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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第14話 敢えて休む、という勇気


「あの……レヴォス様。私たちは、どちらに向かわれているのでしょうか……?」


 馬車の中で俺の正面に座っているポエテが、不安そうな顔をして絞り出すような声で尋ねてきた。

 なぜ不安そうなのかというと、荒れ果てた、道とも呼べないような場所を突き進んでいるからだ。

 

 (そういえば、目的地も言ってなかったなぁ……そりゃ不安だよねぇ。悪いことをしてしまった)

 

 俺は内心で苦笑しつつも、表面上は傲岸不遜な貴族の表情を崩さずに口を開いた。

 

「……この先にある、土地の名前を知っているか?」

 

「この先、ですか? 申し訳ございません、領内の地理には(うと)く……どうか、お許しください」


「そうか。では、『グリンベル』という名の土地は知っているか?」


「っ!? そ、それは……!」


 ポエテの瞳が、驚愕で見開かれた。

 その反応だけで十分だ。やはり、ポエテはグリンベルがセレスの故郷であることを知っているらしい。


(ふふ、セレスちゃんの元に連れてっちゃうもんね~! 喜んでくれるといいけど!)


「その様子なら説明は不要だな。俺たちが向かっていたのは、そのグリンベルだ」


 俺が言い放つと同時に、ポエテの身体がガタガタと目に見えて震えだした。

 彼女は絶望に打ちひしがれた様子で顔を伏せ、唇を噛み締めながら、溢れ出しそうな怒りを俺にぶつけてくる。

 

「私を……私を騙したのですね!? グリンベルは……魔物の毒によって呪われた死の土地のはず……! そんな場所に、セレスがいるはずがないではありませんか!」


 ポエテは身を乗り出し、喉を詰まらせながら叫んだ。

 俺はその剣幕を、ポリポリと頭を掻きながら受け流す。


 そして頭を掻いていた人差し指を、ゆっくりと馬車の窓の外に向けた。

 

 そこには賢者クロエの指揮のもと、大勢の冒険者たちが汗を流し、建物の基礎を組み上げ、街の形を作り上げようとしている活気ある光景が広がっていた。


 だがポエテは、その姿を良く分からないという顔つきで見ていた。


「あの方たちが……一体なんなのでしょうか……?」


「……この場所がすでに『グリンベル』だ。俺の領地だが、見ての通り今は何もないのだ。お前が言っていたように、今まで毒の沼地だったからな」


 俺は座席に深くふんぞり返り、尊大な態度を崩さずにポエテの質問に言い放つ。

 

「え……? ここが、グリンベル……? 毒の気配など、どこにも……」


「ああ。毒はもう完全に浄化した。今は復興の真っ最中だ。……ほら、あそこを見てみろ。泥だらけになって働いている奴がいるだろう?」


 俺が指さした先。

 

 そこには、(くわ)を力強く振りかぶり、一心不乱に土を耕している少女の姿があった。


 ポエテがガタ!っと窓にしがみつき、窓の縁を壊さんばかりの勢いでしがみつき凝視していた。


「っ……ああ……あ、ああ……っ!」


 その視線の先にいるのが誰か、ポエテは瞬時に理解したのだろう。

 喜びと安堵が混ざり合った、言葉にならない呻きが彼女の口から漏れる。


 ポエテは馬車が完全に止まるのも待たず、乱暴に扉を開き外へ飛び出して行ってしまった。


 御者席のフォルテが機転を利かせ、即座に馬を止める。

 

「はぁ……まったく。教会の人間というのは、礼儀というものを知らんようだな」


 俺は窓からその光景を眺めた。

 

 畑に駆けていくポエテに気づいたセレスが、(くわ)を放り出して駆け寄る。

 二人は土ぼこりが舞う中で、涙を流しながら、互いの存在を確かめるように強く抱き合っていた。


 (たまたまとはいえ、あの教会でポエテさんを見つけ出せて良かったなぁ。セレスちゃんがあんなに喜んでいるなら、何よりだ。……ま、本来の目的だった『聖剣入手報告』は台無しになったけど、そんなのは後回しでいいか!)

 


 ――――――


 

「皆、よく働いているようだな」


 俺が声をかけると、現場にいた冒険者たちが一斉に姿勢を正した。


「「「「 はい! 」」」」


 軍隊のような返事が返ってくる。

 

 俺の目から見れば、グリンベルの復興速度はまだまだ遅い。

 皆が手を抜いているわけではない。

 むしろ皆、身を粉にして倒れ込む寸前まで働いている。


(だけど、インフラを一から作るには時間が足りなすぎるんだよなぁ。まずは雨風を凌げる住居を大量に建設しないと。そのためには、大量の木材が必要か……)


 俺は一番近くの木材の資源供給源――『迷いの森』に目を向けた。

 そして、そこに数百年もの間、聖剣を護っていた今は少女の姿をした毛玉……もとい、大精霊ミサミサを呼び寄せる。

 

「……おい、毛玉。木材調達のために森の木を切り倒す。あの厄介な迷路は、まだ健在なのか?」


「毛玉ではないと言ってるじゃろうが! ……あの森の迷路の結界は、我がもう解いたぞ。もう、あの森に聖剣は無いんじゃからな」


「ほう、それは好都合だ。これから住居を建てるのに、木材が山ほど必要なのだからな」


「住居か? 雨を凌ぐ場所が欲しいのなら、森の奥に古くからある建物があったはずじゃぞ」


 ……何? 迷いの森に建物だと?

 そんなもの、ゲームのシナリオには一切登場しなかったぞ。

 

 (いや、全ルートを網羅した俺でも知らないということは、隠しスポットなのかな? あるいは単に設定外の産物か。だけど、利用できるなら利用させてもらうまでだ!)

