40話
部屋の中にいると思っていた雅人は、庭に出ていた。
「どうしたの?何かあった?」
「う…うん、さっき大きな音がしたけど……何かあっ
たの?」
「どうして俺に聞くの?外にいたのは雅人の方でしょ」
「さっき綾は外に出てたよね?」
「さっき?何言ってるの?俺はずっと家にいたよ?さぁ、
冷えるから家に入ろう。もうすぐ期末試験もあるし風
邪でも引いたら大変だからね」
「うん……ありがとう」
上田綾は雅人にはとても優しい。
昔もずっとそうだった。
寂しい時には側にいてくれたし、一人で辛い時にも部屋に
勝手に入ってきては励ましてくれた。
だから、信じたくない。
さっきの言葉を聞きたくはなかった。
綾がいきなり出て行ったのを付けるように雅人も追った。
そこで会っていたのは八橋健二だった。
まだ恨んでいると思っていたが、そうじゃなかった。
聞こえてきたのは、上田里江さんのことだった。
昔お手伝いさんとして一緒に暮らしていた人で、綾の母親
だった。
なのに、彼女が死んだ?
息子の死から耐えられず?
後を追ったと……?
なら、今の綾は誰?
昔のことも知っていて、こんなに側にいても違和感がな
いのに?
側にいるだけで落ち着く。
これは事実だった。
でも、もう死んでいる?
信じがたい事だった。それを聞いてから、いても立って
もいられず家に帰ってきてしまった。
ただ落ち着かない気持ちを抑えられず庭で蹲った。
どうしたらいい?
なんて言えばいい?
遠くで大きな音がした。
事故だろうか……
しばらくして救急車とパトカーのサイレンが聞こえてき
た。
多分問い詰めちゃいけない気がする。
もし、問い詰めてそれが真実だとしたら……。
僕はどうしたらいい?
綾を再び失うのだろうか?
そんな事、耐えられない。
また一人になるのは辛いし、きっとダメになる。
だったらそのままでいい。
そばにいてくれるなら、知らないままで……。
にっこりと笑うと家から出て雅人を探す綾に見つけて
もらう。
そして一緒に家の中に戻ったのだった。
「どうして外にいたの?」
「ちょっと空気を吸いたくなって…綾はどうしたの?
慌ててたみたいだけど?」
「いや、なんでもないよ。暖かくしないと風邪ひくよ?」
優しくしてくれる綾が大事だ。
まだ手放したくない。
いや、これからもずっと側にいて欲しい。
そう考えてしまっていたのだった。




