そのわんこ系後輩と踏みしめる確証
「しっかし、アリアの痕跡を追うって言ってもあの子がここで何をしていたのかはわからないのよね」
「それって、殿下が無理やりアリアを連れ出した時だよな? あんときも言っていたが、アリアなんかやってたのか?」
「やってたでしょ。アリアがどっかに行ってからグリーンフッドが奥に引っ込んでいったもの。というか――」
ノアは視線をリュードウィスに向けて、彼の後ろをついて歩くアンメライアとミアベリルにも視線をやった。
「先生はいいとして、ミアベリル=ヴァンガルド、なんであんたもついてきてるのよ」
「ん、おかまい、なく。ちょうど、いい、から、特訓」
「特訓ってなにすんだ?」
「命の、嗅ぎ分け。アリア姉に、色々教えてもらった。魔法を、視る。んじゃなく、人の、中にある、その根源。在ることを、自覚して、存在を、受け入れるところ、から、始める」
ミアベリルは両手を頭上に立てて耳のようにピコピコと動かすと同時に魔法陣で、半透明の障壁の耳を作り出し、鼻をひくひくと動かし始めた。ワンコの挙動である。
そんな彼女を呆然と見ていた面々だが、ノアが咳ばらいを1つして空気感を元に戻すと、改めて魔石の森を見渡した。
「そういえばアンメライア先生、アリアを追ってこの森に来たのよね、その時アリアは何を?」
「わかりません。追いかけるので精いっぱいだったので」
「待て。アリアを追いかけるのに精いっぱいになっていたんですか? あいつ運動性能並以下ですよ」
「……付かず離れずを維持させられていました。だから話し声も断片的で」
「つけているの思い切りバレてるじゃない。じゃあなに、あの子は先生がいることを知っていて情報をあからさまに話していたってこと?」
「そうなりますね」
「ああもう! なんでそんな面倒くさいことをするのよ! だんだん腹立ってきたわ、もう抱く!」
「おいやめろ」
「どうしてあなたはそっち方面に持っていくのですか?」
「あの子から子どもが産まれたら多少大人しくなるでしょうが!」
「産ませんのかよ。いや産まれねえよ」
「やってみなければ、わからない」
リュードウィスはノアの脳天に拳骨を落として王族を黙らせ、アンメライアに目を向ける。
「まあ実際、アリアがそんな遠回りしているとはいえ、俺たちに何かしてほしいことは確かですし、その痕跡を追うしかなさそうですね」
「そうですね。あの子が立ち止まって何かやっていたのですが、よく見えなかったのと、帰り道を複雑にされたために場所を覚えていなかったのが痛いですね」
「あいつにも拳骨だな。まだまだ疑われてんのかね――ん、どうした後輩」
ため息を吐くリュードウィスの袖をミアベリルがちょんちょんと引っ張る。ミアベリルはアリアのことは学園に戻ってきたときのことからしか知らないだろうが、それでも情報源は常にそばにあったのである。
「ん~、よくわからない、けれど、多分、アリア姉、楽しんでいるんじゃ?」
「……お前もその結論にたどり着いたか、実は俺もなんだ。アリア、交友関係が狭いからあんまり表に出てはいなかったんだが、あいつ結構な性悪だからな。アリスがいた時はあいつが指摘して表面に出ることを防いだいたようだが、そのアリスがいないから性格が悪いのが顕著に出てきてんだよな」
「そんなこと。アリアさんはいい子ですよ」
「先生、必ずしも良い子なことと性悪であることは同じ路線で語れないんですよ。特にアリアみたいな過程を楽しむような奴は、その結果が良い子に見えるだけです」
「それは、性質が悪いのでは?」
「悪いですね。これまでのアリアの行動を見ていると、あいつは相手とゲームをしている感覚なんでしょう。追い詰めて追い込んで、友人知人だろうが駒として使う。そして極めつけは死人ですらベットする」
「アリス、よく言ってた。お姉ちゃんを例えると? 暗黒街の帝王だよ。って」
「……俺もアリスから聞いたことあるな」
「アリスさん、結構アリアさんを怖がっていましたよね」
「その理由が最近になってやっと理解できてきたよ」
学園の皆が口をそろえて小動物と彼女を愛でる中でただ1人、アリス=ダンテミリオだけはその首を刈られないように縮こまっていたのだった。
「ああ駄目だ、余計な話してたら日が暮れちまうな」
「そうですね。なにか目印があればいいのですが――」
「ん、あっち」
「は?」
ミアベリルが突然森の奥を指差したのだが、リュードウィスとアンメライアが首を傾げた。
「あっちから、大きな魂、の、匂い」
「……カギはお前かよ」
「……そうみたいですね」
うな垂れるリュードウィスとアンメライアがうずくまっているノアを両側から持ち上げ、そのまま引きずるようにしてミアベリル案内の下魔石の森を進んでいくのだった。




