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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第20話 これにて終焉


 俺たちは今、帝国の誇る500万の軍勢――その心臓部へと突撃を開始していた。

 

「どけええッ! 化け物が来てるぞ! 命が惜しければ道をあけろッ!」


 俺は張り裂けんばかりの声で、前方の帝国兵を煽るように叫んだ。

 帝国側からしてみれば、突如として現れた巨躯のモンスター――古代の魔物ゲブリの姿に、狼狽(うろた)える帝国兵たち。


「なんだあれは!?」

「ば、化け物!」

「うわあああ! 逃げろ、踏み潰されるぞ!」

 

 帝国兵たちが、蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ惑う。

 そして俺たちの前には、兵が退いたことで障害物となる帝国兵がいない『空洞の道』が開かれた。

 

「よし、面白いように道が出来たな。フォルテ、このまま突き進め!」


「御意にッ!」


 フォルテが鋭く手綱を振るう。

 ガタガタと悲鳴を上げるボロボロの馬車は、帝国兵のど真ん中を猛烈な速さで突進していく。


 この山あいの道は一本道だ。左右は切り立った崖。逃げ場などどこにもない。

 兵士たちは、自分たちの命を繋ぐはずだった食糧や予備の武器を積んだ荷車を放り出し、ゲブリの巨体を避けるために必死で崖の壁にへばりついている。

 フォルテはそれらの物資を紙一重でかわしながら、猛然と突き進む。

 

「ギョワワアアアアッ!」

 

 背後からは、怒り狂ったゲブリが咆哮を上げ、帝国の物資を木っ端微塵に粉砕しながら追いかけてくる。

 馬車が激しく揺れるたび、俺の胸は高鳴った。

 

「ふむ。計画通りだ。これで俺が手を汚すまでもなく、帝国の物資を効率よく破壊できるな」


 500万という途方もない軍勢を維持するには、膨大な食糧と物資が不可欠だ。

 そもそも、なぜ帝国がこれほどの過剰な戦力を投入したのか。

 それはこの国が一枚岩ではないからだ。


 俺の父親、グランディア・ムーングレイのような権力者たちが、勝ち確の戦で「誰が一番武功を立てるか」を競い合い、我先にと私兵をかき集めた結果……この、あまりに非効率で巨大なだけの軍勢が完成した。


 兵站(へいたん)こそが軍隊の生命線。

 だからこそ、補給路さえ絶てば、この巨体な軍勢は自重で崩壊する。

 500万の胃袋が空になった時、帝国に残された選択肢は『退却』の二文字のみ。


 すでに、ここは岩場の山道。この先は砂漠。

 どこにも食料など、あるはずが無い。

 現地調達など、この荒れ地でできるはずがないからな。

 

「レヴォス様! このまま進めば、さすがにレヴォス様の存在が露見してしまうのでは!?」


 手綱を握り締め、必死の形相でフォルテが叫ぶ。

 俺は鼻で笑い、乱れる髪を無造作にかき上げた。


「何を言っている。帝国兵の目の前に巨大な化け物が現れたんだぞ? 誰が俺たちのツラなんて見てる。周りをよく見ろ、奴らの目はゲブリに釘付けだ」


 先鋒を務める連中に、冷静な判断ができる指揮官などいない。

 4大公爵のような『大物』たちは、安全な中段から後方に陣取っているはずだ。


 気づけば、俺たちは帝国軍の約3分の1――200万人ほどの真っ只中まで到達していた。

 これ以上進むと、本物の厄介な『手練れ』が出てくる可能性がある。

 

