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ダンテミリオ姉妹の禁忌魔法〈エクリプスヴォイド〉  作者: 筆々
5章 決着をつける姉と懇願する妹
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その姉は囚われの猛獣

「……」



 アリアはただ、その少女の背をじっと見つめていた。

 場所はどこかの地下施設、いくつかの培養液に入れられた人の躯が入ったガラスの棺、その棺から流れ出した血液がシェリルのいる中央の見渡しのいい広場に流れ込み、そこにある装置に魔石を運んでいた。



「人から出来た魔石は質が良い。大きさもそうですけれど、魔物や動物の魔石と違って一回で壊れることもない。何より――人由来の魔法陣だからか、ひどく扱いやすい」



「あたしにそんな話をされても困る」



「あらそうでしょうか? 先ほど品評会で来ていた学生を魔石に変えようと思ったのですが、見事に失敗しちゃいましてね。最初は先生方、特にスピアード先生が何かしたのかと考えたのですが、殿下がですね、あの子って言ったんですよ」



「……」



「あの殿下がそこまで優し気に人を呼ぶのって、この世界で2人くらいしか知らないんですよね。そう、あなたとアリスさん、じゃあどっちかって言ったら、もうあなたしかいないでしょう? だからね先輩、私はあなた――アリア=ダンテミリオ先輩が私たちの計画をとん挫させたとばかり」



「随分と他人事みたいに言うんだね」



「だって他人事ですから。あ~あ、静かに研究できる環境ってこんなにも得難いものでしたっけ?」



「そっちが勝手に大事にしたんでしょ」



「私じゃないですよ。お父様やノーブルラントが勝手に盛っただけ、どういつもこいつも王に鉄槌だとか、この国に繁栄だとか――どうでもいい」



 シェリルが面倒くさそうに息を吐き、吐き捨てるようにノーブルラントを切り捨てた。

 グイードラッシュがいうような最高傑作は、その資質故に邪魔な物(ノーブルラント)を否定した。



「私たちは魔法使いです。魔法の研究をして、魔法を知って、魔法の先を求めて――そこに権力だの力だの、そんなもの誰かが勝手にあやかりたいだけのものでしかないのに、私はただ、私の魔法を知りたかっただけなのに」



「それには同意するよぅ。魔法は魔法でしかない、力と言っても所詮人1人の力でしかない。それ以上の意味はなく、それ以外は結局、人1人以外からの嘘でしかない」



「気が合いますね。あなたに小動物なんて誰が名付けたんですか?」



 にこりと微笑むシェリルにアリアは濁った眼を向ける。

 それならば、彼女はどうして――。



「なんでアリスをあんな目に遭わせたの」



「……」



 シェリルが肩をすくませ、魔法陣を出現させて父親と同じ武器――指揮棒をアリアに向けた。

 その瞬間、彼女のそばに転がっていた魔石から風の衝撃が吹き、アリアを吹き飛ばした。



「――」



 吹っ飛んだアリアはのそりと体を起こし、それでもシェリルを睨みつける。



「どうして……どうしてでしょうねぇ」



 ぷくと頬を膨らませ、自分でも心底わからないという風にシェリルは顎に手を添えて首を傾げた。

 すると、その地下施設の入り口が突然轟音上げて崩れた。何事かと2人が目を向けると、そこにはノアとリュードウィスが立っており、アリアは驚いたような顔を浮かべた。



「ノア」



「アリア――」



 リュードウィスに肩を借りてふらつく足取りのノアは、アリアをその瞳に映し、心底安堵したように笑みを浮かべた。



「あぁもう殿下、せっかく2人で大事なお話をしていたのに、邪魔しないでくださいよ」



「……シェリル」



「殿下がここにいるってことはあれ(・・)はやられたんですね。ざまーみろです」



「お前にもう後ろ盾はねえ。ここにいる王族がキレ散らかさない内にさっさと縛につけ」



「あらいやですわパテンロイド先輩、今ここには手負いの王女とその護衛、何かあるだろうけれど魔法すら縛られた小動物を被った猛獣、逃げるだけならそんなに手間もかかりませんよ」



 シェリルは傷だらけのノアとリュードウィスを鼻で笑い、そして何でもないように周囲の棺から流れ込んでいた魔石を集める装置に手を伸ばし、そこから大きく成長した魔石を手に取った。



「ここももう使えませんね。それなりに良い施設だったのですが仕方がないですね」



「逃がすと思ってる?」



「見逃してあげるんですよ。そんな状態で戦っても得るものはないでしょう?」



 ノアが奥歯を噛みしめ、それでもシェリルを睨むのだが、彼女は涼しい顔をして撤退の準備を始めていた。

 そんな彼女をアリアは見つめ、そして呆れたように息を吐き口を開いた。



「6章第31節」



「――」



「……? それ、グイードラッシュも言っていたわね」



魔法使いの英雄譚センスアルゴナウティカの6章第31節、彼者はあらゆる軌跡をその聖石に込め、世界のすべてをその石から始めた。その魔法使い、星を冠した彼の名は――星の魔法使い、ミリオンテイズ=グラーニルズ。10ある禁忌の八つ目の魔法」



「……あなた、なんでそんなことまで知っているんですか? 現存する(・・・・)魔法使いの英雄譚センスアルゴナウティカから6章は抜けているはずなんですけれど」



「あたしの師匠が詳しかった。その聖石は魔石から始まったあらゆる魔法を組み込んだもの。あなたの研究もそれを作るためのもの――でも遠い」



「本当に詳しいですね。私より知識がある……ねえ先輩、あなたのこと誘拐してもいいですか?」



「許してもらえるなら。ね」



「――っ」



「シェリル!」



 飛び出したノアが折れた剣を振り上げて、シェリルへとその殺意を全開に魔法を唱えた。それに続くようにリュードウィスも槍を構えており、この場所が戦場になったことを告げた。



 そんな彼らをアリアは横目に、今この場にいない妹へと思いを馳せるのだった。

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