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ダンテミリオ姉妹の禁忌魔法〈エクリプスヴォイド〉  作者: 筆々
5章 決着をつける姉と懇願する妹
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その姉は星のなりそこないと決着をつける

「……圧倒的すぎんだろ。あいつあんなに強いのか? というかスキルって――」



「お姉ちゃんがスキルを使えることは僕も最近知ったんだけれど、魔法使いも別にスキルが使えないわけじゃないんだって」



「これほどの力を持っていながら、よくもまあ学園のウサギに落ち着いていたな」



「空気感が弱者のそれでしたからね。しかしそれすらもあの子の作り出した幻想でしたか」



「ん、目つきが、猛獣のそれ」



「ウサギの皮を被った怪物よね」



 シェリルの前に立ちふさがるそのウサギ――すでに発する空気感が熟練の戦士を彷彿させるアリア=ダンテミリオに、各々が呆然とした目を浮かべていた。

 しかしアリスが首を横に振り、そうじゃないと声を上げた。



「……いや、まだお姉ちゃん魔法使ってないよ。お姉ちゃんの本職は魔法使いだからね」



 全員が息をのみ、視線をそのままアリアとシェリルへと戻した。

 そこではシェリルがいくつもの魔法をアリアに放っている光景だったが、そのすべてをアリアが涼しい顔をして躱しているところであり、誰もが顔を引きつらせていた。



「クソ、クソっ! なんで当たらない」



「品位まで捨て去りましたか? あたし的にはああして大人しく令嬢然としていた時よりも好きだけれどね」



「言ってろ! 『――』『――』『――』吹きすさべ暴風、我らにもたらせ解放の一陣『衝撃は風を伴って(フィステリアブレア)』」



 風の衝撃がアリアへと次々と放たれ、あちこちの床に穴をあけるのだが、シェリルは口元を歪め、その指揮棒をノアたちの方に向けた。



「その小さな体に、随分と大きなお荷物を抱えているよね! うちにとってそれはただの隙に――」



 シェリルが顔を歪めると同時に、ノアたちの手元から魔法陣が突然現れた。

 それは先ほど、品評会で起きた現象と同じであり、ノアたちが驚き口を開いたのだが、アリアは特に焦った素振りも見せずにおもむろに魔石を取り出して宙へと放り投げた。

 魔石はそのまま砕け散ると小さな音を鳴らした。



「対策済みだって言ったでしょ」



「――」



 歯を噛みしめるシェリルに、アリアは一息で間合いを詰め、唇に添えていた指先を離して彼女の胸にその指を添えた。



「『――』『―――』その魂を天秤にかけ、悪しきものへと裁きの鉄槌――『罪による雷の裁き(グリッドサイト)』」



「あぁああぁっ!」



 奔る稲光に、胸元を押さえてグルグルとその場でのたうち回るシェリルを、アリアが冷めた目で見下ろしていた。



 そんなアリアに、冷や汗を流して眺めているリュードウィスとアンメライア、そしてアッシュランス、呆けてみているミアベリル、ガタガタと体を震わせるアリスと体を抱きしめて締まりのない顔を赤くしているノア。



「あっあっ、あんな冷たい目も出来るのねアリアったら――興奮してきた!」



「……ノア様」



 頭を抱えるリュードウィスとアンメライアだったが、そんな3人を横目に映していたアッシュランスがアリスの背にそっと手を添えた。



「君は君で怖がりすぎでは?」



「……ヤバいヤバい、お姉ちゃんがガチギレしてる」



「まあ確かに怒ってるけどな、うんな怖がらなくても――」



「りゅーたんはお姉ちゃんのあの程度の魔法しか見ていないからそんなこと言えるんだよ!」



「りゅーたん言うな。あの程度ってお前、あれでも結構な威力だぜ」



 のたうち回っていたシェリルが体を起こし、痛みで涙を流しながら歯を食いしばってアリアを睨みつける。



「ふざけるな、ふざけんな――ウチをそこいらの木っ端魔法使いと同じにするな! うちは、ウチは――シェリル=ノーブルラントだぞ! 『――』『――』『――――』『――――』『――』『――――』」



 呪文を唱えるシェリルにアッシュランスが顔を歪めた。

 それは上級魔法使いでも一握りしか唱えられない6節魔法、シェリルの父親であるグイードラッシュですら5節が限界であったが、その娘である彼女にはそれを超える魔法が使用できた。



「6節、シェリル=ノーブルラントめ、それだけの力を持っていながらなぜ違えた」



「……それだけの魔法の才能があるのなら、こんなことをしなくても高みに至れたはずなのに」



「王宮での地位も捨てて、馬鹿だよおめぇは」



「大人しくしていれば、あんた程度なら飼ってあげたのにね」



 教員2人の憐れむような視線、本来ならこの国を守り、誰もが羨むような力を手放したことを心底残念がる王女といつかの同僚、そして首を傾げるワン子と青い顔をして首を横に振っている妹。



