その姉は魔法使いを騙る
「ノアちゃんリュード、大丈夫?」
「……」
「あ、あれ? やっぱ見えてない――」
アリアとシェリルが対峙している最中、アリスは怪我をしているノアとリュードウィスに近づくのだが、その2人の反応にアリスが顔を伏せた。
「な、なあ殿下、一体シェリルはなに言ってんだ」
「……」
2人のそばにアンメライアとアッシュランス、ミアベリルも駆け寄ってきたのだが、状況を把握できていないリュードウィスとは異なり、ノアはそっとアリスに手を伸ばした。
「あぅ」
「……そう、私のことぶってたのはあんたね。このいたずらっ子め」
ノアはそのままアリスを抱き寄せ、目の端に涙を浮かべて頭を撫でている。
そしてアリスをひとしきり撫でたノアはリュードウィスの手を引き、アリスの頭に彼の手を持っていき、ここにいる存在を明かす。
すると薄目にしてジッと空間を見ていたリュードウィスが驚きに声を上げた。
「マジでアリスか? なんだってこんなことに」
「それは――」
「俺にもぜひ教えてほしい。君は今、アリア=ダンテミリオのことを何と呼んだ」
観念したようにアリスは肩を落とし、そして凍えるほどの圧を放ち続ける姉に目をやった。
「禁忌魔法、お姉ちゃんは魂を操る月の魔法使い、魔法使いの英雄譚に登場する3つ目の禁忌を扱う。僕はその禁忌によって世界に縛られた」
アンメライアとアッシュランスが揃って頭を抱えた。
教員として生徒の1人が禁忌を扱うと知り、それをどう処理していいか困惑しているというところだろう。
「禁忌? アリアが?」
「……あの冷たさは禁忌由来だったのね。それじゃあ昔私を助けた時にはすでに」
「お姉ちゃん5歳くらいの時から禁忌使ってるよ」
「ん、アリア姉すっごい」
アリスたちは揃ってアリアに目をやる。
そこでは歯を噛みしめたシェリルを勝気な顔で見つめているアリアがおり、彼女はシェリルに向かって手のひらを向け、指を上下に動かした。
「馬鹿にして! 『――』『――』『――――』『――』『――』不遜なる風の息吹、駆け抜ける衝撃はあらゆるを貫く螺旋となれ『廻れ回れ風の目となれ』」
シェリルの魔法陣から飛び出す複数の風、その風は螺旋を描きながらアリアへと伸びる。
その螺旋の風に、シェリルが魔石を投げつけた。
「風は炎を飲み込み、あらゆるのを飲み込む爆炎となる」
魔石から発生した魔法は炎系統の魔法で、風が炎を煽り巨大な炎の渦に変わり、アリアを燃やし尽くそうと迫っていく。
しかしそんな炎の渦が迫ろうともアリアは顔色を変えずに、文字が描かれた光の帯が現れ、アリアの体に入り込んだ。
「『突撃突貫ウサギ』」
「スキル!」
前傾姿勢をとったアリアの姿が忽然と消えた。
「――っ!」
「『後ろ蹴り加速ウサギ』」
迫りくる炎の渦が重なるよりも速く、一歩目から最高速になる超加速によるスキルを使用することでシェリルの正面に躍り出たアリアは、彼女に背を向けてさらにそのまま地面に両手をつけて後ろ足でシェリルを蹴りつけた。
その蹴りは彼女を吹き飛ばすには十分な威力で、アリアは蹴り上げると同時に再度加速して、空中で宙返りをしてシェリルを正面に着地、舌をべっと出して魔法を使わない右手の指を鳴らしてウインクをした。
「……なんなのよ、なんなんだあんたは!」
「あたし?」
突撃突貫ウサギによって再度シェリルの正面に姿を現したアリアは不敵な笑みで彼女の頬に拳を添えた。
「『頬ずり兎の耳ビンタ』」
頬を打たれ音が鳴り、シェリルが床を滑っていく。
そしてアリアは唇に指を添えながらニヒっと笑う。
「魔法使い」
「せめて魔法を使ってあげてよぅ!」
そんなアリスの声がこだまし、圧倒的優位にその姉は立ちふさがるのだった。




