46話
戻ってきた上田に雅人は何も言えなかった。
あっという間に追い返してくれた事には感謝しているし、
感心した。
自分にはあんな風に言葉巧みに追い返す事が出来るだろう
か?
人と話すのが苦手な上に、強度に緊張してしまう。
上田が横にいる時はそうでもないが。
一人の時は特にテンパってしまう。
「綾はすごいなぁ〜」
「どうして?」
「だって、僕にできない事を簡単にやってくれるんだもん」
「そんな事はないさ、俺は……雅人が居るからここに居られ
るんだからさ…」
「…?」
「ほら、しっかり寝ないと朝起きられないよ?」
「うん、おやすみ」
「ゆっくり休んで、おやすみ」
布団に潜り込むと横に温もりがあるというのは、自然と安心
するものだった。
目を瞑ったまま、じっとしていると布団の中でもぞもぞと動
く感じがした。
何かと思いならがそのままじっとしていると抱き寄せられて
いることに気づく。
男同士だし、別に問題はないのだが、ただ小っ恥ずかしい。
恥ずかしいのに……この温かさが気持ちいいと思えてくる。
眠ってからいつもこんな風に抱かれていたのか…。
最近よく眠れると思ったけど、こんな子供がしてもらうよう
な事を、友人にさせていたなんて。
上から小声で何か話している。
「ごめんね……ごめん……雅人……」
何に謝っているのだろう。
自分にとは何かが違う気がする。
では、何に対してなのだろう。
「綾……僕を置いてかないで……一人に……しないで」
「えっ、起きてたの?」
「……」
黙ると、沈黙の後、ため息が漏れた。
「寝言かよ………、雅人を一人になんてしないよ。俺が
ついてる。雅人が無意識にやってるんだろうけど…
俺は嬉しかったんだからな…おやすみ」
おでこにキスされると、そのまま寝息が聞こえて来たの
だった。
上田の言葉がどうにも腑に落ちない。
雅人が無意識にやっている事、それが上田に関係してい
る事。
それも嬉しい事?
よく見るのは昔の夢だった。
よく一緒に遊んでいた友人との思い出。
そこでは毎日が楽しかった。
母親に冷たくされようと、兄に無視されようと、父親は
ほとんど家におらず、将来の事だけ押し付けてくる。
そんな毎日に嫌気がさしたとしても、彼といる時は楽し
かった。
まだ子供のままで、自分らしくいられた。
そんな時間だったのだ。
あの日、自分の代わりに真っ赤に染まった彼を見て、意識
を失った。
その日から彼の夢をよく見るようになった。
顔のない、友人の存在を。
どうにも記憶から消えてしまった少年。
大事な友人だったはずなのに……。
写真は愚か、何もなかった。
だから思い出す事ができなかったのだ。




