

 上下水道の敷設、効率的な街道の整備、医療施設の拡充、さらには物資の流通を支える店舗の配置まで。

 ヒロンは休む間もなく皆と話し合い、図面を引き、泥にまみれて現場を指揮した。


 さらに、ヒロンが提案した『娯楽』の導入も功を奏した。

 釣り大会や、各々の故郷の歌や踊りを披露する夜会。

 それらは、過酷な開拓生活で磨り減った人々の心を、確実に見事に癒していったのだ。


 皆もヒロンを受け入れ、目まぐるしい日々が過ぎ季節が入れ替わった。


 そして――俺はついに15歳を迎えた。


 この世界において、15歳は大きな転換点だ。


 『帝国中央学園』への入学が始まる年だからだ。


 6年に一度、12歳から18歳までが入学可能なこの場所には、四大公爵家をはじめ、帝国中の選りすぐりの貴族たちが集う。


 そこは、貴族としての格が決まり、将来の派閥を決定づける社交の最前線だ。

 正直、俺個人としては、そんな面倒な場所へ行く必要など感じていない。

 グリンベルで平和に過ごせるなら、それに越したことはないのだから。


 だが、無視できない深刻な懸念があった。

 俺の最大の敵は『エル戦』の主人公だが、同じくらい、他の『4大公爵家』の面々も危険なのだ。


 ゲームのシステム上、マルチシナリオによってラスボスが変動する。

 そのラスボス筆頭候補が俺、レヴォス・ムーングレイだが、他の公爵家もまたラスボスの可能性がある怪物揃いだ。


 そして、この世界の(ことわり)で最も恐ろしいのは、『主人公に最も憎まれた者がラスボスになる』というシステムだ。


 主人公に憎まれず、物語に関わろうとしなかった「敵役候補」はどうなるのか?

 答えは残酷だ。


 ――『エル戦』のシステムそのものに殺される。


 もし俺が帝国から逃げ出し、どこか辺境の村で隠居生活を送ったとしよう。

 そうなれば、役割を放棄した俺は、突発的な疫病、あるいは不自然な落石事故……あらゆる『不運』の名を借りた物語の強制排除によって命を落とす。

 転生したこの世界でもその(ことわり)が働くのかは不明だが、賭けるにはリスクが大きすぎる。

 

 俺が死なないためには、この世界の中心――主人公の視界の内に居続けなければならないのだ。

 他の公爵家を出し抜き、正しく『敵役』として君臨し続ける。

 それは、生き残りをかけた公爵家同士のデスゲームに他ならない。


「……ふぅ。では、行くか」


「はっ、御準備は整っております」


 御者席で控えていたフォルテが、重みのある声で応じる。

 ついに、学園という名の戦場へ足を踏み入れる時が来た。


 学園へと向かう馬車の中。俺の傍らには、メイドのコレットと、賢者のクロエが従者として控えている。

 学園には全寮制の宿舎があるが、グリンベルに戻るのも自由だ。


「クロエ、コレット。学園に行けば、掃き溜めのような貴族共の皮肉が飛び交うだろう。俺だけでなく、付き従うお前たちにも、心ない言葉が投げかけられるはずだ。……もし、ムーングレイ家の従者として、不当な侮辱を受けた時、どう振る舞うべきか分かっているな?」


 俺の問いに、二人は背筋を伸ばし、覚悟を決めたような厳しい表情で頷いた。


「はい。ムーングレイ家の誇りを胸に、そして何よりレヴォス様の名に泥を塗らぬよう、低俗な挑発には一切耳を貸さず、沈黙を貫きます」


「……同じく。未熟な者たちの言葉に惑わされることはありません」


 二人は真っ直ぐな瞳でそう答えた。


 普通の主であれば、これ以上ない『正解』だと褒め称えるだろう。

 だが、俺の考えは真逆だ。


「……いいか、よく聞け。もし、そんな輩が現れたら、すぐに俺に報告しろ。間違っても、自分たちだけで耐えたり、その場で殴りかかったりするなよ」


「「 ……えっ? 」」


 二人が呆気に取られたように声を上げる。


 貴族という人種は、陰湿な妨害を何よりも好む。

 学園での優位性は、そのまま実家の価値に直結するからだ。

 

 謀略、暴力、策略……

 他人の足を引っ張り、蹴落とすことが日常茶飯事の、泥沼のような場所。


「学園は、形の上では身分の差がない場所だ。だからこそ、分をわきまえぬ不埒(ふらち)(やから)が必ず湧いてくる。俺の大事なものに勝手に触れさせるつもりはないからな。……いいな、手出しはさせん」