「我らこそ世界を破壊する権利を得た。この風こそがあらゆる破壊をもたらし、すべてを無に帰す原初の嵐――」



 詠唱を唱えたシェリルがすかさず魔石を2つ割り、魔石からあふれた魔法を繋ぐようにさらに呪文を唱えた。



「――」



 シェリルのその行動に、一瞬だがアリアが顔を上げた。



「ウチは高みにいる! 星すらもこの手に掴む! 『――』『繋がり紡ぐ世界の産声(スフィスペラペリア)』――その風は爆炎を纏いし灰燼へと帰す終焉の焔へと姿を変えろ!『世界を歩む破壊の灰燼アグニードオルドレイグ』」



「馬鹿な、あれは完全に魔法を結合(・・)させている。シェリル=ノーブルラントの魔法に、魔石の魔法が完全に――これでは、6節以上の魔法と同義」



 慄くアッシュランスにニヤリと笑みを浮かべるシェリルだったが、そんな彼女にアリスが叫んだ。



「だ、ダメだってノーブルラントちゃん! そんなに、そんなに煽ったら――」



 シェリルが放った風が、嵐が、衝撃が――彼女の背後から吹き荒れ、魔石から発生した魔法がその風に火をつけた。

 破壊の暴風は爆炎を伴って焔になり、炎が辺り一面を灰へと変えていく。

 最早炎の波――シャリルの放った魔法は大津波となってアリアやノアたちへと迫る。



 そんな状況で、アリスは冷や汗を流してアリアに目をやっていた。



「これで終われ! ウチを馬鹿にした罪は――」



「シェリルちゃんお姉ちゃんに謝って! 今なら間に合うから――」



「『――』『――』『――』『――』『――――』『魂を頂きに禁忌を唄うルナルヴィットルビラエルド』『――』『――――』さあ唄え、全てを終焉へと誘う絶対零度。その魂に安寧を――『人にあらず魂を凍らすブリュンヒルデグリーシア』」



「あっ終わった」



 アリスの呟きが掻き消えるようにその凍てつくほどの風が世界に奔り、アリアの投げキスと同時にシェリルの引きつれた焔が音もなく凍り付いた。



「は――?」



 確かに炎が揺らいでいる。しかしその焔は延々と溶けることのない氷の檻に閉じ込められている。

 振り返ったシェリルが氷に捕らわれた炎を見て顔を青ざめた。

 やっと理解したのだろう、やっとその先の化け物を視界にとらえたのだろう。どこまでも先にいるアリア=ダンテミリオという怪物を障害物ではなく、超えるべき壁でもなく、高みから見下ろすその両眼を見つめてしまったのだろう。

 シェリル=ノーブルラントは体を震わせた。



「あ、あ……」



「……今普通に8節唱えなかった?」



「お姉ちゃんの最高記録は15節です。天変地異が起きました」



「お前それ、2、3年前に起きた異常気象のこと言ってねえよな?」



「それです」



 顔を逸らすアリスの話を聞いていたのか、魔法陣を消してしまったシェリルが尻もちをついてそのまま後退していく。

 そんな彼女にアリアはそっと近づいていく。



「くる、来るな! なによ、なんなのよあんたは! うちは、ウチは――」



「『――』『――』『魂の安寧、月に祈りラビルナルビエルラヴィ』『魂を頂きに禁忌を唄うルナルヴィットルビラエルド』『――――』『――――』『――』『――――』」



「わぁ! お姉ちゃん情けと容赦と思いやりを覚えて!」



「その魂に火などなく、その魂に安寧などなし。絶対零度の棺に眠れ『魂を縛る久遠の地獄ベーゼオブコキュートス』」



 アリアは尻もちをついて後退するシェリルに顔を合わせるように屈み、そして彼女の頬に口づけを――。



「――っ!」



 アリアは立ち上がると、シェリルに背を向けて歩み出した。



「アリアのちゅう良いなぁ」



「そんな生易しいものでもないんだよねぇあれ」



 アリアがアリスたちの下へ脚を進めているとその背でシェリルが立ち上がり、ガタガタと歯を鳴らしながらそのタクトをアリアへと向けた。

 しかし様子がおかしい。

 寒くもないのに歯を鳴らし、体には明らかに異常はないのに体を片腕で抱きしめていた。それはまるで寒さを抑えるように、温もりを求めるように、荒い呼吸を上げてシェリルが魔法陣を展開した。



 したが――。



「なん、で……」



「魔法陣は魂と同義、だからその魂を凍らせちゃえば当然魔法陣も凍る」



 シェリルの展開した魔法陣がコトと音を立ててその場に落ち、まったく機能していなかった。



「――」



 魔法陣が機能しないことに、シェリルが歯を噛みしめそしてアリアへと向かって飛び出した。

 魔法も使えない魔法使いとはあまりにも弱く、そしてか弱くもあるが、何もない彼女はただ、八つ当たりのようにその敵に向かうことしかできなかった。



 しかしアリアは一歩を踏み出すと同時に、唇に添えた指をチュッと離しそして二歩目を踏み出すとシェリルに見向きもせずに告げた。



「終わることのない絶対零度にその身を凍えさせ続けなさい」



「がっ、あ……ああ、たすけ――」



 途端、白目をむいたシェリルがその場に倒れこみ、一切合切動きを止めた。



「殺しはしないよ、あたしもそこまで鬼じゃない。生かしもしないけれどね」



「十分鬼だって言う自覚を持ってねお姉ちゃん」

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