その王女は愚かと呼ばれても一途に想う
「ノーブルラント増殖しすぎでしょ!」
「元から結構いただろ、シェリルだけでも5人兄弟、その上は7人兄弟だぞ。さらに奴らに与するいくつかとその弟子ども。全員捕まえるのも面倒くせぇ」
「ったく、ゴキブリかなんかなの――『――――』『――』邪魔邪魔邪魔、我が覇道に一切の曇りなし。我が前に立つすべてを切り刻め『悪童剣技』」
校外でノーブルラントと対峙していたノアとリュードウィスはあまりにも多い敵にげんなりとしながらも、容赦なくその腕を、脚を、首を落としていく。
「私に歯向かうことがどういうことかその身に刻んでやるわ。来世では忠実にいられるように教育してやる」
切り刻まれた同胞を見て脚をすくませるノーブルラント一行だが、歯を食いしばってノアに突貫をかます。
「ああもうしつこい!」
「というかお前ら、ここにいるのは仮にも王女だぞ! 何でノーブルラントの言いなりになってんだ!」
「仮じゃない、神が定めた真実よ」
ノアの言葉に敵たちが一斉に奥歯を鳴らして彼女を睨みつけた。
その瞳からは並々ならぬ恨みが籠っており、明らかにノア1人に対する怨嗟がうかがえた。
敵の1人が声を上げた。
ノアは真の王ではない。魔法使いに無理難題を押し付け、我らを排斥した愚かな王だと叫んだ。周囲の者たちもその声に賛同するように叫び、ノア1人を糾弾する。
「……誰こいつら」
「あ~……そういやぁ殿下、一時期魔法使いに対する要求の難度が上がったことがあったよな。その時に首を切ったやつだな確か」
「へ~」
一切興味のないように言い放つノアに、敵たちが額に青筋を浮かべて詠唱を始めた。
ノアは頭を掻き肩を竦めると、すぐに笑顔を浮かべる。そして奴らに手を伸ばし、すべてを受け入れるかのような空気感で口を開いた。
「アリア以外死ね! 『――』『――』『――――』我が進む王道に弱者など必要なし。我が道を共に進むはその資格ある者のみ。資格なき者は無様に死ね! 『悪王乱舞』」
振動するノアの腕と震えすぎて剣先がぶれて目で追いきれない剣。
彼女はその剣を持って一歩を踏み出すと同時に敵が集まる中央の空間に剣を差し込んだ。
差し込んだ空間がひび割れると、剣の振動が転移するように敵のそばで発生し、そのまま周囲にいたノーブルラントに与する者たちを切り刻んだ。
「アリア以外が人の言葉をしゃべるな!」
「……お前そういうところだからな」
細切れになった敵を踏みつけ歩むさまはまさに暴君であり、すでに最前線にいた敵たちは戦意が失せたように体を震わせていた。
ノアとリュードウィスはもはや戦意を喪失した敵には目もくれず、シェリルが進んでいった方角に脚を進めようとするのだが、手を叩き拍手をして近づく男に2人は眉をひそめた。
「……ああ、そういえばいたわね。あれ、あんたって今なんて立場だっけ?」
「ノーブルラント現当主ですよ、シェリルの方が目立ってますけれどね」
眼鏡をかけた痩せ細った男、その男こそ現ノーブルラント家当主――グイードラッシュ=ノーブルラント。
「いやはや、さすが殿下でございます。その傍若無人なふるまい、王にしておくには惜しい魔法のキレーー何をとってもその立場が霞む」
「あらありがとう。でも今さら私を取り込もうとしても無駄よ」
「どう考えても皮肉だろうが、こいつはノア様が王に向いていないって言ってんだよ」
「あんだとコラ」
「……本当に忌々しい人ですね。あの時なぜ殺せなかったのか、未だに天を恨むばかりですよ」
「あんたたちが弱かったからでしょ。魔法の才能もなく、ぎゃあぎゃあ騒いで挙句の果てに周りに迷惑かけて、しかも天を恨むなんて厚かましさ通り越して哀れね」
ノアが口角を吊り上げて半笑いでそう告げると、グイードラッシュが口元を押さえてくつくつと喉を鳴らして笑い声をあげ、その声を徐々に大きくさせてたと思うと、その手に魔法陣を出現させ、ノアたちを睨みつけた。
「……殿下、あれでも一応、王宮魔法使い筆頭だぜ」
「はっそれがなに? アリアを助けに行くことが最優先でしょ。あんな雑魚眼中にないわ」




