ゲーム通りに糾弾イベントが始まったけど私はマジでやってない!!
ここが前世でプレイした恋愛シミュレーションゲームだと気づいた主人公
しかも自分がヒロインを陥れるキャラであることにも気づいたが「まぁ、自分とあのキャラは性格が違うし」と特に問題ないだろうと思っていた
ところがゲーム通りに糾弾イベントが始まってしまい……!?
「私はマジでやってないんだって!!」
最初に言っておこう。ここはゲームの世界である。
この『ラストピースを見つけて』というゲームはなんちゃって大正ロマン風の世界観で、学園で起こる事件を解きながら対象のキャラクターと絆を深めて攻略していくというもの。お分かりの通りジャンルは恋愛シミュレーションだ。
舞台である七ノ耀学園は由緒正しい家柄のご子息やご令嬢が通う学舎なのだが、特別試験を受けて見事合格したならば一般家庭の子供でも特待生として通うことができる。
校舎は男子と女子に分かれており、ふだんの授業はそれぞれで受けるようになっている。
そして入学式などの式典や季節行事、生徒集会などは講堂で行うのだが、その講堂でいま起こっているのは『私』を糾弾する会である。
私は水ヶ原紗々雨[みずがはら ささめ]。水ヶ原財閥の一人娘である。
上には兄が三人おり、水ヶ原家唯一にして待望の女の子だったのでそれはもう両親にも兄たちにも可愛がられて育った。
前世でも兄はいたし、仲も悪くはなかったがこんなに蝶よ花よと扱われたことはない。
そう、『前世』。
私は物心ついた頃から前世の記憶を思い出せるようになったのだ。
前世の私はごくふつうの家庭でごくふつうに育ち、それなりに人生を謳歌して生涯を閉じた。
どうもこの前世の記憶というやつは現在の年齢とリンクしたものがその都度思い出されるらしい。
だからいまはおおざっぱに『ふつうの人生を過ごしました』という記憶はあるが、結婚した時や老後のことはまだ思い出せない。
しかし、ここが『ラスピー』の世界だと思い出したのは7歳の頃だ。
このゲームは当初はアプリで配信されたもので、プレイを始めた私はその頃学生だった。
その後、社会人になって数年後に家庭用ゲームに移植されたのを知った私は「なつかしっ!」となって再びプレイした。
アプリでは特別シナリオなんかは課金しなければ読めなかったのだが、移植版はその季節イベントシナリオや特別シナリオも込みで発売されたのだ。
学生の時と違い、自分で稼いだ金があるので迷うことなくダウンロードボタンを押して無事購入した。移植ありがたい。
……話がそれた。
そう、なぜ年齢とリンクしていないのに『ラスピー』を思い出したかというと両親に連れられて訪れたお屋敷で許婚として紹介されたのが『ラスピー』の攻略対象の一人だったのである。
最初は「どっかで聞いた名前だな……」と、話に花を咲かせる大人たちを横目にぼへーっと考えていたら答えに行きついたのだ。
月流院一等星[げつりゅういん ひとせ]。インパクトありすぎてそりゃ引っ掛かるわな。
これまた代々続く御家の次男坊である。たしか長男は病気がちなため跡取りとして育てられているという設定だったはず。(ちなみに姉もいるが、彼女は陸軍将校の息子に嫁ぐことになっている)
銀鼠色の髪と目をもち、学園では『銀月の君』と呼ばれることになるこの少年は幼いながらもすでに整った顔立ちをしていた。さすが二次元。カラーリングがファンタジーすぎる。
かくいう私は濃紺の髪に瑠璃色の目である。人のこと言えなかった。
「聞いているのか水ヶ原!!」
突然の大声に、過去に飛ばしていた意識を急速に現在へと戻した。
そうだ。いまは水ヶ原紗々雨を糾弾するイベントの最中だった。
私は改めて壇上の面々を見据えた。
生徒会副会長の土蔵要祐[つちくら ようすけ]。
栗色の髪に黄土色の目。眼鏡。敬語で物腰柔らかな優等生。いわゆる優しい紳士系男子枠。なんか家が料亭と旅館やっててそこの御曹司。以上。
生徒会書記の火羽佳芽斗[ひわ かがと]。
赤銅色の髪に橙色の目。武士の家系で剣道がめっちゃ強い。母方が書道家の家系なので字もめっちゃ上手い。たぶん無愛想おれおれ系武闘派男子枠。以上。
あと、いま大声で私を呼んだのこいつ。
特待生の木山和竹[きやま かずたけ]。
深緑の髪に萌葱色の目。家があまり裕福ではないので「偉くなって両親の助けになりたい!」と七ノ耀学園の特待生制度を知り、無事試験に受かって入学。ヒロインと同じクラス。おそらく人懐っこい元気な子犬系男子枠。以上。
そして生徒会長である月流院一等星。
壮観だな~~。攻略対象だけあってみーんな顔がいい。そんな顔良し男子たちから軽蔑の目で見下ろされてる私って端から見たらすごくかわいそうじゃない?
