39話
八橋は諦めていなかった。
まだ家の周り何度も見張りながら、カメラにもチラリと
写っていた。
「全く、懲りないやつだな〜………いっそ殺すか……」
勝手について出た言葉をかき消すと、上田は外に出た。
「またですか…」
「それはこっちの話ですよ?これ以上雅人に付き纏うよ
うなら……」
「そう言えば上田綾って名前でしたよね?貴方昔の使用
人の息子って言ってましたっけ?」
「それがなに?」
「だったら、その上田里江という人物はご存知ですか?」
「何を言ってるんだ。それは俺の母の名前に……」
「そうですよね?もう2年になりますね〜、息子が死んで
後を追ったそうです」
「………何が言いたいか分からないですが?」
「では、上田里江の息子の上田綾は今、どこに?」
「……」
「火葬されて墓の中にいるのが普通ですよね?いつも不思
議だったんですよ〜、貴方は僕がここに来る時は必ずと
言っていいほどすぐに見つけてくる。どうにもおかしい
んです、見つけるのが早すぎるんじゃないかって……」
「本当に迷惑な奴だ……俺が雅人の側にいる事のどこがい
けないんだ?あいつが望むから、俺は……どうして皆邪魔
をするんだ………どうして………」
ただ、あいつを守りたいだけなのに……
どうして皆邪魔をするんだっ!
ただ可愛い弟を守ろうとしているだけなのに……
どうして。
どうして…なんだ!
上田の中に押し込められていたドス黒いものが湧き出てき
たように感じた。
そしてそれは溢れ出すと止まらない。
目の前の男を飲み込むように辺りを沈んだ空気にさせる。
『自分なんて…いらないんだ……いっそ死んじゃえばいい』
心に直接囁きかける声。
さっきまで正気だった八橋がぶつぶつと言葉を漏らしな
がら車通りの多い方へと歩いていく。
今まで隠れていたあの部屋で見た女が出てきた。
八橋を揺すって何かを言っている。
そんな事どうでもいい。
『一緒に死ねばいいのに……。』
呟く言葉に、意識が朦朧とする。
そして、大きな衝撃音とブレーキ音が重なった。
事故が起きたらしい。
うっすらと見えた場面には大きく吹き飛ばされて動かなく
なる人の姿があった。
運転手が出てきて頭を抑えている。
スマホを取り出すとどこかに電話していた。
「俺の邪魔するから…だから死んで当然なんだ……」
上田はすぐに家に入ると雅人を探す。
今のを見ていなかったか!
これからも、ずっと自分を呼んでくれるだろうか?
これまで通りに、接してくれるだろうか……と。




