その姉はお姉ちゃんである
「さてっ、それじゃあお姉ちゃんの課題講座です」
(わぁ、久々の眼鏡お姉ちゃんだぁ)
丸眼鏡を装着したアリアが眼鏡をくいと上げ、学園の図書館にてミアベリルに課題についてのアドバイスをしていた。
アリアのその顔は輝いており、ミアベリルにお姉ちゃん扱いされてから生き生きとしていた。
「それじゃあベリルちゃん、ベリルちゃんは卒業研究を見つけられないとのことだったけれど、それは何を調べればいいのかわからない。それとも、調べたいことが多すぎて選べない。どっちかな?」
「……猫の1日とか眺めて、たい」
「そっかぁ」
(ごめんお姉ちゃん、言うの忘れてたけれど、ベルはポンコツ寄り)
「えっと気を取り直して――この学園において卒業のひと月ほど前に研究を発表するんだけれど、数人のせんせを前に、約2年とちょっとの研究を披露しなければならない。そこまではわかるよね?」
「ん」
「偉い偉い」
力強くうなずくミアベリルを、アリアは甘やかすように撫でている。そんな姉にアリスは手を軽く振ってはたいた。
(甘やかさない)
「……それでね、何も学園は未だかつてない謎を解明しろ。と言っているわけじゃないの。そんなことされても逆に困っちゃうからね。つまり、学園側としては1つの研究を生徒の力だけでやりきる。ということを評価している。だよ」
「ん、続けられれば、なんでも、いい?」
「そうだね。とはいっても魔法の学園、魔法に関連する研究であることは前提だよ。それで最初の話に戻るんだけれど、ベリルちゃんは何を研究テーマにしたらいいのかわからない。それはベリルちゃんが研究ということを漠然ととらえているから。だと思うの」
「ん、正直よくわからない。魔法は、そもそも今も研究されていること、一生徒が、研究したところで、もう誰かが研究、してる」
「そうだね、魔法の研究なんて大抵がそのエネルギー元だとか、魔法の起源とか、魔法陣とは何なのかとか、呪文はどこから来たのか、禁忌とはなどなど、蓋を開ければこの辺りを調べて結局わかりませんでした。で終わることなの」
「じゃあ、やっぱり、研究、意味、ない?」
「それは捉え方次第かな。もちろんそのわからないを調べても学園は評価してくれるよ。でもね、この辺りの研究をテーマに選ぶと早い内にわからないことがわかってしまうから、モチベーションが下がるからおすすめはしないかな」
(お姉ちゃん、僕にもそう言って別のテーマを探すように言ったよね。禁忌のことを調べたかったのになぁ)
「……特に禁忌魔法はそもそも情報が少なさすぎて研究のとっかかりすら見つけられずに挫折した子たちが去年はたくさんいたんだよ。多分今年も」
「禁忌は、駄目?」
「おすすめはしないよ。ベリルちゃんが禁忌を扱うとっかかりがあるのならやってもいいけれど、ないのなら選ばないほうが無難かな」
「ん、わかった」
「素直でいい子です」
アリアは両手を使ってミアベリルの顔を揉むように撫でた。まるで大型犬と戯れる少女である。
「で、それじゃあどんな研究が良いのか。答えの出ない研究をおすすめします」
「答えの出ない?」
「うん、魔法使用のエネルギーとか、魔法陣の真相とか、答えありきの研究テーマでしょう? 学生なんだから、人から見たら笑われるような研究でも押し通せます。例えばさっきベリルちゃんが言ったように、猫に魔法陣の素質があるのかどうか、そのために100匹の猫を追い続けました。でもいいわけで」
(いや、それも答えがあるんじゃ? 猫は魔法を使えるのかどうか。だもん)
「……ううん、猫が魔法陣を発動できるのか。それは不明だよ。仮に猫が魔法陣を発現させたのなら、それは猫以外の何かだもん。それに魔法じゃない。だって猫に呪文は唱えられない」
(じゃあ何を研究するのさ?)
「人が魔法を魔法と呼ぶように、猫にも魔法に準ずる力があるのかもしれない。それを調べることは無駄ではないでしょう?」
(テーマを決めただけで無駄に見えなくなるって言うだけじゃない?)
「そうとも言う。でも研究なんてそんなものなんだよ。だからねベリルちゃん、要はこじつけ。気になることを魔法に紐づけて考えてみれば、研究テーマはすぐに決まるよ」
「なるほど――ん、ありがとう。やっぱり、お姉ちゃんは、偉大。アリスの、言う通り」
アリアはそっと微笑み、頷いているアリスと瞳をキラキラさせているミアベリルを撫でる。アリアという少女はこういう性質なのだ、妹にとことん甘くできている。
「さて、それじゃあ指針は出来たようだし、色々回ってみようか。せっかくだから最後まで付き合うよ」
「……ん、ありがと」
(お願いしま~すっ)




