その姉は依頼についていく
「うう、授業が……」
「どうせ出てもまともに受けないでしょうが」
(さもありなん)
「ていうかなんで俺まで」
メイガル学園には、冒険者と呼ばれる金で依頼を解決する者たちを斡旋する組合、冒険者ギルドが併設されている。
これは学園側が生徒に魔法の研究のために必要なものを冒険者に依頼するためと生徒自身が依頼を受け、素材や研究費を自分で稼ぐための処置で、講習や試験を受けて合格した者であれば誰でも利用できるようになっている。
そんな冒険者ギルドメイガル学園支店でノアが依頼を受け、アリアとリュードウィスを連れて学園のある街――ルヴィエントの街の1つ、ゼイアルガス。その街を出て街道を馬車で駆け、すぐにある森林。
馬車から降りた一行はその魔石の森林と呼ばれる森の入り口でたむろしていた。
「依頼は討伐よ。ちょうど魔石が欲しかったからみんな手伝ってね」
「……ノアは魔石馬鹿みたいに消費するもんね」
(というかノアちゃんは魔法使いなのに前衛向きすぎるんだよ)
ノアが受けた依頼はこの魔石の森に生息しているグリーンフッドと呼ばれる小型の2足歩行の魔物の討伐。
あまり強い魔物ではないが、武器を振るう程度の知能はあり、囲まれれば初級の冒険者でも命を落とすこともある。
「早速お出ましね」
「――? この匂い」
(ノアちゃん、魔物寄せを撒いたな)
「このクソ殿下! 入り口で魔物寄せを撒く馬鹿がどこにいる!」
「ここよ!」
魔石の森は街道と繋がっている森で、ゼイアルガスの住民であればこの森を通らずとももっと近い道があるためにこの森を通る必要はないのだが、メイガル学園の生徒であれば誰もが来る森であるために道は整備されており、グリーンフッドも人の歩く道にまでわざわざ出てくることはない。
しかしノアが使った魔物寄せのアイテムは中々に強力で、魔物に限定されるが狂化を付与するもので、普段は道まで出てこないグリーンフッドが怒り狂って飛び出してきた。
普通の冒険者であるのなら即首であるが、この女は王族である。
飛び出してきたグリーンフッドに好戦的な笑みを見せるノアだったが、その彼女を押しのけてリュードウィスが前線に躍り出た。
「護衛より前にでんなボケ! 『――』影なる道を我が一槍で駆けろ、駆けろ! 『悪蛇』」
影から槍を引っ張り出したリュードウィスが槍を虚空へと突き刺すと同時にその個所に魔法陣が現れ、穂先が見えなくなった。
しかしその穂先はグリーンフッドの脳天を打ち抜くと同時に姿を現し、そのまままた姿を消し、別の魔物の正面に現れを繰り返し、3体ほどの魔物の頭を打ち抜いた。
(相変わらずリュードは空間系を多用するなぁ)
「でも強いよ。穂先だけのショートジャンプ、あれ、普通に戦ったら躱すの大変だもん。まあでも、前線で強いのは――」
「よくやったわ! さすが私の護衛、しっかりと私の獲物を残しているのもさらに良いわね。あんたの時間稼ぎのおかげで、私も随分と溜められたわ」
「時間を稼いだわけじゃねぇ!」
「なら実力不足よ、もっと精進なさい――『――――』『――』邪魔邪魔邪魔、我が覇道に一切の曇りなし。我が前に立つすべてを切り刻め『悪童剣技』」
途端、剣を持つノアの腕が高速で震えている。剣は残像を伴って上下し、金属が舞い上がった砂煙に当たり火花を上げている。
飛び出したノアが剣を振り下ろした瞬間、グリーンフッドがまるで鏡を割ったかのようにバラバラに解体された。
王族が邪悪さを伴った顔つきでさらに飛び出していき、その姿はまさに修羅だった。
(ノアちゃんが使っている呪文って王族呪文だっけ?)
「うん、実際にそんな括りはないんだけれど、王族が秘匿している呪文の1つだね。特殊系統で、確かノアが使うのは蓄積する魔法だったかな」
(蓄積?)
「速さの蓄積。速さを溜めて攻撃に付与して、さらに速さを溜めるから魔法の連続使用が前提で、魔力不足をノアは無理やり魔石で補っている」
(……それ、お姉ちゃんが知っているってノアちゃんは知っているの?)
「さあ、どうだったかなぁ」
(この姉は)
「それよりも、あたし的にはなんでグリーンフッドがこんな入り口にまで出てきているかの方が謎なんだけどね」
(それはノアちゃんが――)
「違うよアリス、あたしが言っているのは本来なら臆病で姑息なグリーフッドが、人が入ってくる入り口にいるはずないのに、高々魔物寄せを使った程度でこんなに集まっている異常のことを言っているんだよ」
(……僕、学園で天才って呼ばれるの、本当に嫌だったんだよねぇ)
「あら、お姉ちゃんは鼻が高かったよ」
アリスが膨れており、アリアが苦笑いで彼女の頭を撫でる。
(お姉ちゃんからは触れるんだよなぁ)
「ちょっとしたコツがいるのよ。あとで教えてあげるね」
アリアとアリスは高笑いを浮かべながらグリーンフッドを刻むノアと頭を抱えながらも数を減らしているリュードウィスを横目に、落ち着いた空気で、まるでピクニックに来た空気感で伸びをしているのだった。