5話
いつからだろう。
誰とも話そうとしなくなったのは……。
「霧島〜、きりしまく〜ん?」
「うわぁっ………えっと、なんだっけ?」
「うわぁ〜、俺と話しててそれ〜?まぁいいけどさ〜、
ちょっぴり寂しいなぁ〜」
「ご…ごめん………ちょっと考え事してて……」
「なら、今日は寄り道しよっか?学校終わったらこの
周辺を案内してよ!」
「うん、それでいいなら…分かった」
上田の案内をかって出ると、帰りに久々の買い食いを
しながら話した。
「なんでいつも皆遠巻きなんだろうな〜霧島って結構
話しやすいじゃん?」
「あ………それは……」
話しずらい話題だった。
だけど、誰かから聞くより自分で言ったほうがいいと
覚悟を決めると、つい先日の事故の事をはなした。
「なんだよそれ!霧島のせいじゃないじゃん?」
「うん……そうなんだけど……」
「そう、思い詰めんなって!俺がついてるじゃん?これ
からはずっと一緒だよ!」
『これからはずっと一緒だよ』
その言葉が一瞬忘れかけていた記憶を思い出した気がした。
「ずっと……」
「あぁ、俺ら友達だろ?」
「う…うん。そうだね…」
初めて出来た友達。
それが雅人には一番嬉しかった。
もちろん家に帰れば、いつも通りの日常が待っていた。
「ちょっと、遅くまで何やってたのよ?」
母親代わりのキャサリンは今日も機嫌が悪かった。
「さっき直人さんから電話があって、あんたに話があるっ
て言うのに。部屋にもいないんだから……風呂に入って
るって言っておいたわ。また電話があったらちゃんと合
わせてよね!私の生活がかかってるんだからっ!」
「…はい」
この人にとっては、自分はどうでもいい存在なのだ。
なら、いっそ消えてくれればいいのに…。
一応母親という事になってはいるが実際はただの他人だ。
父親の直人でさえも、年に数回会うだけの存在だ。
一番近くにいるはずの兄は最近ではガラの悪い連中と連ん
でいるせいで帰りも遅い。
キャサリンに言われた通りに電話を取るとさっきまでお風
呂に入っていたと弁明したのだった。
「そうか、なら仕方がないな、だが私の時間を無駄にする
な!いいな?」
「はい…………」
「本題に入るが、勉学以外にも経営学も学んでもらう。明日
から先生が家に来るようにしたから帰りはすぐに帰ってき
なさい。質問は受け付けない。全てを完璧にこなしたなら
質問に答えるとしよう。以上だ」
まるで業務連絡のような会話が終わるとすぐに切られたのだ
った。
忙しい人であるのは知っていたが、これは息子に話す内容で
はなかった。
「今日も疲れた……上田……綾くんか………」
一緒に話していると安心する気持ちになった。
それがなんなのか未だわからないけど、息苦しい毎日からや
っと見つけたオアシスのような存在だった。
だが、明日からそんな時間さえも奪われてしまう。
「もっと彼と話したかったな〜」
目を瞑ると彼の事を考えていた。
すると、するりと誰かに抱きしめられる気がした。
『大丈夫だよ。雅人くん、僕がずーっと一緒だよ?必ず護っ
てあげる』
毎度見る夢に中で温かい温もりに触れた気がしたのだった。