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その教員たちと隠れた真意

「……」



 アンメライア=イクノスは自身の研究室で、茶の入ったカップを傾けて思案顔を浮かべていた。

 その手にはアリア=ダンテミリオの資料が握られており、彼女の経歴を眺めながら傾けていたカップに口をつけて茶を口に運ぶ。



「――故郷を魔物に襲われ、故郷を失い両親とは死別。その際に魔物を退治した旅の魔法使いに姉妹ともども拾われてそのまま魔法使いに師事する。学園への入学理由は来年入学する妹が寂しくならないように。だったかしら」



 アリアの入学面接を担当していたアンメライアは当時のことを思い出しているのか頬が緩んでいた。そして書類をめくり、もう1枚――アリス=ダンテミリオの資料を見て涙ぐむ。



「アリスさんはアリスさんで、入学理由が、お姉ちゃんが自分以外の人ともやっていけるように。だったものね」



 面接と言っても簡単なことしか聞くことはなく、志望動機など二の次になりがちなメイガル学園、しかしアンメライアは、魔法使いは才能だけで選ぶとろくなことにならないという経験から、彼女が面接を担当する時は志望理由も深く聞くようにしているのだった。

 ダンテミリオ姉妹の志望動機は褒められたものではないが、姉妹のためとはいえ他人のために行動できるアリアとアリスの2人をアンメライアが気に入ったのは、それだけその表情から真剣さをくみ取れたからだろう。



「アリア=ダンテミリオ、学園での成績は下から数えた方が早く、魔法使いとしての才能はあまりない。ないはずだけれど、入学試験の時は確か――」



 当時を思い出そうとしているのか、アンメライアが深い思考に潜ろうとしていると、研究室の扉が外から叩かれた。



「どうぞ」



「イクノス、今いいか?」



「アッシュ――スピアード先生、どうかしましたか?」



「少し尋ねたいことがあってな」



「あなたが私に? 珍しいですね」



「……魔法陣の強化についてだ」



「それはあなたの専門では?」



「ああ、だから聞きたい。魔法陣の強化に、触媒を直接振りかけるという事例を知っているか?」



「いいえ、聞いたことありません。そもそもそんな事例はあり得ないのではないですか? 魔法陣は繊細な事象です。直接振りかけたところで干渉できない」



「……ああ、その通りだ」



「誰かが直接振りかけて強化でもしたというのですか?」



「……」



 アッシュランスが口を閉ざし、口元を手で覆いながら思案し始めた。

 そんな彼の様子に、アンメライアは手に持っていたアリアの資料に目を落とした。



「アリアさんですか」



「……ああ、俺の記憶ではあの子は魔法の才能はない。ない、はずなんだ」



「アッシュ、それに関して私からも質問が」



「なんだ?」



「あなたは魔石にアンデットが寄ってくるという話を聞いたことがありますか?」



「いや。それもダンテミリア姉が?」



「ええ、実は今日――」



 アンメライアはそう言って今日起きた出来事をアッシュランスに伝えた。

 アッシュランスは彼女の正面の椅子に腰を下ろし、アンメライアから受け取った書類を見ているのだが、やはり納得できないのか、深い息を吐いて書類をテーブルに置いた。



「アンデットの出現を冷静に周囲に知らせ、さらに誰も知らないような教養を持っている。か」



「あの子は確かに成績が悪いです。授業を真面目に受けているとは言えませんし、偏った知識の変換も見られます。ですが彼女の成績が悪い最たる理由は」



「魔法陣の適性が本当にないことだ。通常の魔法使いは10どころか30以上の適性は必ずある。だがアリア=ダンテミリオには2種類の呪文しか反応しなかった」



「……それも変な話なのですけれどね」



「というと?」



「私は今、あの子の入学試験の時を思い出していました」



「そういえば、彼女を担当したのはイクノスだったか」



「私の記憶では、アリアさんは魔法を苦手としていない」



「だが、現に魔法の発動はほとんどないぞ。適性のある魔法を唱えさせてもどうにもやりにくいからか、辛そうにする」



「ええ、それはわかっています。けれど……前提が違う?」



「どういうことだ?」



「あの子は多分、2節魔法を唱えられます」



「1節でもまともに唱えられないのにか?」



 何かの結論に達せそうなアンメライアだったが、苦々しい表情で頭を指で叩き、盛大にため息を吐くと一緒に用意していた焼き菓子を口に放り込んで、お茶で口を潤す。



「どうあれ、あの子は隠し事をしている」



「だな。だが、そんな隠し事をしている彼女が――」



「どういうわけか随分と積極的に動き回っているようですね。授業のこともそうですが、去年は一切その片鱗は見せなかったのに、学園に復帰してからというもの、まるでもう必要ないとでもいうように自身の優秀さを時折見せつける」



「何か目的をもって学園に戻ってきた」



「そう考えるのが妥当でしょう。それに、どうにも今のアリアさんは、なんというか」



「……彼女は俺の生徒だ、どんな思惑があろうともそれを破らせるわけにはいかんよ」



「――ですね」



 アンメライアは茶を淹れるとカップをアッシュランスに寄せ、手のひらを向けて焼き菓子とお茶をすすめる。



「アッシュ、また眉間のしわが増えたのではないですか?」



「余計なお世話だ」



「たまには甘い物でも食べて、とろけるような甘さをお菓子から学んだらどうですか?」



 アッシュランスがが軽くアンメライアを睨みつけると、そのまま焼き菓子を口に放り込んだ。



「甘い物は好かん」



「知ってますよ……それでアッシュ」



「わかっている、アリア=ダンテミリオ、少し探りを入れておこう」



「お願いします」



 アッシュランスが茶を飲み干し、椅子から立ち上がるとそのまま片手をあげて研究室の扉に手をかけた。



「アッシュ」



「ん?」



「アリアさんは多分ですが」



「わかっている。それを含めて何とか調べ上げる。私は教師だからな」



「ええ」

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