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君は死なない  作者: 秋元智也
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4話

帰宅するとすぐに使用人が出迎えてくれた。


「大丈夫でしたか?雅人坊ちゃん…」


「問題ない……部屋で着替えてから行くよ」


「では、すぐに温めてまいります」


余分な事は話さない。

それが出来る使用人の鉄則だった。


雅人が気を許せる場所などどこにもない。

夢の中で、唯一彼の側だけだった。


「今日も会えるといいな……」


昔から雅人の周りでは事故が多かった。

それは中学に上がる前からずっとだったし、気にも

留めてもいなかった。

それがいつ、自分にも降りかかるかと考えた事もあ

ったけど、今では深く考えるのをやめた。


母が目の前で自分を殺そうとした事も、そのまま自

殺した時も…。

きっと、何か理由があったのだろう。


それを邪推するつもりはないが、少し寂しかった。

田舎で一緒に暮らしていた時は、こんな事はなかっ

たし、凄く優しい母と兄だったはずだ。


この家に来てから、全てが変わってしまったのだ。

父だと名乗り出た男を雅人が連れて帰るまでは。





当時、小学生だった雅人は道に迷ったという男性に

あった。


「ちょっといいかい?この辺に菜津という名の女性

 はいるかい?」


「菜津?お母さんと一緒の名前だ!」


「それは偶然だね?おじさんをその人に合わせてく

 れないかい?」


「ん〜〜……いいよ。でも、今は仕事でいないから

 朝でもいい?」


その日はパートで、ギリギリまで働くとそのまま夜

の居酒屋に勤めていた。


田舎で夜のバイトといえば、一軒しかない。

そこには毎晩男達が集ってどんちゃん騒ぎをしてい

て、子供は絶対に来てはいけないと言われていた。


それを守るように雅人は家でその人と待っていた。

兄もその人の話を真剣に聞いていた。


都会の人で、いろんな事を知っていた。

そして母が帰ってきて、驚く姿を初めて目の当たりに

したのだった。


「どうして………直人さん………なんで来たの?」


「君を迎えに来たんだ。俺の子供は雅人の方だね?」


後から聞いた話ではすでに旦那がいる家庭の菜津に一目

惚れした職場の主が無理矢理手を出した挙句子供を授か

ったので、逃げたという。


一人目の永人は前の旦那の子供。

そして二人目の雅人は、直人の子供だという。


屋敷に引っ越して来てから、母の菜津はおかしくなって

いった。

ぶつぶつと何かを言うと、奇声を上げて怯える始末。


たまに絵本を持って母の寝室へと訪れたが、笑い返して

くれる母はもういなくなっていたのだった。


「お母さん……?」


「直人さん……いやっ……嫌よ、来ないで………子供なん

 て産むんじゃなかった………あんたなんて……」


「お母さんっ!お母さんってば……」


「触らないで!穢らわしい……」


バチンッと手を振り払うと追い出させてしまった。

その時の怯えるような母を雅人は忘れられなかった。


腕には赤い痕が幾重にも残っていた。

何が母をあそこまで怯えさせたのだろうか…。


「はぁ〜……」


『まーくん、おいでよ。一緒に遊ぼ!』


「うん、今行く〜」


いつも側にいてくれた誰か。

その日も、夕暮れまで一緒にいたのだった。


今は思い出すことさえできない唯一の親友の思い出

だった。




次の日には学校で黙祷を捧げる事になった。


雅人の目の前で鉢植えが落ちてきて重症だった生徒が

昨日亡くなったという。

これには、学校全体が驚かされた事故だった。


あまりに目撃者が多かったせいもあり、偶然と断言で

きたからだ。


そんな最中、転校生がやってきていた。


「このタイミングで転校してきた上田綾くんだ、皆仲

 良くしてやってくれよ。えーっと、席は……あそこ

 が空いているな。横は霧島だな、しっかり教えてや

 れよ!」


「こんにちわ。俺、昨日この街に来たんだ。上田綾。

 よろしくな」


「あぁ、うん…よろしく……」


にっこり笑うと雅人の横に座った。


女子が話したそうにこちらをチラチラ見てくる。

が、先日の事件依頼、雅人に声をかける生徒はいない。


「えーっと、移動教室だから、場所わかる?」


「いや、分からないから案内頼めるかな?」


「……えーっと、女子が案内したそうだけど、僕でい

 いの?」


「何を言ってるの?君、変わってるね〜。俺は霧島く

 んと仲良くなりたいんだよ。これからも隣の席の縁

 としてよろしく」


手を差し出されると、握らないわけにはいかなかった。

どこか懐かしいような、親しみやすい彼に雅人は少し

人と話す楽しさを知った気がしたのだった。

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