第130話 爆破に爆破を
「約束など、知らんな」
俺はただ、冷たく言い放つ。
目の前の男、ガゲルドが絶望に顔を歪めるのを見下ろす。
「なっ……!?」
ガゲルドは言葉を失い、ただ呆然としている。
俺はこのカジノ都市ガンディーノを賭けに勝ち、手に入れた。
だが、そんな都市の権利など、今の俺にとっては瑣末なものに過ぎない。
「おい、ガゲルド。すでに呪具による契約は完了している。貴様が俺に寄越すべきものは、この都市がどうやって作られたのか、その裏側にある真実を吐け」
「そ、それは……」
ガゲルドは蛇に睨まれた蛙のように、ガタガタと膝を震わせていた。
周囲の観客たちは、今しがた終わった世紀の一戦の余韻に浸り、狂喜乱舞している。
だが、この壇上の空気だけは、凍り付いたように重く冷たい。
俺が知りたいのは、エルヴァンディア帝国下で不穏な動きを見せる、黒幕の正体だ。
「どうした、ガゲルド。口を割らねば、呪具の契約によって貴様の魂は焼き切れるぞ」
「ぐっ……! わ、わかりました……」
観念したガゲルドの肩から、力が抜け落ちる。
覚悟を決めたのか、震える瞳で俺の顔を見つめ返してきた。
「それは――」
ガゲルドが真実を語ろうとした、その瞬間だった。
視界が真っ白に染まる。
カジノフロアの至る所から、刺すような眩い光が溢れ出した。
咄嗟に光の発生源を見れば、それは魔力探知クリスタルだった。
クリスタルの異常な反応値。
――これは魔力による攻撃だ。
「伏せろ!」
ドオオォォォォン!
鼓膜を突き破るような爆音と共に、大地が激しくのび上がった。
「うわあああぁぁ!!」
「なんだ!? 何が起きた!」
爆発の衝撃波がフロアを駆け抜け、炎が渦を巻いて舞い上がる。
視界は黒煙に覆われ、客たちの悲鳴と罵声が混沌となって響き渡った。
俺は火の粉を払いながら立ち上がり、出口を求めて周囲を睨みつける。
「フォルテ、ルナリア、クロエ! 客を避難させろ!」
「「「 はい! 」」」
フォルテたちに指示を飛ばしつつ、俺は煙の中に目を凝らしガゲルドの姿を探した。
……死んでいる。
いや、殺されたというべきか。
口封じの暗殺だ。
「ちっ……!」
この爆発、おそらく最初からカジノに仕掛けられて魔導爆薬だ。
設置した魔導爆薬の場所さえ把握していれば、魔力を送るだけで爆発を誘導させることができる。
「あ、あのレヴォスさん……」
ふいに、ルーシィの震える声が聞こえた。
見れば、俺の腕の中にルーシィがしがみついている。
そうだった。
爆発を予期した瞬間、すぐにルーシィを抱きかかえ爆炎から守ったのだった。
「ああ。大丈夫か?」
「は、はい……おかげさまで……」
ルーシィは顔を真っ赤にし、俺の胸元で落ち着かなげに身を縮めている。
「ルーシィ、ひとまず避難しろ。一人で行けるか?」
「え、えと……こ、こわくて一人では行けないかもです……」
たしかに、この爆発を仕掛けた犯人が周りにいるはずだ。
ルーシィもまた、標的になるかもしれん。
であれば、犯人を先に仕留めた方がいいか。
「分かった。ルーシィ、つかまってろ!」
「え!? あ、はい!」
ルーシィを抱きかかえ、炎の中、出口へと駆け抜ける。
だが、フロアには犯人の気配は微塵も感じられない。
ならば、索敵範囲を拡大するまでだ。
州ちゅし、このカジノの建物全体の気配を探るが……いない。
察知できる気配が薄れるが、さらに範囲を広げカジノ都市の全域を探る。
――居た。異質な気配が一つ。
そいつはすでに逃走を開始し、都市の橋を駆け抜けている。
「遠いな……だが逃がさんぞ」
逃げ切れると思っているのか。
ルーシィを抱えたまま俺はバルコニーへ躍り出ると、六階の高さから迷わず飛び降りた。
「ひ、ひえええええええええ!」
ルーシィが叫ぶ。
ドン!
重い着地音と共に、石畳にヒビが入る。
俺は衝撃を膝で殺し、すぐにルーシィの無事を確認した。
「ひとまず、ここなら火の手は回らん。ルーシィ、立てるか」
「むむむ無理ですぅ……!」
六階から飛び降りた事で、ルーシィの腰が抜けてしまったようだ。
だが、犯人は刻一刻と遠ざかっている。
ここで逃がせば、次はないだろう。
「ちっ、逃がすか!」
橋には犯人が一人。
ならば。
橋に対して、俺は片手を向けた。
俺がこのカジノ都市に来る際、念のために配置しておいたクロエの魔導爆薬。
それを使わせてもらおう。
ドォォォン!!
まずは先制の一撃。
さらに、ドンドンドンドンドンドン! と連鎖的に爆炎が吹き上がる。
橋の中央で足止めを食らった犯人が、前後を塞がれて狼狽しているのが見えた。
逃げ場など、最初からどこにも存在しないのだ。
やがて、轟音と共に橋が崩落し、湖へと飲み込まれていった。
あの爆炎と衝撃の中、生きてはいまい。
背後を振り返れば、避難してきた客たちが呆然と立ち尽くしている。
燃え上がるカジノを仰ぎ、全てを失った絶望に打ちひしがれているのだろう。
カジノ棟はもう、再起不能なまでの惨状だ。
その後、火事は消火された。
しかし、カジノ全て、ほぼ再起不能な状態だった。
しばらくして、フォルテが歩み寄ってきた。
「レヴォス様、カジノ棟は全焼。さらには唯一の橋も失われましたが、いかがいたしましょうか」
「案ずるな。橋など、俺がいくらでも作ってやる」
「橋を、ですか……?」
俺は崩れた橋の縁に立ち、地面へと両手を当てた。
地脈へ魔力へ送り、植物の生命力へと変換する。
「植物たちよ、俺に従え」
崩れた橋の下、湖の底から巨大な根が猛然と現れる。
水しぶきを上げながら急成長する植物たち。
やがて、崩落した石橋の代わりに木の根の橋が完成した。
かつての人工物よりも遥かに雄大で、美しい植物の橋だ。
「これで客たちを帰せるだろう」
「……お美事にございます。レヴォス様」
フォルテが深く頭を垂れる。
さあ、余興は終わりだ。
客を帰した後、このカジノのに残っている『宝』を回収させてもらうとしよう。