 

 俺は即座に決断を下した。


「毛玉。その建物とやらに案内しろ。……クロエ! 貴様も付いてこい! 今から森に入るぞ」


「ひゃいっ!?」


 近くで、魔石で光る街灯の準備をしていたクロエが、変な声を上げて飛び上がった。


 俺と賢者クロエ、そして大精霊とともに、再び『迷いの森』へと足を踏み入れた。



 ――――――

 


「ここが、『迷いの森』ですか? ずいぶんと綺麗な森なんですね」


 クロエが感嘆の声を漏らすのも無理はない。

 以前に訪れた時の鬱蒼(うっそう)とした不気味な雰囲気は消え去り、木漏れ日が柔らかく差し込む幻想的な美しさに満ちていた。

 

「ああ、ここが『迷いの森』だ。以前とは異なる雰囲気だが……人を寄せ付けぬような環境も、毛玉が作っていたのか?」


「うむ。美しい森には(うるさ)い人間が寄ってくるからのう。寄り付かせぬように細工しておったのじゃ」


「ふん、なるほどな」


 (このモフモフな大精霊さん。森をダンジョンにしたり、森の雰囲気を変えたり……実は凄い方なのでは……?)


 そして小鳥のさえずりや森の幻想的な雰囲気を楽しみながら、しばらく進むと大精霊が立ち止まった。


「あれじゃ。我は数百年この森にいるが、あの建物はなぜか朽ち果てん。たまに雨宿りに使っておったぞ」


「これは……」

「で、でっかぁ……!?」

 

 森の深部に忽然と現れたのは、住居などではなかった。


 それは、白銀の光沢を放つ巨大な『塔』だった。

 おおよそ高さは5階建てビルに相当し、広さは一軒家4つ分をくらいだろうか。

 

 背の高い木々に隠れていたので、遠くからは視認できなかった。


 俺は塔の壁に歩み寄り、軽く拳で叩いてみる。

 ――カン、カン。

 硬質な金属音が森に響く。


「……金属製か? 数百年の風雨に晒されて錆び一つないとは。鉄や鋼の類ではないな」


「材質までは我にもわからん。だが、中も綺麗じゃぞ。入り口はこっちじゃ」


 俺たちは大精霊に誘われるまま、塔の内部へと足を踏み入れた。

 中は驚くほど機能的で、がらんどうではあるが、壁や床に傷一つない。

 

「どうじゃ!」

「すごい! 広いですね!」

「ふむ、中も特に朽ちているわけではないのだな。一度、中を調べるぞ」


 塔の1階は巨大な広間と調理場。

 2階は会議室のような広い空間が幾つか。

 3階から5階は、多数の個室が並んでいる。

 おまけに、屋上からは森が一望できる絶景まで付いていた。


「これであれば、問題なさそうだな」


「問題ですか? レヴォス様はここで何かなさるおつもりですか?」


「ああ、一旦ここを拠点にしつつ、街を作る。近くに川もあるし、森から食糧を調達もできるからな」


「なるほど! いいですね!」


 俺は即座に全員を呼び寄せ、塔の前の広場に集めた。

 疲れ果て、泥と汗にまみれた皆が、不安と期待が入り混じった顔で俺を見上げている。


「皆に告げる! 本日より、この塔を我らの拠点とする! ここで英気を養い、街の完成に邁進せよ!」


 ドヨドヨとどよめきが広がる。


 俺はさらに声を張り上げ、最も重要な『命令』を口にした。


「今日はここで腹一杯食事を摂れ。そして――明日は全員休みだ。休息を取れ!」


 一瞬、静寂が流れた。


 最初に反応したのは執事のフォルテだった。

 フォルテは困惑したように眉を寄せ、一歩前へ出る。


「……それは、各自の判断で休みを取れ、ということでしょうか?」


「違う。これは強制命令だ。明日は、いかなる理由があろうとも働くことを禁ずる!」


「しかし、私はまだ動けます!」


 フォルテだけでなく、他の者たちも一様に同じ表情を見せる。


 ……やれやれ、この世界の人間は、ブラック企業の社畜並みに働きすぎだ。

 例え、働かないといけない雰囲気になったとしても休んで貰わなくば、長きを戦えぬというのに。


(前世の俺も、正月とか連休明けは死ぬほど会社や学校に行きたくなかったもんなぁ。だからやっぱり、ここはみんなに休んでもらおうっと!)


「いいか、よく聞け! 周りが働いているからといって、自分も働かないといけないと思っては駄目だ! 休みたい時に休めぬ者に、良い仕事などできん。己の心に正直になり、思い切って休む勇気を持つことこそが、最も大事な事だ!」


 (……と言ったものの、やはり皆はポカンとしてるんだけど……この世界の人は働き過ぎだよ……いや、そんなことないか。前世の時もみんなずっと働いてたもんなぁ。学校に会社、本当にみんな、忙しすぎるんだよなぁ)


「とにかく、明日は休みだ! 調理などの最小限の必要な業務は目を瞑るが、それ以外の労働は禁止だ! 分かったな!」


「「「「 は、はい! ありがとうございます! 」」」」


 皆の理解が追いついたのか、地を揺らすような歓声が上がった。

 そうして、ようやく勝ち取った『休み』。


 考えてみれば、俺自身もレヴォスに転生してからというもの、片時も休めたことがなかった。

 俺も、この休みを有効に使ってみるか。


 ……ん? いや、待てよ……

 

 (この世界にはゲームもスマホもマンガも無い……俺はいったい何をすればいいんだ……!?)

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