その姉とスキル説明
「アリア姉は、物知り」
(本ばかり読んでいるのと、やろうと思えば目を何個も増やすからなぁ)
「何か気になることがあったら遠慮なく聞いてね~」
アリアはダンテミリオ姉妹が住んでいる旧寮長宿舎にミアベリルを連れてきて、付箋をしたいくつかの本を彼女に渡した後、家屋の外で本に書かれた内容を実戦形式で教えていた。
「ベリルちゃん、本読むの苦手だよね? さっきもちょっと辛そうだったし」
「ん、眠くなる」
(陽の当たる場所で本なんて読んだら枕に変身させちゃうくらいにはその子本読まないよ)
「だから体を動かして実践してみよう」
「ん、それならいける。よろしく、おねがいしま、す」
アリアは相変わらずかけている眼鏡をクイクイ動かし、魔法陣を生成してふっと呪文を3節読んで息を吹きかける。
すると彼女の周囲に冷気が発生し、空気中の水分を凍らせてキラキラとしだした。
「まずはこれを認識してもらおうかな。魔法を見るんじゃなくて、魔法の中心にある命を意識する感じ」
「命……」
ミアベリルは目を閉じると鼻をしきりに動かしながら、ある個所に拳を振るい始めた。
(わざとやってんのかこのワンコ! 僕にしか当たってねえぞ! 痛い痛い――)
「なにか、ここにいるよう、な気が、する?」
「あっ、それは気にしなくていいからこっちに集中しようか」
アリアの放つ魔法にミアベリルが目を閉じて対峙している。しかし首を傾げるばかりでまだつかめてはいないようだった。
「ひん、やり? ところで、アリア姉、3節?」
「気のせいですよぅ。冷たいですねぇ雪ですよぅ」
「そっ、か」
(気の逸らし方が雑すぎる)
「う~ん、多分ベリルちゃんって家族に魔法使い誰もいないでしょ? むしろスキルを使っている家系かな?」
「ん、お父さんもお母さんも戦技使い、古の英雄録4個持ち」
「4個かぁ……中の上級冒険者、オーパーツ1個につき3から4つスキルを引き出せるとして、約15のスキル持ちか。家系的にはそっちの才能が強いのかな」
世界は魔法使いだけで回ってはいない。オーパーツと呼ばれる発掘された遺物からスキルという記録を読み取って習得することで、戦う力を身に着ける者がいる。
そしてミアベリルはそのスキルを使う家系だとアリアは言った。
(鼻が良いとスキルコレダーの才能があるの?)
「というより、オーパーツから読み取るっていうプロセスが、どうにも生命力を察知する。と似たようなものなんだよね。あたしもスキルいくつか読み取ってるけれど、そのおかげか探知が早くなったもん」
(待ってお姉ちゃんスキル使えるの?)
「一応ね。師匠のところにオーパーツいくつかあったでしょ」
(……僕も使いたかったなぁ)
「今度教えてあげる」
「……アリア姉、魔法戦技使い?」
「ん~――そこまでじゃないかなぁ。あたしはただ、知識が欲しかっただけだもん」
「すごい、ね」
(すごいで済む話じゃないんだよなぁ。魔法使いにスキルは使えないって言うのが通説なのにさぁ)
「ちょっとしたコツがいるのよ」
(お姉ちゃんはいつもコツコツ探ってるなぁ)
アリスの呆れたような声を流し、アリアはミアベリルを手招きして彼女に触れる。
「多分ご両親にオーパーツを読み取らせてもらったことがあると思うんだけれど、その感覚を思い出してみて。あたしもちょっと弄るから」
そうやってアリアがミアベリルに魔法の力の源を意識できるように尽くしていると、どこからともなく魔法の生命力とは違う、殺気とも違う、ヌメついたような気配にアリアが体を震わせた。
「ん、これ」
「ぴっ、なんか変な気配が――」
「め~が~ね~あ~り~あ~だ~」
「アリア逃げろ! ノア様の目が完全にキマってやがる!」
(レアお姉ちゃんだもんね、そりゃあノアちゃんが反応するか)
ゆらりと軟体生物のような動きをしながらアリアへの距離を詰めるノアに、アリアは顔を引きつらせて徐々に後退していくが、この気持ち悪い王族の動きが意外に速く、すぐに距離を詰められてしまっていた。
しかしそんなノアの正面に、ミアベリルが立ちふさがった。
「どきなさい後輩、そこには私の至高の宝が――」
「どか、ない。今、アリア姉、は、私の、お手伝い、してくれ、てる」
「……アリア姉?」
(お姉ちゃんなんでどや顔してるん?)
「ん、アリア姉」
「……」
ガンギマリだったノアの瞳が次第に正常になっていくのだが、ポカンと口を開いた彼女の体がプルプルと震え始め、そして口から泡を吐き出し、そのままぶっ倒れてしまう。
「殿下ぁ!」
「……どおじで、どおじてそこに私はいないの」
(ノアちゃんに妹属性がないからじゃないかな)
「同級生なんだから妹も何もないだろ」
リュードウィスのツッコミでさえノアの耳には届いていないようで、つっと一筋の涙を流し始めていた。
「うわっコワ」
「年は関係ないよぅ」
するとアリアがリュードウィスの頭に手を伸ばした。
(あっ――)
「リュウくんは弟っぽいよ。ところであたしに用事――」
「リュードぉぉぉ……」
「俺のせいじゃねえだろ!」
「ごめんアリア、ちょっと用事を思い出したわ。リュードウィス、私の護衛ならどこまでもついてくるわよね」
「ヤダ、絶対行きたくねぇ――」
「来い、殺すぞ」
「首、首をつかむな! 痛い痛い痛い! どこに連れてく気だ――」
「お前の終焉になぁ!」
ノアとリュードウィスの背中を呆然と見送っていたアリアだが、ハフと息を吐くことで切り替え、微笑みを浮かべてミアベリルに向き直った。
「それじゃあ続きしよっか」
(切り替えが早すぎるよ~)