だって私なーーーーんにもやってないんですよ。ごくふつうに授業を受けてごくふつうにお友だちと交流してるだけなんですよ。
睨み合ってる私たちのせいで講堂の空気はどんどん重くなっていく。集められた生徒の皆さん申し訳ありません……
そんな空気に不釣り合いな、かわいらしい擬音がつきそうな感じで攻略対象メンズの後ろからそっと顔を覗かせたのは一人の女子生徒。
亜麻色の髪に桜色の目という大変愛らしい見た目の彼女は、なるほど、誰もが納得のヒロインである。
たしか名前は変換出来るけど名字は『日生』で固定だったな。しかも顔有りヒロインなので恋愛シミュレーションとは言ってもどちらかといえば『カプ萌え』派や『ヒロインを幸せにしたい』派の人たち向けだったのかもしれない。
ってまた話それたわ。
「…『七ノ耀学園至上の淑女』といわれる水ヶ原嬢がイジメを……?」
「信じられない……」
「でも、あの日生さんが言うのならば…本当なのかも……」
ここで冒頭の説明を思い出してほしい。
『ラスピー』はジャンルとしては恋愛シミュレーションなのだが謎解き要素もあるゲームなのだ。
学園で流れる七つの噂を元に事件が起こり、それを解決していくのだがその糸口を掴むためのシステムが『ヒロインがもつ特殊能力』というわけだ。
【物の記憶を読み取る力】
それがヒロインの特殊能力である。
例えば、落ちているハンカチを拾ったとしよう。そのハンカチの記憶を読み取ることで持ち主がわかるのだ。
他にも、どこに置いたか忘れてしまった物を持ち主の記憶から読み取ってその場所を見つけることができる。
つまり人から物に関する記憶を、物から人に関する記憶を読み取ることができる能力なのだ。
幼い頃に発現したその能力は両親に「信頼できる人以外には絶対に知られてはいけない」と諭され、本人も隠そうとするのだが根が良い子のヒロインはその能力で失くし物や落とし物で困っている人を助けていた。
その際、「記憶力がいいから」「話を聞いてピンと来たから」という言い訳で誤魔化していたのでヒロインの能力は『この子めちゃくちゃ頭いいじゃん』という解釈によってバレることはなかった。
ある日、懐中時計を落として困っている老人をいつものように助けたらじつはその老人は七ノ耀学園の理事長で、さらにヒロインの特殊能力にも気づいた理事長はヒロインの両親からも事情を聞き、「よければうちの学園に来ないか?」と多少の免除を得たことでヒロインはこの学園に入学するのである。
さらに驚くことに、なんと攻略対象の中にも特殊能力をもつ人間が存在するのだ!
