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ダンテミリオ姉妹の禁忌魔法〈エクリプスヴォイド〉  作者: 筆々
1章 可哀想な姉と天才だった妹
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その王女と誰よりも守りたい者

「アリア!」



「むぇ――ぶぇ!」



 アリアとアリスが魔石の森の入り口まで脚を進めている途中、飛び出してきたノアの双丘にアリアが押しつぶされた。



「もうっもう! 突然いなくなったから心配したのよ! どこか怪我はない? 痛いところは? 私がいなくて寂しくなかった? 寂しかったわよね、もう離さないから王宮へ行って父様から王位を奪い取りましょう!」



(お姉ちゃんを巻き込んだ王家乗っ取り計画とか止めれぇ)



 アリスはノアの頭をはたき、アリアの後ろに回って王族から守るようにキュッと抱き着いた。



「またどこかから攻撃が!」



「お前は何言ってんだ――というか、本当にいやがったな」



 疲れたため息をついたリュードウィスが引き気味の顔でノアに目をやっていた。

 殿下護衛という大任を背負ったばかりに、負わなくてもいい気苦労を背負う男、リュードウィス=パテンロイド。



「アホ殿下がこっちからアリアの匂いがするとか言い出した時は、ついに頭が。と、国の行く末を見限ったものだが、お前に関してだけはノア様の言葉を信じてもいいかもな」



「リュウくんお疲れぇ――」



 人懐っこい顔を見せたアリアだったが、リュードウィスがじっと彼女の顔を見つめ、息を吐いて一度肩をすくませると、そのまま手を伸ばしてアリアの頭を撫でた。



「……あんま無茶するな」



「ん――」



「おい……」



(迂闊な。リュード、な~む)



 アリスがリュードウィスに手を合わせた時には、ノアの拳が彼の顎をとらえていた。

 膝からがくりと崩れ落ちた彼だったが、寸でのところで意識を保ち、膝立ちのままノアを睨みつけている。

 この国の上下関係はすでに崩壊している。



「まあこれはこのくらいで不問としましょう」



「……俺は納得してねえんだが」



「ところでアリア、奥に何かあった?」



「……ん~」



 アリアはそっと自身の人差し指をもう片方の手で握り、はにかんで首を横に振った。



「ん~ん、なにもなかったよ」



「……そう。なら良かったわ。あなたに何かあったらアリスにも顔向けできなくなるもの。過保護なのは許して頂戴ね」



「ん、でも優先されるべきはノアでしょ~。あたしのことは気にしなくてもいいから」



「はいはい、それと――」



 普段通りの微笑みでアリアは脚を動かし、ノアとリュードウィスを通り過ぎて森から出ようと進んだ。そんな彼女の背に、ノアが問いかけた。



「アリア、どうしてまだ学園にいようと思ったの? あそこは辛い場所でしょ」



「――」



 振り返ったアリアは、再度手を組みなおし、指を握ったまま学園で何度も浮かべていた(・・・・・・・・・)笑顔で、ノアに答えた。



「ノアたちに会いたかったからだよ」



「……うん、私もよ」



 アリアはそのまま歩みを進めてしまうのだが、ノアだけはその場から動かず、顔を伏せていた。

 そんな彼女に、リュードウィスが首を傾げる。



「おい、アリア行っちまうぞ」



「……気づいた?」



「は?」



「……奥に何がいたのやら。いえ、それだけじゃないわね」



「何の話だ?」



「あの子は噓を吐くとわかりやすいから」



「嘘って、アリアがか?」



「リュード、アリスはどうやって死んだのだったかしら?」



「どうやってって――魔法実験の事故だろ。あんまり思い出させるな」



「……その時アリアが一番近くにいたのよね?」



「だから――」



「リュード」



「……そうだよ。なんか随分驚いた顔をしてたんだよなあいつ。でも魔法使いに事故はつきものだし、いくら優秀なアリスでも――」



 その瞬間、森が揺れた。

 殺気、殺意、怒気、それら感情のエネルギーがノアを中心に渦を巻き、木々を揺らして風すらも勢いを強めた。



「あの子が気づかないわけない(・・・・・・・・・)のよ」



「な、なにを――」



「こと魔法に関して言うのなら、あの子はそれを見逃さない(・・・・・)。天才の姉だということを、世間はもっと理解するべきなのよ」



「……」



「リュード、私の持つ権限をすべて集めなさい」



「わかった。でもなんで」



 感情の渦がさらに激しく回る。鋭く切り刻まれそうなその戦闘圧の刃に、遠くから潜んでいたグリーンフッドすら歯を鳴らして怯える。

 その発生源であるノアが奥歯をかみしめて鳴らし、激しく燃える瞳を携えて正面を睨みつける。



「アリスを殺したやつをあぶり出し、私の目の前に生きたまま連れてきなさい」



「――っまさか、あいつは」



「これ以上アリアを悲しませないわ。あの子が無理をするというのなら、あの子にとっての障害があるというのなら、私が何もかも殺してみせるわ」



 頷くリュードウィスに満足したように、ノアはその一歩を力強く踏み込んだ。

 ノア=ルヴィエント、学園の小動物を庇護する者、誰よりも愛する者、その領域に踏み込んだものを等しく切り刻む者――。

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