その振り回され隊は悪女に思いを馳せる
「あ~……そういうことか」
「殿下?」
ミアベリルの案内で、ダンテミリオ姉妹が以前来た死体と魔石に変わりかけている魔法陣の場所をノアとリュードウィス、そしてアンメライアが囲んでいると、その魔石を見てノアが頭を抱えた。
「私、アリアがなんで動かないのかわらなかったのよ」
「残念ながら誰にもわかってねえぞ」
「だってそうでしょ、アリアは多分犯人がわかっている。でも問い詰めるでもなく、ただ泳がせている。仇討ちだけならアリア1人の方が早いわ」
「犯人? 仇、討ち?」
「……あんたにも後で説明するわよ。まったくの無関係ってわけでもないし」
ミアベリルの頭に手を置いてノアがため息を吐くと、魔法陣が遺体の生命力を吸い取り、そして結晶化しかけているそれに触れる。
「……私、魔石にされかけていたのね」
「それは――」
「誘拐されたとき、同じようにされたわ」
「おい待て。で、それをやっているのがあいつか?」
「そうなるわね。でも、スピアード先生すら知らない魔石の生態、そりゃああの子だけじゃどこにも訴えられないわよ」
「あの、わかるように説明してもらってもいいですか?」
「魔石が魔法陣という話はしたわよね」
「ええ、魔石に呪文を通すことで魔法を行使できる。かもしれない。ですよね? あの後少し試しましたが、出来ませんでした」
「それでわかることは何かしら?」
「……魔物も魔法陣を持っている? もしくはほかの生物も魔法陣を持っているという証明に――」
「おバカ、もっと根本的なことがあるでしょう」
ノアが顎で遺体を指すと、ハッとした表情を浮かべたアンメライアがその遺体と出現したままの魔法陣に目をやり、顔をゆがめた。
「人からの魔石生成、でもこれは――」
「細かいことは専門じゃないからアリアに聞きなさい。でも明らかに魔物が生成する魔石よりも大きな――ええ、そう、アリアが私たちに渡してくれた魔石ほどの大きさになると予想できるわ」
「それだけじゃねえ。この魔法陣が出っぱなしの状態――」
「アリス、と、同じ?」
ミアベリルが不安そうな顔でリュードウィス、そしてノアの袖を引っ張った。しかし2人が悲痛の顔を逸らすとアンメライアがミアベリルの手を引き、彼女をそばに置いた。
「アリアは一番近くで見てたから、魔法陣が魔石に変わろうとしていたのなんてすぐに見抜いたはずよ。でもあの子はそれを訴えることは出来なかった。だって世間では未知の技術で、しかも学園は事故だと断定した。それを覆すだけの名声をあの子は持ち合わせていなかった」
「だからこそほかの手が必要になる。誰が敵かなんてわからない状況で、それでも道しるべを作った。協力者としては第1位はノア様だろうな、王族で、しかもそれなりに成績優秀者だ。で次に――」
「私たち教員ですか」
「……私が敵になるわけないでしょうに。まだまだ愛が足りなかったと見えるわ」
「そういうことするから距離とられんだろ。でもそれでもやっぱり足らない。いくら訴えたところで、あのバカ野郎は捕まらねえ。さっき言った通り未知の技術だ、知らないで押し通すこともできる。だからこそアリアは相手が行動に移すのを待つしかない。だがもし事を起こしたとしてもアリアだけが知っていても説得力に欠ける。だからこその俺たちだ」
「この魔石を私たちに見せたことも、順番に過程を小出しにしたのも、私たちや先生がすぐに研究に移行して纏められることを想定しているから。回りくどいけれど確実――なんだけれど、それでも1からちゃんと説明してくれてもよかったのに」
「もしかして、それとは別の隠し事があるのでは?」
「まだなんか隠してんのかよ」
「アリアさんは自身が優れた魔法使いであることを隠そうとはしなくなりました。けれど、抜けている」
「……そうね、魔石に詳しいだけじゃ説明できない問題があるのよ。そもそも魔石に至ってもなんでそれに気が付いたのか。他にも色々。多分アリアが隠したいのはそっち。でもあの子はそれがばれてしまう危険を冒してまで私たちにこの件を解決するように動かした」
アリアの策略を理解したノアたちだったが、未だ事態について来られていないミアベリルがリュードウィスたちの顔を交互に見ては顔を伏せていた。
そんな彼女の頭をアンメライアが抱いて撫でていると、ついに彼女が口を開いた。
「あの、もしかして、アリスは――?」
「殺されたのよ」
「――っ」
「……ルヴィエント」
「隠したってしょうがないでしょ。あんたの役割はわからないけど――いえ、純粋に姉って呼ぶあんたとお話したかっただけかもね。下りてもいいのよ」
「……アリア姉は」
「ん?」
「アリス、を、殺した人、捜して、る?」
「それは――」
「そこは私も聞きたいですね。あなたたちの口ぶり、誰がこんなことをしているのか、わかっているみたいですね?」
「ええ、わかっている。けど動けない。さっきも言った通り証拠がない。だから動かす」
「……それは、あまりにも――」
「わかってる。アリアがどうかは知らないけれど、相手が何をやろうとしているのかもわからないし、目的だってわからない――リュード、あんたさっき実家に手紙送ってたわよね?」
「返事は早くても明日だぞ。父上ならノア様の誘拐のことも覚えているから追加で手紙出しておくよ」
「お願いね」
「王家が関わっているのですか?」
「王家って言うより王宮がね。ほんっと厄介なことをしてくれた、私はもう頭が痛くてたまらないわ」
天を仰いで両手で頭を抱えるノアをミアベリルが引っ張る。
「あによ~」
「私、も、手伝える?」
「……その鼻を役立てなさい。アリアに教わったのなら、それを使えば何とかなるでしょ」
「ん」
「さて、次は水宮の湖だな」
「私王族なのに」
「私だって教員です。まさか一生徒にここまで振り回されるとは思っていなかったですよ」
それぞれが直接的ではないがアリアへの悪態をついたところで、面々は移動を開始したのだった。