なのでどの攻略対象でも話の大筋としては「同じ苦しみをもつ者同士だ」と心の内を分かち合うパターンと「きみの能力を利用しようとする悪い奴から守るぜ」パターンに分かれる。なんとも王道でわかりやすい展開だ。
そしてこのヒロインの特殊能力によって『ヒロインの教科書や私物を捨てたり燃やしたりした犯人』と『帳簿を誤魔化して生徒会の予算を横領していた犯人』が水ヶ原紗々雨だと判明するのだ。
この糾弾イベントはいわばクライマックスなのである。
でもじつはここまでの話はまだ序章で、次章から本筋の学園七不思議事件を解いていくことになる。
俺たちの冒険はこれからだ!私の学園生活は終わりそうだ!!いや終わってたまるか。
「…ずいぶんと大仰な場を用意したようですが、私には一体何のことだがさっぱりわかりません。」
さっきも言ったけど『私』はまったく事件に関与していない。
家柄も良いわけでもなく、大して優秀でもないヒロインがこの学園にいることに不満をおぼえた『水ヶ原紗々雨』はヒロインを辞めさせるために嫌がらせをしていたのだが、『私』はヒロインの事情を知っているし嫌がらせするような性根でもないためヒロインとはほとんど関わりもなく日々を過ごしていた。
あと両親に頼めば必要な物は買ってくれたし頼まなくても「紗々雨に似合いそうな洋服買ってきちゃった♡」「紗々雨ちゃんの好きなお菓子だよ♡」といろいろ貢がれ…贈られた。だから横領なんてするわけないし、そもそもそんな悪事に手を染めたくもない。
ていうかゲームのことを思い出したときに水ヶ原紗々雨のことも彼女の顛末も思い出したけど「まぁ、私と紗々雨は性格も思考も違うし大丈夫でしょ!」と特に気にしてなかった。
なのにゲームどおりに糾弾イベントが始まったので内心冷や汗が止まらない。そりゃ現実逃避でいろいろ回想なんかもしちゃうわけですよ。いや本当にどういうこと~~~???
「君は知らないと思うが、日生は推理力が優れている。その彼女が水ヶ原嬢を犯人だと言っているんだ。」
「(あー、ヒロインはまだこの時点では能力のこと隠してるんだっけ……)」
「証拠である裏帳簿も見つけたし、あとはお前が白状するだけだ!だいたい裏帳簿なんて生徒会会計であるお前にしか出来ない芸当だろ!」
「めめみにやったことについてもきちんと謝罪しろよな!」
「先ほども言いましたけど、私はそのどちらもやってませんし関与もしてません。」
マジでイジメも横領も知らないの!!! ていうかヒロインの子がめめみって名前なのもいま知ったわ!!
え?誰か私を陥れようとしてる?なんで?人当たり良く過ごしてきたと思うんだけど?…はっ!好かれているように見えてじつは嫉妬で逆恨みされてるってパターンのやつ……?
もうゲームの紗々雨みたいに取り乱して大声でも上げてやろうかと思った時だった。
「紗々雨。」
低く落ち着いた声が壇上から落とされた。
重たかった空気が不思議と澄んでいくようだった。先ほどまでのピリピリとしたものとは違って、凛と背筋を伸ばしたくなるようなキリッとした緊張感が講堂を包んだ。
「お前は本当にやっていないんだな?」
「はい。」
銀鼠色の瞳が私を射貫いた。
……やっぱたまんねぇなぁ!!一等星様の刺すような目は!!
じつは二次元における私の嗜好は『人を殺せるような眼』である。
威圧、蔑み、憎悪…とにかく『眼が強い』キャラが大好きなのだ。
『ラスピー』も謎解き要素がおもしろそうだと思って始めたのだが、この『眼』がクリティカルヒットで私は一等星様に落ちた。
さっきまで不本意だと思っていた糾弾イベントも途端に私にとってのご褒美タイムとなった。
元々の目つきも鋭い一等星様であるが、許婚として良好な関係を築いているのでそんな人を恐怖させる目を向けられたことはいない。でも一度でいいから一等星様の強い視線を真っ正面から浴びてみたかったのだ。
なので思いがけず訪れたチャンスに興奮が祭りを始めてわっしょいカーニバルなのだがそんな心の昂りを悟られるわけにはいかない……と組むように握った両手に力をこめた。
そのせいでふるふると震えだした私の手を見た生徒は恐ろしさで震えていると勘違いした。
「水ヶ原様、あんなに震えて…お可哀想に……」
「あの目に睨まれれば誰だって恐ろしく思うさ……」
「でも『凍て月の眼は嘘を見通す』というし、水ヶ原様も本当のことを話すしかないのでは……?」
ここでおさらい。攻略対象にも特殊能力持ちがいる、と言ったのを覚えているかな?
