その姉と魔法陣の授業
「では、今から触媒による魔法陣の強化の授業を始める」
アリアが学園に復帰して数日が経った今日、やっと彼女への同情的な視線が鳴りを潜めたころ、アリスに関する事故に関して特に進展のないまま、ダンテミリオ姉妹は授業を受けていた。
今受けている授業は魔法陣の召喚及び権限という魔法陣に関するすべてを教える授業であり、クラスの教室ではなく、移動して魔法実験室という黒板といくつかのテーブルに着席するスタイルの教室で、様々な器具がその部屋にはある教室での授業となる。
その授業を受け持っているアッシュランス=スピアードという黒髪をオールバックにした厳つい目つきの教員で、指には数々の指輪とその指輪が袖の中から伸びている鎖と繋がっており、ジャラジャラと音を鳴らしている。
見た目や目つきが悪く、睨まれただけで新入生が泣き出すという噂のあるほど、魔法に関しては厳しく、苦手とする生徒も多い。
そんな彼が魔法陣を生成すると、一度アリアに視線をやった。
「――?」
(……あ~、ちょっと申し訳ないなぁ)
「……魔法陣の強化とは、個人の持つ魔法陣に触媒を混ぜて範囲の拡張、魔法に強化を付与するなど様々な効果をもたらす術だ」
アッシュランスが息を吐き、一度顔を伏せるとまっすぐと教室にいる生徒を見据えて口を開いた。
「ついこの間、魔法陣への実験中の事故で亡くなった生徒もいる。各々、気を付けるように――」
「――」
アッシュランスが言い切る前に、教室中に鋭い殺気が奔る。
リュードウィスに羽交い絞めにされているノアがアッシュランスをにらみつけ、今にもその牙で喉元を嚙み千切らんとする勢いが見て取れた。
「ルヴィエント、その殺気を抑えろ。魔法陣は繊細だ、小さな綻びが事故に繋がる」
(その繊細な作業を戦闘中に片手間でやってのけるのがうちの姉です)
「――あんた、それをわざわざアリアに聞かせる必要もないでしょうが」
「この授業に出ている以上避けては通れん。それに私は教師だ、いくら次期国王だとしても学園にいる以上ここのルールには従ってもらうし、教員の指導には従うべきだ。殺気をおさめろルヴィエント」
「――」
「ノア」
リュードウィスの拘束を無理やり解いてずかずかとアッシュランスへ殴りかかろうとしたノアだったが、アリアの声で動きを止め、物悲しげな瞳で振り返った。
「あたしは大丈夫だから。アッシュセンセ、続けてください」
「……君は物覚えは悪いが、物分かりだけはいい。私目線になるが、もっと激情を誰かにぶつけてもいいのだぞ」
「ありがとうございます。センセはそう言ってあたしに授業の欠席を勧めてくれましたよね。でも大丈夫です」
(僕ここにいるしね)
「……そうか。さっき言った通り、私は教師だ、あのような事故が二度と起きないように指導する必要がある。あの事故の話は責任を以て教訓にさせてもらう。いいか?」
「はい、アリスも喜ぶと思います」
(使用料とか取れる?)
アリアは笑みを浮かべたまま、隣で浮かんでいるアリスの頭に手を振った。
(あいたぁ!)
アリスが頭を抱えて膨れていると、歩みを止めていたノアがアリアに近づき、隣に座っていた生徒をどかしてアリアの肩に頭を乗せて席に座った。
「ノアもありがとぅね」
「……そのたまに大人っぽくなるの、ズルいわ」
「お姉ちゃんですから」
「うん」
ノアがそのままアリアの肩に頭を預けて顔を伏せたからか、アリアは彼女の頭を撫でている。
その間に、アッシュランスは授業を進め、リュードウィスはアリアに頭を下げていた。




