その姉とこれが我が国第一王女
「失礼しましたぁ」
(ました~)
「私が来たというだけで文化遺産的な価値になったわよ、感謝なさい」
「ルヴィエント、あなたにはもう少し話をしなくてはならない――」
ノアがぴしゃりと扉を閉めてアンメライアの言葉を遮ったのち、そのままアリアの背を押して校舎を歩み始める。
これが最も国王に近い王族の姿である。
「ノア、あんまりセンセに迷惑かけちゃだめだよぅ」
「いやよっ!」
(なんて力強い返事だ。お姉ちゃんの教育に悪いよ)
「アリスに育てられた記憶はないよぅ」
アリアは背中を押されながらアリスの言葉に小声を返し、ため息をつくと辺りを見渡す。
相変わらず周囲の視線は同情的なものであるのだが、周りの人々は背後で騒ぐノアを目に入れた途端、さっと目を逸らし、先ほどとは意味合いの違う同情的な視線に変わり、普段通りであるからか、アリアは安堵したようにうなずいた。
「ノアが一緒だとみんな悲しそうじゃなくなるのよねぇ」
(……あの子今から食べられるんだ的な可哀想が混じっているけどね)
アリアが微笑むが、彼女は彼女のつむじを見ながら鼻息を荒げている王族の姿をその目に映していない。
ノア=ルヴィエント、文武両道、誰もが羨むスタイルで、その深紅の髪色は何よりも目立つ王族の証。腰まで伸びた長いその髪は誰も彼もの目を奪うほど美しい。
しかし口を開けば残念王族、小動物を溺愛する暴君、単純に口が汚い、こんな奴の治める国に住むのか俺ら。などなど言われており、基本的にはダンテミリオ姉妹以外に興味を持っていない。
そんなノアが興奮しきった顔を潜め、そっとアリアの頭を撫でた。
「ノア?」
「……冒険者になりたいなんて聞いてないけど?」
「え? だってそれしかないもん。あたし別に魔法使いとして優れているわけじゃないし、どこかに伝があるわけでもないから結果として冒険者になるしかないんだよぅ」
(実家に帰るわけにもいかないからねぇ)
「うちに来ればいいでしょ」
「え、ヤダ――」
「どおじでぇ! 私もうお父様に生涯を共にする相手を見つけたって啖呵切っちゃったのよぅ!」
(それ、国王陛下が直々に僕たちのところにやってきて、うちのバカ娘がすまんって謝罪しに来た奴だよね?)
「あんまりお父さんに迷惑かけちゃだめだよぅ。あたしは冒険者、ノアは女王陛下、それでいいじゃない」
「……るわ」
「へ?」
ノアがゆら~っとした動きでアリアの両肩をつかみ、伏せていた顔を上げると同時に、その瞳の中に星を住まわせたかのようにキラキラした目を以て口を開いた。
「私もアリアと一緒に冒険者になるわ!」
「いやだめでしょ!」
「大丈夫心配しないで、今から母様に種を仕込むよう父様に進言するから跡継ぎには困らないわ!」
「何言ってるの!」
(陛下ごめんなさい、僕たちではお宅の1人娘を止められそうにありません)
「そうと決まればさっそく依頼を受注しに行くわよ。私とアリアの相性をみんなに見せつけなきゃね」
「まだ学校終わってないよぅ!」
「いいのいいの大丈夫大丈夫――」
「殿下ぁ! やっと見つけた! おいお前いい加減に王族としての自覚を――」
そこに現れたのは先ほどノアに顎を打ち抜かれた男子生徒であり、息を切らしてノアに近づいてきたのだが、その彼に対し殿下はふっと笑みを見せた。
「リュードウィス、私決めたわ。アリアと一緒に冒険者になる」
「なに寝言いってんだ! おいアリア、この馬鹿どうにかしろ!」
「……」
アリアはそっと目を逸らした。
「面倒くさがってんじゃねぇ! お前が王宮に入るって言えば一発で戻ってくんだよ!」
「……リュウくん、あたしには王宮はちょっと荷が重いよぅ」
「この馬鹿をコントロールできるだけ優秀なんだよ!」
「さっきから聞いていれば護衛のくせに私のことをバカバカ言いやがって」
「馬鹿以外の何だって言うんだ! とにかくお前は――」
ノアはそっと彼――ノアの護衛として学園に通うリュードウィス=パテンロイドに手紙を渡した。
「そこには母様が興奮する物の一覧をかいておいたから、それを使って種を仕込むように父様に言っておいて」
「馬鹿野郎!」
「さっアリア、今から念願のハネムーンよ、一緒にどこまでもいきましょう!」
「た、たす、リュウくん、アリスぅ――」