その能力持ちの一人が月流院一等星なのである。
一等星様は学園内で『凍て月の眼は嘘を見通す』と囁かれていて嘘を暴く力を持っているのではと思われているが、ちょっと違う。
正しくは『嘘を吐いている人間の恐怖心を増幅させる』能力である。
本当のことを隠しているという意識に対してじわじわと恐怖を募らせていき、増していく恐怖から逃れるためには本当のことを話すしかない。でないと止まらない恐怖でやがて発狂してしまうのだ。
「まぁ、本人が嘘だと自覚していなければ通用しないのが難点だ」と苦笑していたいつかの一等星様を思い出した。
「紗々雨は嘘を吐いていない。」
「な!?」
「おい月流院、水ヶ原が許婚だからって庇ってるんじゃないだろうな!?」
「っ…、でも確かに水ヶ原さんはっ!」
反論しようとしたヒロインに一等星様の鋭い視線が向けられた。
「君が嘘を吐いていないという根拠は?」
「え……?」
「大体、紗々雨が一連の犯人だというのも憶測でしかなかったはずだ。生徒会室に呼び出して聞き取りをすればいい話なのに講堂に全生徒を集めてまで問い詰めるとはどういう了見だ?」
一等星様の言葉に、演壇に並んでいた面々は怯んだり気まずそうな顔で視線を逸らしたりしている。
「(…もしかして、一等星様は私の味方……?)」
序章の終わりまでの間に攻略対象全員の好感度が一定まで上がるようになっている。だからこの糾弾イベントでは攻略対象たちは当然ヒロインの味方だ。
それに本来の『水ヶ原紗々雨』は高飛車でワガママな性格なので攻略対象たちからの印象がよろしくないこともあって『紗々雨』はまさに四面楚歌だった。
「紗々雨はやっていない。それに、そんな悪事を働くような人間じゃない。」
一等星様が、『私』を信じてくれている。
能力で嘘は言ってないと分かるとはいえ、ちゃんと私自身を信じていているのだ。
その事実に胸の奥からじわじわとあたたかさが広がっていく。それと共に顔もじわじわ熱くなっていく。
「もう一度聞くが、君は嘘を吐いていないのか?日生めめみ。」
「ひっ…!」
一等星様が冷たい眼でヒロインを見下ろした。
すると、ヒロインの顔が青くなり次第にカタカタと震えだした。
「ごめんなさ…っ…だって、糾弾イベントは全員の好感度が上げられるから……!じゃないと攻略が…全キャラの好感度上げないと七ノ耀先生ルートにいけないし…っ!」
「……詳しい話は生徒会室で聞く。これで解散だ。各自教室に戻ってくれ。わざわざすまなかった。」
生徒たちは一等星様の掛け声でそれぞれ講堂から退出した。
私も教室に戻ろうとしたところで、一等星様が駆け寄ってきた。
「大丈夫か、紗々雨。」
「はい。一等星様がきちんと対処してくれましたから。あと…私を信じてくれて、ありがとうございました。」
「何年の付き合いだと思っている。」
「ふふ、そうですね。」
「紗々雨。」
ふと私の名前を呼んだ一等星様は、さっきまでの強い眼はどこにいってしまったのか銀鼠色の目をうろうろと頼りなげに彷徨わせていた。
やがて意を決したように、真剣な眼で私を見た。
「俺は、お前が思っている以上にお前のことをちゃんと見ているつもりだ。そしてこれからもお前を信じ続ける。だから、どうかお前にも俺を信じていてほしいんだ。」
近くを通りすぎた女生徒たちが小さく歓喜の声を上げた。
再び私の顔に熱が集まっていく。
「…私も……私も、ちゃんとあなたという人間を見ていますよ。そして信じています。これからも、ずっと……」
講堂が拍手に包まれた。
みんなありがとう。でもちょっと恥ずかしいわ……だってこれ公開告白じゃない!?
許婚として過ごしてきたけど改めてこうやって想いを伝えられると…うおぉ…うれしさと恥ずかしさの波状攻撃で私のテンションがおかしくなっていく!!