 おまけに、周囲が山から森へと変わりつつある。

 帝国兵がゲブリから逃げられる『隙』ができるのは都合が悪い。


「よし、ここらが潮時だ。フォルテ、馬を解放してやれ。俺たちはここから徒歩で逃げるぞ!」


「「 徒歩で、ですか?! 」」


 俺の提案に、クロエとフォルテが裏返った声で絶叫した。


「どこへ逃げるというのですか!? 右も左も、前も後ろも帝国軍に包囲されているのですよ!?」


 フォルテが必死の形相で問いかけてくる。


「決まっている。俺たちが進むのは後方――もう一度、この200万の中を逆走してオレスフォードへ戻るんだ!」


「なんと!? あの化け物に向かって走れと仰るのですか!?」


「ああ、だからこそだ。……クロエ、こっちへ来い」


「は、はいぃっ!」


 ゲブリへの挑発で魔法を撃ち続け、肩で息をしていたクロエを手招きする。


「うひゃっ!? れ、レヴォス様!? これはいったい……!?」


 俺は有無を言わさず、クロエの細い腰に腕を回し、抱きかかえた。

 いわゆる『お姫様抱っこ』だ。

 クロエの顔が瞬時に沸騰したように赤くなる。


「クロエ、少々揺れるが我慢しろ。俺がお前を抱えて走る。お前はそのまま、ゲブリに向けて魔法を撃ち続けろ。フォルテ、今だ! 飛び出すぞ!」


「承知ッ!」


 フォルテが馬車の連結部を断ち切り、馬を解放する。

 自由になった馬たちが四散し、速度の落ちた馬車にゲブリが襲いかかる。


「ゲブリの目の前に『俺たち』を出すぞ!」

「はっ!」


 俺とフォルテは同時に馬車から跳躍した。

 今まで散々煽り倒してきた俺たちの姿を捉え、ゲブリが怒りに任せて前足を振り下ろす。


 その一撃は空気を切り裂き、俺とフォルテの体を無残に二つに引き裂いた。

 

 ――だが、それは手応えのない虚像に過ぎない。


 フォルテ直伝の技『幻影飛ばし』。

 視覚を惑わす残像を前に放ち、実体はゲブリの死角へと潜り込む。

 俺たちは着地と同時に、ゲブリの股下を潜り抜けて後方へと回った。


「クロエ! 挨拶をくれてやれ!」

「は、はいっ! 火よ、()ぜろおぉ!」


 クロエの渾身の火炎魔法が、ゲブリの後頭部で鮮烈に炸裂した。

 その衝撃に、ゲブリが怒髪天を突く勢いでクルリと反転する。


「ギュワアアアアア!!」


 標的を見失わず、さらに逆上したゲブリが、俺たちを追って再び走り出す。


「さあ、鬼ごっこの再開だ! フォルテ、左右に散って帝国兵のど真ん中を駆け抜けろ! 恐怖を伝染させるんだ!」

「承知いたました!」


 先ほど馬車で通った道を、今度は自らの足で逆走する。

 道の両脇で固まっていた帝国兵の群れに、俺たちは猛然と突っ込んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 戻ってきた!? 来るな、こっちに来るなあああ!」

「に、逃げろ! 踏みつぶされるぞ!」


 阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図だ。

 200万の帝国兵を巻き込んだ、世界最大のデス・ゲーム。


「迎撃だ! 何をしている!」

「む、無理です!」


 勇気ある一部の兵が抗うも、ゲブリの皮膚を傷つける事すらできない。

 自分たちの無力さを突きつけられた兵士たちの顔が、見る間に絶望で染まっていく。


「無駄だ! 逃げろ! 立ち止まった奴から死ぬぞ!」


 俺は兵士たちに、わざとらしく絶望を振りまいた。

 俺の言葉に追い立てられるように、数十万の兵が雪崩(なだれ)となってオレスフォード方向へと進む。


「うわあああ! 助けてくれえぇぇ!!」


 恐怖に逃げ出す兵士達。


 そうだ、それでいい。

 ひたすらオレスフォードへ逃げろ。

 

 その先の退路は、すでに無いがな。



 ―――――― 



 やがて、オレスフォードの国境の石橋が見える距離まで戻ってきた。

 

「そろそろ、帝国の先頭集団がオレスフォードへと掛かる石橋に着く頃だな」


 俺は抱きかかえているクロエに声を掛けた。


「……クロエ、石橋の魔導爆薬を起爆させる。魔力を集中させろ」


「分かりました!」


 二人の意識を一つに重ね、遠方にある石橋の座標へ魔力の波動を叩き込む。

 俺たちの魔力振動がトリガーとなり、橋の基部に設置されたクロエ特製の魔導爆薬が目を覚ます。


「「 起爆っ! 」」


 ――ズズゥゥゥン……


 足の裏から内臓を揺さぶるような重低音が響いた。

 石橋が崩落し、粉塵が舞い上がる。


「よし、退路は断った。このまま帝国兵を川へ追い詰める!」


 逃げ場を失った200万の軍勢。後ろからはゲブリ。前には断崖の川。

 俺はひたすらゲブリを煽り、分断された帝国兵を川縁へと押し流していく。

 

 道中には、捨て去った大量の軍需品が無惨に散らばっていた。

 帝国の物資の破壊は完了した。


 次は、帝国兵の『心』を折る番だ。


 俺たちはついに、石橋があった崖の上に到達する。

 橋を失った帝国兵たちは、後方からの圧力に押され、次々と川の中へと転落していった。


 だが対岸を見れば、そこには20万のオレスフォード兵が整然と列を成して待ち構えている。

 

