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その姉と魔石実験

(ま~た何か企み事?)



「ちょっと確認をね」



 アリアたちがいた方角から戦闘音が鳴っており、ノアたちが残ったバグズウィプスたちを相手にしているのがわかるのだが、アリアとアリスは湖を囲む林を草を踏みつけて進んでいた。



(ベルたち大丈夫かなぁ)



「相当数減らしたから大丈夫だと思うよぅ。それに――」



(それに?)



「……次席の子がいるんでしょ。問題ないでしょ」



(シェリル=ノーブルラントかぁ。やっぱよく知らないんだよねぇ。僕、自慢じゃないけどそれなりに友だちは多かったんだけれど、あの子とは友だちになってないよ)



「避けられてたんじゃない?」



(愛されアリスちゃんを嫌う人っているの? でも別に変な感じのする子じゃなかったけど)



「……そだね。さて、アリスちょっと手伝って」



(僕が?)



 アリアはそう言ってしゃがんで土を掘り返し始めた。そんな姉をアリスはふわりと背後で浮きながら眺めているのだが、魔石を握ったアリアの手から、その魔石を中心に半透明のスコップが出来上がった。



「生命力はつまるところ魂よ。だから障壁を使った造形魔法と同じ要領でこうして形を変えられるの。これならアリスも使えるからちょっと掘るのを手伝ってよ」



(その魂を自在に扱える魔法はズルいと思うの)



「これはやろうと思えば誰でもできるよ。魂とか生命力って言っているけど、行きついた先が魔法ってだけで、根本的にはやっていることは同じ。コツは呪文を唱えた時に魔法陣に流れる力を意識すること、あたしは魔力って呼んでいるけれど、消費しているのは魂。誰もが使っていることを魔法陣を通さずにやるだけ」



(……魔法行使のエネルギーは何かって問題を解決しないでよ。それ今もなお議論が止まない魔法使いの生涯課題の1つじゃん。そのエネルギーを証明する手段がないって誰もが存在を認識できない。それをお姉ちゃんはさぁ)



「魔法陣じゃなくて魔石を通して魔法を発動させれば一発で解決するのに、誰も試さないのが悪い。ほら、アリスもやってみて」



(はいはい――)



 アリアから魔石を受け取ったアリアが魔石を握って目を閉じる。



「普段魔法を使うように、でも魔法陣は絶対に出さないように。生命力は別の生命力が混ざると反発しちゃうから、魔石の中の生命力だけを使うイメージ」



(ん~……)



「ゆっくりと魔石に呪文を通して」



(『――』『――――』)



 蚊の鳴くような声で呪文を唱えたアリス、すると魔石が淡く発光し、魔石を中心に半透明の生命力が形作っていく。



「厳密には魔法じゃないから、自分の生命力が伸びているようなイメージを持って。放つとか変換するとか、そういうのは魔法の領分」



(難しいこと今言わないでぇ)



「……しょうがない。お姉ちゃんが手伝ってあげましょう」



 そう言ってアリアはアリスの背後に回り、後ろからそっと抱きしめるように妹を覆う。そしてアリスが魔石を握る手を自分の手で握り小さくつぶやく。



「今のアリスは肉体のない生命力だけで動いている存在だから、手足の延長を意識すれば簡単かも」



(手足の延長――この魔石は僕の生命力)



「そうそう、上手上手。さすがあたしの妹」



(お姉ちゃん今学園で最強だって自覚持ってね)



「ヤっ、魔法は強さを測るものではない。だよ。魔法とは知識、魂の開放の果て。力なんて二の次」



 アリアの手伝いもあり、アリスの持っていた魔石が徐々に形作っていく。そして出来上がったそれは星やハートのマークが散りばめられたスコップとなった。



(……しんどい)



「慣れて。それじゃあこの辺りを掘っていくよ、あたしの予想が正しければこの辺りに――」



(んぇ? 何これ? 魔石?)



 スコップで掘り進めると、地面の下から魔石が出てきた。アリスはそれを首を傾げてみているのだが、アリアは不快そうに顔をゆがめた。



「アリス、魔石とはどうやって出来るでしょうか?」



(どうって、魔物の体内で生成される石。でしょう?)



「……少し違う。魔石とは生命力を凝縮した結晶――命あるすべてが魔石を生成できる。だよ」



 アリスがさらに地面を掘るとそこから人の頭蓋骨が現れた。妹は驚いたような顔でそれをスコップでつつくのだが、まるで搾りかすのように骨が砂のようにほどけていく。



(……お姉ちゃん、魔石ってまさか人にも)



「出来るよ。生きた人間の魔法陣に無理やり魔石を押し込んで、何度も反発を促すことで生命力の出口をなくすことで魔石が生成される。例えば、魔法陣の暴発事故でもそんな例があったって聞くね」



(……それって)



「誰かが人で魔石を作る実験をしてる。そしてアリスもそれに巻き込まれた」



 アリアの声は冷たく、ただその真実を噛みしめるように穴を睨みつけるのだった。

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