けっきょく、ヒロインのイジメは自作自演だった。いまは二週間の停学で女子寮に籠っている。
横領事件については、犯人は生徒会顧問の教師だった。
裏帳簿を見つけた時にも居合わせており、焦った教師はヒロインに「成績について便宜を図るから黙っていてほしい」と密かに持ちかけた。ゲームどおりに糾弾イベントを起こしたかったらしいヒロインも好都合と考えてそれに応じたとのことだった。
「(ゲームでは『紗々雨』が教師に共犯を持ちかけて横領してたんだよね。一等星様のためって理由だったけど……)」
ヒロインへのイジメも、学園に場違いなヒロインがいることが気にくわなかったこともあるが一等星様とヒロインが仲良さそうにしているところ見て嫉妬し、そしてプライドが傷つけられたと思ったのも理由だった。
たぶん、『紗々雨』の一等星様への愛に嘘はなかったんだろうな……
そして、私を糾弾した男子三人はこのような騒ぎを起こしたことと、よく調べもせずに無実の生徒を貶めたという責任で三日間の停学と反省文の提出という処分が下された。
ヒロインに騙されていたことを考慮され、この程度の罰で済んだらしい。
「すまなかったな、紗々雨。あの時言っていたように、事前に生徒会室に呼び出して話を聞くべきだとあいつらに言ったんだが、頑なに紗々雨が犯人だから全校生徒の前で罪を明らかにするべきだって詰められて “なんでそこまで紗々雨が悪者にされなきゃならないんだ” って腹が立って……逆に全生徒の前で紗々雨は無実だと証明したかったんだ。」
「…本当はあの時、私はどうなってしまうんだと思っていたんですけど……一等星様が信じてくれていると分かった途端すごくうれしくて、そして安心したんです。」
じつは出会った当初、一等星様のことはただ「推しじゃん!!」としか思っていなかった。
推しの許婚とか最高かよウヒョヒョヒョイ!…ってちょっと待て一等星様の許婚の水ヶ原……あっ!?!?!?といろいろ思い出した時も、とにかく波風立たせずに過ごすことしか考えてなかった。
でも一等星様と交流していくうちに『ゲームの世界のキャラクター』ではなく、『月流院一等星』と向き合うようになった。
あの本が面白かった、あそこのケーキが美味しかったから今度いっしょに食べに行こう、そんな何気ない会話が楽しかった。
羽子板やカルタなどの遊びで負けた時は「もう一回!」と互いに熱くなったことも楽しかった。
その積み重ねがいつの間にかかけがえのない、大事なものになっていった。
「紗々雨。」
「はい。」
「許婚として顔を合わせた時のことを覚えているか?」
あの日、自分たち大人だけで盛り上がってることに気づいた月流院夫妻が一等星様に「紗々雨さんにお庭を案内してあげたら?」と提案し、それに応えるようにうちの両親も「お言葉に甘えたら?」と快く私を送り出した。
庭に植えられた色とりどりの花をひとつひとつ一等星様に教えてもらいながら歩いて、そのあとたどり着いた池で二人でしばらく鯉を眺めた。
すると、一等星様がふいに「おれの目はこわいだろ。」と呟いた。
「同世代の子どもに散々言われて泣かれてきたから、きっと紗々雨も怖がってると思った。でも、紗々雨はきょとんとしながら「わたしは好きですよ」と言ったんだ。」
「お恥ずかしい……」
「俺は嬉しかった。初めて、ちゃんと目を合わせることができる友だちができたと思った。」
たしかに、いま思えば許婚というよりも遊び友達って感じに過ごしてきたもんなぁ。
まぁ、まだ幼い子どもに「将来この子と結婚するんだよ」って言ってもよくわかんないよな。
「でも、だんだんと紗々雨のことが大切になっていって…ずっと一緒にいたいって思うようになった。」
「一等星様……」
「改めて言わせてくれ。紗々雨、この先もずっと俺の隣にいてほしい。」
「私も、一等星様の隣で一緒に未来を歩いて行きたいです。」
銀鼠色の目が私を優しく見つめた。
……ああ。私いま、すごく幸せだなぁ。
「ところで紗々雨。最近、学園で妙な噂が流れてるんだが知っているか?『黒狐からの手紙』が届くと不運に見舞われるとか何とか……」
「……ん?」
あれ?もしかして七不思議事件始まる感じ???
終
--------
【出せなかった残りの攻略対象について】
金菊 十綺[かなぎく とき]
金髪、山吹色の目。特殊能力持ち2人目。
「へぇ、キミはおもしろい子だね。」って言うタイプの気だるげミステリアス系男子枠。
序章終わりまでに隠しアイテムを見つけることがルート解放の条件。
七ノ耀 司[しちのよう つかさ]
黒髪、黒目。理事長の孫で英語教師。
サポートキャラと思わせておいてなんと攻略対象。しかしルート解放条件がとても厳しい。さらに3人目の特殊能力持ちでもある。
面倒見がいいお兄さん兼大人の包容力をこれでもかと見せつけてくる系男子枠。
「他推しなのに心が持ってかれそうになった……」という感想が後を絶たない。
「おもしろかったよー」って方はいいねボタンを押していただけると励みになります