「ふん、ヒロンの奴、うまく軍をまとめたようだな」


 街の中央に坐する巨大な石像が突如、帝国兵に向かって突撃しだすのだ。

 オレスフォード側からしたら、帝国兵の侵略から護るために蘇った守護神と思われたのだろう。


「このまま川へ押し込むぞ! フォルテ、遅れるなよ!」

「承知しました!」


 川はすでに帝国兵で埋め尽くされている。

 水深は1メートル。死ぬ深さではないが、重い鎧をつけた彼らには死の淵も同然。

 彼らの戦意を完全に喪失させるため、俺は最後の一手を打つ。


「クロエ、そろそろ頃あいだ。先日の夜に設置した二つの魔導爆薬を両方とも起爆させるぞ」


「はいっ!」


 俺たちが先日の夜に設置した魔導爆薬は2カ所。


 一つ目は、この川の上流に位置する水量を安定させるための設備。

 いわゆる、ダムだ。

 だが、大きなものでは無く、簡単に作られた簡易なもの。


 そして、二つ目の設置場所。

 それは予定通り、巨大モンスターゲブリの体内だ。


 あいつを倒すには、この手しかない。


「「 起爆っ! 」」


 ――ズドォォォォンッ!!


 背後で、天を突くような爆音と衝撃波が吹き荒れた。

 ゲブリの動きが止まる。


 その大きな口から、黒い煙がぶすぶすと噴き出した。

 ゲブリは直立したまま、その巨体を震わせ、やがて音もなく息絶えた。

 

 かつての魔導士が兵器として生み出し、制御不能となった悲しき怪物の最期。


 俺は一瞬だけ目を閉じ、その魂にささやかな安らぎを祈った。

 お前が守護神として、オレスフォードを救ったのだ。

 せめて、安らかに眠ってくれ。


 同時に、上流から解放された水が、緩やかな波となって押し寄せる。

 川の中にいた兵士たちは、流されまいと必死に武器を捨て、岩や互いの体にしがみついた。


 そこへ、対岸からオレスフォード兵たちが『救助』の手を差し伸べる。


 そうだ、これでいい。


 武器を捨てた帝国兵を、敵であるはずのオレスフォード兵が救う。

 この光景こそが、この戦争を終わらせる。


 俺は対岸でヒロンが手紙を掲げる姿を見た。

 距離があって声は聞こえないが、ヒロンなら俺の書いた手紙を、腹の底から響かせてくれるはずだ。


 俺がヒロンに託した、帝国の兵たちの前で読めと言った手紙の内容はこうだ。

 

 ======

 

『帝国の兵たちよ! 突如として現れた巨大モンスター討伐への助力、誠に大儀であった! モンスターは死した! 我らオレスフォードは、共闘した友として溺れる諸君らを救助する! 水位が戻れば、帰国への道を案内しよう!』

 

 ======


 簡潔だが、これだけだ。


 侵略ではなく『共闘』。

 これならば、帝国側も『負け』を認めずに撤退できる。

 

 メンツを保たせたまま、実質的な侵略を無効化したのだ。

 四大公爵たちも、体面を保ったまま兵を引ける。


 それに、オルトフォートへの被害も無いので復讐心などの遺恨なども無い。

 帝国の先兵はすでに疲弊し、武器もなく、食料もないので侵攻は不可能。

 そして何より、帝国の目的だったゲブリはすでに死んだ。


「ふむ。フォルテ、クロエよ。川の水位が戻ったらオルトフォートに入るぞ」


 俺は腕の中のクロエをようやく地面に降ろした。


「承知いたしました。……しかしレヴォス様、よろしいのですか? これだけの騒ぎ、帝国側にレヴォス様の顔が見られた可能性もありますが」


 俺はフォルテの言葉を、鼻で笑い飛ばした。


「ふん、何を言っている、フォルテよ。俺がお前に聞いたな? 『化け物に追いかけられている気持ちはどうだ?』と」


 俺はオルトフォートから国境に向かっている馬車を、必死に操っている御者席に座っているフォルテに質問した内容だ。


「……申し訳ございません。必死すぎて、答えた記憶すらございません」


「それでいいのだ。お前は、あの時『答える余裕なんてない』と言った。帝国の連中も同じだ。ゲブリに追われて恐ろしい面構えは一生忘れないだろうが、その影でこっそり走っていた俺たちの顔など覚えているはずがない。……さて、次はあのヒロン王子に会って、美味い寿司をもう一度食べに行くとしようではないか」



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