38話
雅人の疑問は、実際に見た事で解決してしまった。
聞きたい事とは、自分に見えていないモノの事を尋ねる
つもりだった。
だが、実際に見てしまうと、なんとも言えない気持ちに
なった。
「怖いか?」
「なんだろう……僕はずっと守られてきたんだなって……
それなのに、僕は綾を殺されたくないって思ってしまっ
たんだ」
「別に不思議じゃないよ。最初見た時は俺も驚いたしな」
「そうなの?僕はこれからどうしたらいいの……」
「どうもないくてもいい。ただ、普通にしていればいい
んだよ。あいつの事は何も悩む必要はないんだ」
「でも……あいつが人殺しを……」
雅人は握りしめる手が震えているのに気づいた。
自分の事なのに、どうしようもない。
この惨めさが悔しくてたまらなかった。
「大丈夫だよ。俺がついてる。昔もそうだっただろう?」
綾の手が伸びてきてギュッと抱きしめられると、ホッとす
る。
いつも、こうやって側にいるだけで落ち着けた。
一人で寂しい日だって、父に冷たくされ、母には嫌悪の目
で見られていた時も………
「昔もこうやって綾の側にいたら落ち着いていられたっけ」
「思い出したのか?」
「うん、ちょっとだけ……」
そういうと、うとうととしてきたのか、力が抜けると眠り
についたのだった。
「おやすみ…雅人」
人の温もりは緊張した心を溶かしてくれる効果があると聞
く。
だったら、少しだけでも穏やかに寝かせてやりたい。
せめて、自分で立って歩いていけるその日まで。
ずっと側で見守り続けよう。
自分が居なくても平気になるまでは……。
上田は雅人につきっきりになった。
学校でも、会社でも、家でも……
雅人にはありがたかったけど、それで本当にいいのだろう
か?
「あのさ、綾は今のままでいいの?ずっと僕に付き添って
れてるけど……やりたい事とかないの?」
「あぁ、大丈夫だよ。俺は雅人と一緒にいるのが楽しいから」
「そうなんだ……もし、もしだよ、僕の秘書になってくれた
らって思うんだけど……」
「いいね〜、俺秘書目指そっかな〜。そしたらずっと側にい
られるからな〜、雅人がどうしても一緒にいて欲しいって
言ってくれたらいいなぁ〜」
わざとらしく言うと、少し俯く雅人が小声で漏らす。
「……て欲しい…………側に、ずっといて欲しい……」
「分かった。俺でよければよろしくな!」
「うん♪」
上田の言葉に雅人はどんなに救われたか分からなかった。
昔も、今も、ずっと助けられている気がする。
こんなに大事にされたて、気にならないわけがなかった。
昔は自分の命すら危なかったのだ。
夢で毎回見た光景は、雅人を庇って真っ赤に血で染まって
いく。
それがどんなに怖かったか…。
動かなくなって、意識が切れた瞬間、もうダメだって諦め
てしまっていた。
毎回毎回見せられる同じ場面。
息を引き取るようで、怖かった。
でも生きててくれた。
それだけで本当によかったと思う。
今、どんな事を起こっていても、それでも一人じゃなけれ
ば平気だった。