 俺は窓の外を見つめたまま、淡々と告げた。

 二人の顔が驚きで赤らむのが、視界の端で見えた気がした。


 やがて、馬車は広大な敷地を持つ帝国中央学園の正門へと到着した。


「なんて大きな建物……まるでお城みたいですね……」


 コレットが窓に張り付かんばかりの勢いで外を眺め、感嘆の声を漏らす。

 王都に来る機会のなかったコレットにとって、この威容は想像を絶するものだったのだろう。


「行くぞ。遅れるな」


 俺は馬車を降り、堂々と歩み始めた。

 周囲には、着飾った貴族の令息や令嬢、隣国の王族たちの姿が溢れている。

 誰もが従者を連れ、野心に満ちた瞳で学園の入り口を目指していた。


 だが、俺がその場に現れた瞬間、空気の色が変わった。

 突き刺さるような視線。

 それは嫌悪、恐怖、そして(さげす)みだ。


「おい、見ろよ。あれが『狂犬』ムーングレイ家の嫡男か?」

「ああ……なんて(おぞ)ましい。見ただけで呪われそうな面構えをしてやがる」


 (……いや、俺が一体何をしたってんだよ。ただ歩いてるだけでしょ……)


 心の中で毒づくが、無理もない。

 公爵家という巨大な権力に対し、普段は媚びへつらっている連中も、この『身分平等』という建前の学園内に一歩入れば、溜め込んだ鬱憤(うっぷん)をここぞとばかりに漏らし始めるのだ。


 だが、中には言葉だけに留まらない、真性の馬鹿も存在する。


「おい。てめえがムーングレイのガキか? 随分と偉そうに歩いてやがるな」


 俺の行く手を(さえぎ)るように、山のような巨体の男が立ち塞がった。


「……だから何だ?」


 俺は足を止め、冷ややかな視線を向ける。


「お前、15歳なんだってな? 俺は18だ。この学園じゃ身分は関係ねえ、実力と年次が全てなんだよ。まずは年上の俺を敬う礼儀ってやつを教えてや――ゲフゥッ!!」


 ドガンッ!


 男が言い終わるよりも早く、俺の右拳が吸い込まれるように奴の顔面に突き刺さった。

 鼻骨が砕ける不快な音が響き、百キロはあるだろう巨体が木の葉のように舞う。

 男は数メートル後方に吹き飛び、学園の石壁にめり込んで動かなくなった。


「……やれやれ、誰だか知らんが面倒な奴だ。この程度で俺に喧嘩を売るとはな」


 俺の行為に、静寂が広場を支配していた。

 周囲の貴族たちは顔を引き攣らせて後退し、俺の背後にいたフォルテ、クロエ、コレットまでもが、あまりの容赦のなさに少し引いているのが分かった。


 だが、これでいい。

 ナメられたままでは今後の計画に支障が出る。


 俺は軽く首を回し、肺いっぱいに空気を吸い込むと、周囲の全員に聞こえるような大声で言い放った。


「いいか、よく聞け! たかが数年早く産まれた程度で、俺に指図できると勘違いしている奴はこうなる! 俺に文句がある奴は、今すぐ前へ出ろ! その腐った根性ごと、完膚なきまでに叩き潰してやる!」


 俺の怒声が学園の広場に響き渡り、辺りは水を打ったように静まり返った。


 それから、誰一人として俺と目を合わせようとする者はいない。


「……ふん。よし、行くぞ」


 俺が相手にすべきは、他の4大公爵家という『ラスボス候補』たちだ。


 こんな有象無象の雑魚に構っている暇はない。

 余計な虫が寄ってこないよう、十分な威嚇はできた。

 

 俺は悠然と校舎へと歩みを進めたが、先ほど吹き飛ばして壁にめり込んでいる貴族の従者の声が聞こえた。


「ケウダ様! 大丈夫ですか!?」


 従者たちは、なんとかめり込んでいる貴族を引っ張り出そうとしている。


「……ケウダだと?」

 

 ケウダ。

 俺はその名を知っている。


 ケウダ・シークランス。


 4大公爵家のシークランス家だ。


 俺の幼少期に魔法制限の呪いを掛け、6人の暗殺者を送り込んだ奴ら。

 そして、メイドのコレットを殺そうとしたクソ野郎の公爵家。


 俺が今、一番憎んでいる公爵家でもある。

 

 奇しくも、そこの長男をぶん殴れたのは俺にとってさい先の良い幸運だ。

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